第九話 図鑑
迷宮城の広場で、他の冒険者たちに混ざりながら、皮鎧の止め具を外して脱いでいく。皮鎧の下は、キルティング加工された布鎧を上下に着ているだけという、何ともしまらない見た目ではあるが、この布の鎧がなければ太ももの肉を食いちぎられていたかもしれないと思うと、有難味さえ感じる。
あの大ムカデは俺の太ももとすね、どちらも右足を執拗に狙ってきたので、皮鎧も布の鎧も、右足の部分だけべっとりと血に塗れていた。
魔法の詠唱に失敗すると、昇華しきれなかったマナが漏れ出して、ぷすーっと間抜けな音がする。多くの冒険者の中で、初歩の作水の魔法を失敗するのは恥ずかしいものがあったが、三度目で成功し、指先からだばだばと出てくる水で、右足と鎧の血糊を洗い流す。
他の冒険者も、この広場を同じような目的で使っているようで、盛大に水流を出して鎧を洗ったり、頭からかぶって血を流している姿があちこちで見受けられる。 広場の床はわずかに傾斜を付けて作られているようで、あちこちに設けられた、蓋のついた床穴に、流した水が吸い込まれていく造りになっていた。
冒険から無事に帰ってこれた喜びからか、一仕事終えた、と言わんばかりの笑顔を見せている冒険者が多い。そういった人たちは仲間と談笑しているが、一方では、沈痛な表情で黙々と鎧を洗っているパーティもある。
戦果が上がらなかったのか、最悪の場合、仲間を失ったのかもしれない。人間模様も様々だ。
迷宮帰りの足で、すぐに皮鎧の修復に行こうと思いもしたが、やはり宿に帰ることにした。疲れていて新しい用事を増やすのが億劫だったという理由もあるが、考える時間が欲しかったのである。
体液のついたナマモノを持ち歩くのは嫌だったので、大ムカデの甲殻を売りに、商業ギルドには寄ることにした。
商業ギルドは、冒険者ギルドの本部の隣にある。何十個もの大きな天幕が張られていて、その一つ一つが買い取り場のようだ。広場の入り口には、素材の種類ごとに、当日の買取価格を表示した看板がずらりと並ぶ。
大ムカデの甲殻の買取値段は――500ゴルドである。
安い宿に、一泊もできやしない、軽めに一食すれば消えてしまう額だ。
買取値段の看板によると、大ネズミの牙など、低階層で出没する魔物の素材は一つ10ゴルドにしかならないようなものもあるようだ。背中のバックパックに丸めて入れてある大ムカデの甲殻が、ずしりと重みを増したような気がした。恐らく、かさばる甲殻の運搬代も含まれているのだろう。
まだ日が高いせいで、広場の客はまばらで、査定待ちと思われる人の列も短かった。それでも結構な盛況である。甲殻類を扱っている天幕に並び、受付のおっさんに今日の獲物を見せる。
「大ムカデの甲殻か、小振りだな。傷は少ないし剥ぎ取り方もきれいなもんだが、査定は下がって400ゴルドだ。馴染みの防具屋があるなら持ち込むって選択肢もあるがどうする?」
「いや、とっとと手放したい。買い取ってくれ」
「新人に見えるが、聞き分けがいいな、話がわかる奴は好きだぜ。相場よりも値段が下がると文句を言い出す奴もいるんだが。まあこっちも仕事だ、好きで新人の獲物を値引いてるわけじゃねえんだ、ほら、400ゴルドだ」
四枚の小銀貨を受け取る。これが、命を賭けて迷宮に潜った、初日の成果だった。
「新人っぽい奴が来たら、必ず伝えることにしてる。おまえ、訓示を聞くのは初めてか?」
「ああ」
「そうか。ムカデの殻がきれいに剥ぎ取られてたから、誰かにもう教わってるかもしれんが、一応な。表に出てる買取の査定額は、完品、いわば欠点のない状態での値段だ。慣れてない剥ぎ取り方で傷がつくと、査定額も減るし、値段が付かなくなる場合もある。交渉程度なら聞いてやらんこともないが、基本的には査定額について商業ギルドの職員に文句を言うのはご法度だ。いちいち聞いてたら広場が回らんからな。素材によっては、しっかりした知識で剥ぎ取らないとダメになりやすいものもある。皮類が特に顕著だな。剥ぎ取り方のコツみたいなものが、広場の奥にある商業ギルドの本部に貼りだしてある。魔物の種類を知るにも役立つからな、まだ行ってなければ一度は行っておくといい」
「わかった。近々見にいくさ」
小銀貨四枚を握りしめ、商業ギルドの広場を後にする。
軽くなったバックパックと、一まとめにした皮鎧を抱えて、「鯨の胃袋亭」まで戻ってきた。酒場は今日も盛況で、昼間だというのに笑い声が絶えなかった。
酒場には入らず、階段を上がって自分の部屋に辿りつくと、布鎧を脱ぎ、右足の血糊をていねいに拭ってから、俺はベッドに倒れこんだ。重力から解き放たれた俺は、天井を見ながら、大きく息をついた。
「しんどかったな――!」
ようやく初日の冒険が終わったのだ。手足をのびのびとくつろがせ、解放感に浸る。死ぬような目に遭って、ようやく稼いだ400ゴルド、小銀貨四枚。初めて自分で稼いだ金は、ずしりと重い。
割に合わない、とは思わなかった。初めて迷宮に潜ったのだ、ベテラン冒険者のように稼げないのは当たり前だった。
「最初から日銭を稼げるわけないしな。下積みの時代はそんなもんだ」
迷宮の入り口付近であっさり食っていけるなら、誰だって冒険者になるに違いない。冒険に慣れ、今よりも深い階層で、危なげなく魔物を倒せるようになって、初めてそれなりの報酬が手に入るのだろう。
(当面の目標は、冒険で得た利益だけで食っていけるようになることだな)
そうなると、別の問題が浮かび上がってくる。チェルージュからもらった魔石代を食いつぶす前に、俺が一人前の冒険者になれるか、という点だ。
長剣やら皮鎧やらを買ったせいで、俺がバンクに預けている金は残り600,000ゴルドを切っている。手持ちの200,000ゴルドだけでは足りず、一度バンクに現金を下ろしに行ったのだ。
(魔石、使っちまうか――?)
現金以外に、1,000,000ゴルド分、預けてある魔石である。あれを使えば、大幅にレベルが上がる。5,000ゴルドで1レベル上がるのが相場ということは、もし仮に預けてある魔石をすべて吸収すれば、俺は一気に200レベル上げることができる。低階層なら、危なげなく狩りができるようになるだろう。
メリットは、すぐに日銭が稼げる階層に行けるかもしれない、という点。
デメリットは、命綱でもある貯金が減ること、金に頼った成長であるため、経験を積めないこと。
しばらく考えて、俺は、魔石には手を出さないことにした。
効率を考えると、すぐに強くなって、もう少し深い階層で経験を積む方がいいかもしれない。しかし、それは俺のためにはならないだろうし、何より武器防具の問題がある。
鉄の剣を含む、皮鎧のような、駆け出しの冒険者の装備でも、合計で200,000ゴルドを超える。今よりも良い装備を揃えるなら、その値段の跳ね上がり具合によっては手が出ない。
そして、武器防具が壊れてしまえば、新たに買いなおす必要がある。予備の金は必要だった。
(なるほど、他人の身包み剥ごうって奴が出てくるわけだ)
新人冒険者の最大の壁は、一人前になるまで食いつなぐことなのかもしれない。
俺のように、スタート地点が恵まれている奴ばかりではない。他の仕事をしながら、余裕ができ次第こつこつ迷宮に潜っている奴もいるだろう。
その中で、何十万もする装備を抱いたまま迷宮内で死んでいる他人がいる。装備を剥いで売った金で魔石を吸収すれば強くなれるし、普通に自分で使ってもいい。
しかも、死者から装備を頂いてしまうのは、犯罪ではない。
消極的とはいえ、他人が死ぬように手を回して、楽をして稼ごうという奴が現れるのも納得である。人間は聖人君子ではないのだ。
(よっ、と)
寝転がったまま、短剣で指先を傷つけ、血の紋章を起動させる。今回の冒険で、俺のステータスはどう更新されたかを調べるためだ。念じながら指先で紋章を撫で、すべてのスキルを表示させる。
【名前】ジル・パウエル
【年齢】16
【所属ギルド】なし
【犯罪歴】0件
【未済犯罪】0件
【レベル】230
【最大MP】7
【腕力】9
【敏捷】6
【精神】8
『戦闘術』
戦術(1.2)
斬術(0.6)
刺突術(0.8)
『探索術』
追跡(0.2)
気配探知(0.3)
『魔術』
魔法(0.2)
マナ回復(7.6)
魔法抵抗(1.2)
『耐性』
痛覚耐性(2.8)
魅了耐性(100.0)
『朱姫の加護』
「んお?」
思わず飛び起きて紋章をまじまじと確認してしまった。
レベルが上がっていないのはいい。迷宮の入り口にいる魔物を一匹倒したぐらいで上がるほど甘い世界じゃないのは覚悟してる。戦術や斬術など、戦いでスキルが向上したのもいい。微々たるものではあるが、確かな進歩だ。
(問題は――これ、だよな)
『耐性』
痛覚耐性 2.8
魅了耐性 100.0
この二つの項目である。痛覚耐性というのは、そのまま痛みに対する強さを表しているのだろう。痛覚耐性が上がった原因は、大ムカデの咬みつきだろうか?冒険を繰り返していけば、痛みに強くなれるのかもしれない。正直なところ、あの痛みは思わず弱音を吐きたくなるぐらいにはきつかったので、これは朗報だ。
もう一つの、魅了耐性が100.0というのは何なのだろう。
ディノ青年いわく、スキルの上限値は100.0らしい。つまり俺は、魅了系の呪文に対して、最大値の耐性があるということになる。恐らくはこのスキルも、魅了系の魔法や攻撃を食らっていないと上がらない類のものであるからして、心当たりは一つしかない。
チェルージュの加護である。
俺の瞳は、自分の物であるのと同時に、チェルージュの瞳でもある。推測するに、吸血鬼であるチェルージュには魅了の魔法が効かず、彼女と魔力回路が繋がっている俺は魅了を無効化できる、ということなのではないだろうか。
チェルージュに使われた一回の魅了だけで、最大値まで耐性が付くわけがないから、やはりこの魅了耐性というスキルは、彼女の加護によってもたらされたものだと考えるべきだろう。
魅了耐性100.0というスキルで、どれほど魅了に耐えることができるかは不明だが、かなりの抵抗力があるに違いなかった。
(ラッキー)
マナの最大値が一割減るだけの加護かと思っていたら、予想外の副産物である。
他には、マナ回復というスキルが高めなのが気になった。
これも、初期値は0.0だったのだろう。痛い思いをすれば痛覚耐性が上がるなど、他のスキルが、名前通りの行動をすることで上がるようになっているのだとすれば、魔法を数えるほどしか使っていない俺がこれだけスキルが上がっているのは不可解である。マナが減っていなければ回復するも何もない。
つまり原因は、消去法でチェルージュの加護のせいだ。
チェルージュの瞳の維持に、俺のマナが使われている。
俺のマナ残量が90%を超えた分が、瞳に送られているのだとすれば、このマナ回復スキルの値も納得がいく。残りの10%を回復させようとマナ回復スキルが働き、しかし永久に瞳に吸われ続けていくので、いつまでもマナを回復し続ける、という扱いになってスキルが成長しているのではないだろうか。
試しに、火を三回ほど発動してみる。二回成功した。MPは、7から4に減っている。一回の詠唱で1使う計算だ。
その後、じっと待っていたが、三十分ほど経つと、MPが1回復した。MPを3回復し終わった時点で、マナ回復スキルが0.1上がり、7.7になったことも付け加えておく。
(割合回復なのか?)
俺のMPが低すぎるので、1ずつしかMPが回復していかないが、魔術師の冒険者だと、これだけしかマナが回復しないのは遅すぎる。強大な魔法を使ったはいいが、次に使うまでに一時間もかけていたら冒険にならない。
ディノ青年の話では、かなり多くの魔術師が冒険者としてやっていけているようなので――
頭の中でいろいろと計算して、導き出された結論は、こうだ。
マナ回復スキルが100の人物が、0まで失ったMPを全回復させるのに必要な時間が、1000秒である。
マナ回復スキルが25の人物だったら、恐らくは4000秒。
マナ回復スキルが10の人物だったら、10000秒が、MPを全回復させるのに必要な時間なのだ。
この計算式に当てはめるなら、俺はマナ回復スキルが7.7であるので、0からMPを全回復させるのに必要な時間が、およそ13000秒ということになる。
チェルージュに一割持っていかれているが、ステータスの精神が最大MPを表すのであれば、俺の最大MPは8である。13000÷8は、1625。つまり、俺は27分5秒ごとに、MPが1回復する。
これならば、俺のMPが三十分ほどに1ずつ回復していく理由に説明が付く。
かなり長いこと考えこんでしまったが、一応の結論は導き出せたようで、俺はすっきりした気分になった。後半の、マナ回復スキルの考察は無駄だったような気がしなくもないが、知らないよりは知っておいた方がいいだろう。
晴れやかな気分でベッドに横たわっていると、まだ夕暮れ時でしかないというのに、睡魔が襲ってきた。
少し早いが、今日はもう寝てしまおう。夜になる前から寝るなど自堕落だと一瞬思ったが、布団の心地よさには勝てなかった。
早寝をしたせいか、翌日は中途半端な時間に目が覚めてしまった。早朝と呼ぶにはまだ早い深夜である。冒険者ギルドや商業ギルドが一日中開いているかがわからなかったので、せめて夜が明けるまでは時間を潰すことにする。
まずは洗濯をしよう。別の部屋に住んでいる人や、奥の部屋で寝ているドミニカ夫妻を起こさないように足音を殺す。
ここ鯨の胃袋亭の二階、宿屋となっているスペースの一室に、補洗機と呼ばれる木の箱が据えつけてある。
補洗機に汚れた衣類と布の鎧を入れ、魔法を使って水を満たす。水に溶かすと泡の出る粉が常備されているので、それを少量掬って入れる。蓋を閉め、補洗機の腹に付いている取っ手のようなものを、足で踏む。そうすると、補洗機の中に通された棒によって中の水が攪拌され、衣類が洗濯できるというわけだ。
泡油樹と呼ばれる迷宮の植物から取れる油で作るらしいが、この泡の出る粉は万能だ。少々のしみや汚れぐらいならあっという間に落とすし、歯みがきにも使えるらしい。もちろん身体を洗うのにも使える。そういえば昨日は、風呂屋を探そうと思って忘れていた。
ドミニカから勧められて買った、細く削った木に、先端に固い馬の毛を取り付けた歯ブラシで歯を磨く。魔法スキルの向上にもなるので、なるべく魔法で作った水で、うがいなど身の周りのことはすませるようにしている。
今はマナを結構使ってしまったので回復待ちになるが、余ってきたら、歩きながらでもできる火の魔法の練習をする予定だ。
部屋に戻り、×字に組まれた木製のハンガーに洗濯物を干したら、今度は武器と鎧のお手入れである。皮鎧が水洗いできるかはわからなかったので、表面の血糊をふたたび丁寧に拭う。沁みこんでしまったものはどうしようもないが、皮だけあってかなり水分を弾くので、破れてしまったところ以外は概ね元の見た目を取り戻したといえよう。
長剣も鞘から抜き、大ムカデの身体を斬った脂の曇りを布で拭っていく。輝きは取り戻したが、小さな刃こぼれがあるのは否めなかった。指でなぞってみたが、切れ味がだいぶ落ちている。
そうこうしているうちに夜が明けたので、猫目灯の明かりを消し、宿を出る。今日は迷宮に潜る予定はないので、普段着である。バックバックに皮鎧を入れ、長剣は腰にぶら下げているが。
職人街の店はまだ開いているところは少なかった。ダグラスの鍛冶屋も、向かいの仕立屋も閉まっていたので、先に商業ギルドに向かう。広場は早朝特有の、準備時間のような喧騒の中にあったが、ギルド自体はもう開いているらしい。
広場をスルーし、奥の商業ギルド本部に入っていく。冒険者ギルドほどに広くはないが、じゅうぶん大きな役所だった。
受付のお姉さんに、剥ぎ取り方を学びたい旨を伝えると、低階層までの魔物が載っている図鑑を勧められた。20,000ゴルドするらしい。
「剥ぎ取り方だけなら貼り出してあるけれど、図鑑には魔物の生態とかも書いてあるから、是非買うのをお勧めするわ」
多少迷ったが、それだけの価値はあるとお姉さんに太鼓判を押されたので、20000ゴルドを即金で支払う。隅の机に案内され、二十枚ほどにまとめられた紙の束を渡された。
紙の束といっても、薄い上等なものではなく、手触りも多少ざらざらしていて、くすんだ色をしていた。版画のように、文字を彫った木版にインクをつけ、紙に押し付けて作った冊子のようである。
受付のお姉さんに話を聞くと、執筆者を一躍有名人へと押し上げた、魔物シリーズ図鑑という高級本の、序盤だけを印刷したものらしい。彼女いわく、冒険者を志すちびっ子達垂涎の、迷宮の魔物の生態を記した図鑑であり、魔物のイラストや、戦うときの注意点をコミカルな文体で記したそれは、引退した上級冒険者が監督をして作ったらしく、万人受けする作りとは裏腹に、迷宮の挑戦に最も役立つ書物との名も高い、そうだ。
受付のお姉さんに礼を言い、魔物シリーズ図鑑を印刷した冊子を早速読んでみる。出没する階層ごとに分けられ、魔物の名前や特徴が書かれており、素材の剥ぎ取り方や戦うときの注意点もそこに記載されていた。
紙の一枚ごとに一体の魔物が、全身像のイラスト付きで載っている。
タイトルなのだろうか、一枚の紙ごとに見出しがついていて、その独特な文体は執筆者の性格を色濃く漂わせている。
ランク1(低階層)
「吸血蝙蝠」:吸血鬼の変化した姿とされるが、ぶっちゃけまったく関係なくて当の吸血鬼たちはお怒りである。
「大ムカデ」:単なる巨大なムカデだが、侮るなかれ。同一サイズで自然界の覇者だった生命力と大アゴの殺傷力は非常に高い。毒は退化した模様。
「大ネズミ」:初心者の最初の標的。動きが素早く、発達した前歯は鋲皮鎧ぐらいならば貫く鋭さを持つ。
「甲殻蟲」:非戦闘的で雑食、他のモンスターの食べカスなどを漁って生きる。甲殻が廉価で性能のいい防具になるが、ゴキブリ装備などと言われ評価は悪い。
「矮人」:はぐれや雑用などの下っ端はこのランクに位置する。最上位種はランク3のカテゴリーになることも。
「豚人」:はぐれや雑用などの下っ端はこのランクに位置するが、群れを形成する危険もあって同一ランクではかなり上位。
「酸水母」:人からも魔物からも嫌われる不定形生物。金属武器で殴るのはやめよう。天井に張り付くのが好きなので案外死傷率が高い。
「恐狼」:ランク1の最上位に位置する、獰猛な狼。魔力を取り込んで強化されたその身体能力は高い。
「屍肉」:最も弱い不死族。動きは遅いが、力は強いので油断していると食われるよ。
ランク2(中階層)
「魔角牛」:魔力の篭った野菜を好んで食う。強靭な肉体から生み出される突進力と生命力は半端ない。肉が物凄い美味。
「肉蟲」:ぶっちゃけでっかいミミズ。雑食なので脅威。皮膚でマナを感知して獲物を襲う。こいつの排泄した土は栄養価豊富だったりする。
「痺毒蛾」:周囲に燐粉をまき、結界を縮めていくように獲物を追い詰める。永眠粉という強烈な麻痺毒の素材となる。
「大毒蛙」:成体は1メートルにもなる巨大なカエル。ヘビのような原色の斑模様で、見た目がとても毒々しい。猛毒の舌と唾液が武器。
「妖精族」:彼らは草食で好奇心が強く、知性もあるため話し合い次第では敵ではなくなる。縄張り意識が強いので接近時は注意。
「羽人」:肉食で、群れを形成して狩りをする知能がある。群れの規模次第ではかなりの難敵に。羽が良い素材になる。
「蜥蜴人」:武具を装備する知性を持ち、群れで行動する。上位固体はランク3以上になることも。
「首狩兎」:知名度が非常に高い洞窟の狩人。上位種の暗殺兎はランク3に入る。
「骸骨剣士、死霊」:場所次第で大量発生する不死族。後者は物理攻撃の効きが悪い。多くの前衛冒険者が、彼らのせいでパーティを組む決意をする。
「邪教徒」:迷宮に自然発生する人間の魔物。身体能力は低いが、高い魔力を持つ。知性は低い。見た目に戸惑って先制攻撃を許すと被害甚大。
「毒大蜘蛛」:毒性のある縦糸を使い、攻撃したり罠を張ったりする狡猾なモンスター。毒のない横糸は素材になる。
「魔血蜂」:高い統率力と素早さ、麻痺性の毒を使い獲物を仕留める迷宮の軍団。彼らを統率する女王はランク3。
「矮魔」:ランク2帯にしては魔法を主に使う。身体能力は低いが知性はそこそこあり、駆け出し冒険者の難敵である。
「異常茸」:個体によって違うが、睡眠や麻痺など遅効性の毒を吐き、身動きできなくなった獲物に這い寄り捕食する。擬態が可能。
「これは圧巻だな」
確かにこれは、序盤を印刷しただけとはいえ、20,000ゴルド分の価値がある。
それぞれの魔物が得意とする攻撃や、戦うときの注意点、素材の剥ぎ取り方のコツまで、びっしりと紙の一枚一枚に書き込まれている。記述にはところどころユーモアが混ざっており、執筆者の陽気な性格が窺われた。
魔物の情報、注意点、剥ぎ取り方のコツ。俺にとって必要なものがこの冊子に詰まっているように思われた。
今すぐにも読み始めたいところだが、すさまじく時間を取ることは明らかだったので、バックパックに大事にしまう。宿に戻ってからゆっくり読むとしよう。
次の目的地は、装備の修復である。商業ギルドを後にしてダグラスの店に向かうと、もう店を開けていた。
「おいーっす」
「おう、昨日の小僧か。どうした?」
店の入り口をくぐると、木箱に積まれた刀剣類とにらめっこをしていたダグラスが出迎えてくれた。
「昨日の長剣の研ぎを頼みたい。結構刃こぼれしちまってな」
「なにい? 昨日の今日で刃こぼれするとか、どんな使い方したんだ。見せてみろ」
「ちょっと必死でな、夢中で振り回したもんで痛みが早かったんだと思う」
俺は鞘から抜いて、長剣をダグラスに手渡した。色々な角度から、目を細めるようにして長剣を調べはじめる。
「お粗末な腕前で痛みが早かったんだろうが、粗略に扱ったって感じじゃあねえな。かなり堅いものを斬ろうとした跡がある。刃こぼれはその時に出来たんだろう、まあこれなら仕方あるめえ。雑に扱って壊れたならはり倒してたところだが」
「人生最初に遭遇した魔物が、大ムカデの小さい奴でな。細かいこと考えながら剣振ってる余裕はなかったんだ」
肩をすくめていうと、ダグラスも驚いた表情である。
「よく生きてたな。腕力値9でこの長剣だと、ろくに攻撃が通りゃしなかったろ」
「小さい個体だって通りがかった冒険者が言ってたから、生命力が弱かったんじゃないかな? 甲殻と甲殻の間に長剣を刺して、ムカデがひっくり返ったら滅多切りにしたんだ。だいぶ痛い目にはあったが」
「そりゃあまだ運が良かったな。成体の大ムカデなら、ちょっと刻んだぐらいじゃ怯みはしねえ。剣刺されようが襲ってくるからな、あいつら。まあいい、そこで待ってろ。すぐに研いでやる」
「その長剣に文句があるわけじゃないんだが、もっといい剣だったらあの甲殻も斬れたりするのか?」
「ああ。迷宮産の、マナを帯びた鉱石素材からなら、もっと切れ味のいい剣が打てる。インゴットの加工が大変で、剣として打つのにより大きな炉と燃料が必要だから、値段はかなり張るが。鉱石素材が手に入ったなら、ここに持ってくればインゴットに加工してやるぞ。手間賃は取るがな。何も持ち込まずに作るよりは安く作れる」
「どんな鉱石があるんだ? あと、それで一本剣作ったら、どれくらいの値段になる?」
「加工が簡単な順に、鈍魔鋼、魔鋼、緑魔鋼、黄魔鋼、赤魔鋼の順だな。うちの炉で加工できるのは緑魔鋼までだ。師匠のとこなら赤魔鋼までできるだろうが。値段はそうだな、持ち込みなしで、鈍魔鋼で長剣作ったら一本500,000ゴルドってとこだな。素材が一つ上になるたびに、五倍ぐらい値段が上がると思っておけ。一度だけ師匠に炉を借りて、黄魔鋼の斧槍を特注で作ったことがあるが、そん時は一億もらった」
「武器一本に一億出せる冒険者がいるのか、すげえもんだ」
「この鉄の長剣だって、初心者が使うにゃ過ぎた武器だ。黄魔鋼の剣になると、ただ机に置いただけで切れ込みが入ったりする。下手に振り回すだけで危ないんだ、お前にゃまだ早い。ほら、出来たぞ」
研がれて、輝きを取り戻した長剣を受け取る。
「いい武器に頼って俺強いって増長するほどゲスじゃねえよ。んじゃありがとよおっちゃん、代金いくらだ?」
「タダだ。お前がまともな使い方をしてる限りは何度だろうと直してやる。うちの店の売りだ」
「ありがたいな。んじゃまた来るわ」
ダグラスの店を後にし、今度は向かいの仕立屋に入る。店主に食いちぎられた皮鎧を見せると、やはりここでも驚かれた。
余り皮を上から当てて縫うだけで済むので、ここでも修理代金はいらないらしい。ものの数分で、つぎはぎの応急処置を施された皮鎧が仕上がった。礼を言い、店を出る。
昼過ぎになって、俺は再び迷宮に潜る決意をした。
低級回復薬など、消耗品の補充もしてあり、商業ギルドで買った冊子を穴が開くまで熟読もした。低階層なら、どんな魔物が出てきても名前、戦い方、気をつける点、剥ぎ取り方がわかるまでに暗記した。
連日、迷宮にもぐる冒険者というのは珍しいらしい。心身の回復に時間を空けることが普通だとか。
別に焦っているわけではないが、のんびり構えている余裕がないこともまた事実である。未だ俺は、一人で食っていけるだけの力量を備えているわけではないのだ。一日一日、貯蓄は減っていく。
ベテラン冒険者なら、一度迷宮に潜ったら、数日休むこともよくあるらしいが、今の俺にそんな余裕はない。しばらくは戦うことだ。ひたすら戦って、技量を上げる。のんびりするのはそれからだ。
迷宮に足を踏み入れると、やはりひんやりとした空気が俺を出迎える。
今日の目標は戦闘に慣れることだ。そしてそれ以上に、生きて帰ることだった。
あの冊子――魔物シリーズ図鑑――を熟読してわかったことは、低階層でも普通に死ねる、ということだ。地下一階から十階ぐらいまでが低階層の扱いで紹介されていたが、群れを成す魔物も多いため、不意に出くわしたら逃げられずに死にかねない。
不用意に姿を出さないこと、曲がり角では、道の先に魔物がいないか、顔だけ出して様子を見ることを今日は徹底している。
どうも、魔物に出くわさないからといって調子に乗って進んでいたせいで、前回の俺は地下三~四階まで行ってしまっていたようなのだ。明確に境目の表示がない、坂道で構成されたダンジョンの陥穽と言える。命の危険がないとディノ青年に忠告された、地下二階という限度を超えて進んでしまっていたのだ。
地下に進みすぎないように、一定時間降り続けたら、今度は少し坂道を登る。そうやって調整をすることを心がける。
二時間ほどで、大ネズミを三匹と、矮人を一匹狩った。大ムカデと対峙したときの恐怖に比べれば、どうということはなかった。大きな傷も受けず、普通に斬りあっているだけで倒せた。
階層が浅いせいか、どの魔物も、今のところ一匹ずつでしか出没しない。
矮人と戦うときは、少々ひやりとする場面もあった。
身長こそ俺の胸元までしかなく、手にした武器も木の幹を削ったような棍棒だったが、俺にとっては動きが早く、わずかな知性もあるのか、何度も棍棒を振り上げて奇声を上げ、フェイントをかけつつ一気に飛び掛ってくるといった戦法を使ってきたのだ。何とか避けることには成功したのだが、反撃に振った俺の長剣もよけられてしまい、お互いに決め手がないまま武器を振り回しあうことになってしまった。
決め手は、棍棒で殴りかかってきたのを避け、前蹴りを叩き込んで体勢を崩したことだ。よろめく矮人の足を斬って動きを止め、倒れこんだところを、長剣で腹を刺し貫く。苦し紛れに振り回した棍棒が俺の兜にあたり、意識を飛ばしかけたが、何とか剣をえぐってとどめを刺す。
結果だけ見れば大きな傷もなく倒すことができたが、もし棍棒の一撃で気絶してしまっていたらと思うと背筋が寒くなった。「頭だけは頑丈に守っとけ」というダグラスの助言に、内心で感謝する。
体感で三十分に一度、水を出して布で剣を拭う。どうしても生物の脂で切れ味が落ちるからだ。定期的に魔法を使うのは、魔法スキルの練習も兼ねている。
小腹が空いたので、見通しのいい通路に座り込んで保存食も食った。
紙包みを開けると、干し肉と乾パン、葡萄色のジャムが入っていた。干し肉もパンも、凶悪に固い。ジャムを付けてかじるというより、歯で削るように食べなければならないほど堅いパンだ。干し肉もパンも、端っこを少し歯でちぎりとっては、長時間咀嚼してやわらかくして食べる。
なるほど、あたためて食う保存食をみな買い求めるのもわかるというものだ。
保存食を食い終わってから、迷宮の探索を続行する。
甲殻蟲は素早く動き回って逃げるので、俺では攻撃することができない。弓矢か、魔法の遠距離攻撃が必要だろう。
できるだけ、足音を殺しながら進む。その成果があったか、曲がり角から次の通路をこっそりと覗いた俺は、二匹の矮人が角を曲がった先にいることに先んじて気づけたのだ。矮人がこちらに気づいた様子はない。
ひとしきり考えて――考えるまでもない。逃げよう。
一体で苦戦する矮人が二匹。これはかなりの苦戦が予想される。仮に勇気を振り絞って彼らを二匹とも殺せたところで、大した意味はないのだ。渡る必要のない危ない橋なら、渡らずに引き返すべきだ。
矮人程度の雑魚なら、倒せないと恥ずかしい。そういう浅はかな考えが、一番まずい。
(百回に一度しか負けない戦闘でも、逃げるべきです。百回に一度、命を落とすのですから)
脳裏にディノ青年の助言が蘇る。俺は足音を殺したまま、そろりそろりとその場を立ち去った。気づかれなかったようだ。近くで戦闘の音を出してしまうと、先ほどの二匹の矮人に気づかれてしまうかもしれないと思い、極力戦闘は避けるよう、曲がり角などでは念入りにあたりを見回した。
矮人の縄張りは、概ね地下三階からである。どうやら俺は気づかないうちに、地下二階よりも深く潜ってしまったらしい。明確に階段などで階層が区切られているわけではないから、このように気づかず深部に潜ってしまうことになるのだ。
(慣れないうちは、出口を確認しながら狩りをしよう)
階層の目安となるのは、俺にとって、出現する魔物の種類と、出口の二つしかない。凶悪な魔物に出会ってからでは遅いのだ。出口周辺で狩りをするという選択肢は、合理的といえた。
だからこそ、衛兵がわざわざ、他の冒険者の迷惑になるから出入り口に溜まるなと警告をしてきているのだろう。
出口からある程度近く、それでも少し深部に踏み入った地域。そのあたりを根城に、俺はしばらくの間、狩りを続けた。
大ネズミ相手には、苦戦することはなくなった。いくら素早くとも、急に横に動いたりはしない。まっすぐ走ってきて、飛び掛ってくるだけだ。こちらは上段に剣を構えて、接近にあわせて振り下ろしてやればいい。
最初は何度か斬りつける必要があったが、今は頭部に斬撃を与え、一撃でしとめることもできるようになった。
屍肉とも戦った。表面が腐っているのかどろどろと溶けた、人の形をした気持ちの悪い生物である。主な攻撃手段はその肉体らしく、うめき声をあげながら腕を突き出して接近してくる。
大ムカデなどに比べると動きがとてものろのろとしていたので、剣の間合いに入ったとき、伸ばしてきた腕を斬った。かなり力を込めた、鋭い斬撃だったと自分では思っていたが、屍肉の腕を斬りとばすには至らず、半ば斬ったにすぎない。
腐った肉体にマナを溜め込んでいて、防御力が高いのだろうか。
いきなり飛びつかれると押し倒されるかもしれないので、慎重に間合いを計りながら、伸ばしてきた手を斬る。何回か斬り、両腕を切り飛ばして掴まれる危険性をなくしてから、すれ違いざまに足を切って転倒させた。
噛み付こうと倒れこんできたが避けるのはたやすく、腕がないために起き上がれずにもがいている屍肉の後頭部に長剣を突き刺す。
人型の魔物を殺した罪悪感のようなものは全くない。所詮魔物なのだから。それに、他人を殺して荷物を奪おうとする冒険者もいるらしいから、相手が人だからといって躊躇っているわけにはいかないのだ。
やらなければやられる、この短期間で覚えた迷宮の数少ない真理の一つだ。
仮に向こうが襲ってきたのなら、相手が人であっても俺は剣を振るうことができるだろう。
迷宮の外に出ると、あたりはすっかり暗かった。昼過ぎに迷宮に潜ったことを考えると、数時間は経っているだろう。
今日の戦果は、大ネズミ11、矮人1、屍人2である。
どれも金になる素材を落とさない魔物だったので、戦利品は魔石だけだ。大ネズミの牙は一つ10ゴルドにはなるとのことだったが、剥ぎ取るのはやめておいた。時間の無駄に思えたからだ。
贅沢なように聞こえるかもしれないが、俺の主目的は自分の強化である。小銭を拾って討伐数が減るのは本末転倒だ。
皮鎧の方は目立った傷はないので、明日はまた、長剣をダグラスに見てもらおう。
宿に戻り、普段着に着替えると、俺は再び冒険者ギルドの方へと歩いていった。
ディノ青年と話したいこともあったが、今日の目的は風呂である。いくら身体を湯と布で拭いているとはいえ、連日の迷宮探索で汗まみれになった身体は、そろそろ風呂を求めていた。頭もそろそろかゆくなってきているのだ。
風呂屋はすぐに見つかった。血臭を漂わせた男たちが山ほどいるのはちょっと閉口したが、中に入って湯気の漂う匂いを嗅ぐと、わくわくと心が躍りだす。
服を着たまま、並んだ個室の空き部屋に入るシステムのようである。
個室は鍵をかけられ、中には脱いだ衣類を入れるらしい、蓋つきのカゴと、泡油樹の粉入れだけが置かれている。
(なるほど、風呂というより、シャワーのような)
天井付近には鉄の管のようなものが通されていて、垂れている紐を引っ張ると、管の蓋が外れて温水が落ちてくる仕組みだ。ちなみに浴槽はない。
だばだばと落ちてくる水流を頭から浴び、心地よいあたたかさに満足する。
全身を濡らしたところで、泡油樹の粉を頭にふりかけ、泡立つ頭をわしゃわしゃと洗う。三日分の汚れをかき出しているようで、大変気持ちがいい。
ぬかりなくもってきた布にも粉をふりかけ、全身をくまなく洗う。仕上げに、再度、紐を引っ張って、温水を頭から浴びる。全身の汚れが洗い流された気持ちよさに感動した。風呂というのはいいものだ。
風呂上がりでほっこりした後は宿に戻り、鯨の胃袋亭の一階、酒場に顔を出す。
「おや、いらっしゃい。冒険者稼業はどうだい?」
「きついけど楽しいよ。たまに死にそうになるけど。今日のお勧めは?」
「侯爵芋の揚げたのが今日の目玉さ。もう少しで品切れになるとこだったんだ」
「そいつは運がいいや。それと、腸詰め(ソーセージ)の盛り合わせ。あと、麦酒を一本」
「あっはっは、頼むものがすっかり酒飲みさね。あんた、一丁頼むよ」
冷えた麦酒の樽を、やはりデコピンで吹っ飛ばして蓋を開けるドミニカ。この豪快さも俺は好きだった。
運ばれてきた侯爵芋は、表面がカリッと揚げられていて、中は湯気が出るほどアツアツのほくほくだ。それだけではなく、まろやかな芋のうまみがぎゅっと詰まっていて、口の中の幸せが止まらない。
侯爵芋のフライを頬張り、表面をパリッパリに焼いた腸詰めを噛み締め、キンキンに冷えた麦酒を一気に喉に流し込む。
「くあーっ!」
口元を拭きながら、半分ほど残った麦酒の樽を机にどすんと置く。
「相変わらずいい顔して飲むなあ兄ちゃん」
「いやあ、正直たまらんっすわ」
前回もいた酔っ払いのおっさん達と談笑しながら、今日の夜は更けていく。
冒険者稼業は課題こそ残るものの、今のところ順調、飯もうまい、風呂にはいけるし寝るところだってちゃんとある。言うことのない日々である。




