呉
日本人はイベントごとが大好きです。
クリスマスもお正月もバレンタインも。
外国のお国事情関係なく、良さげなイベントは直ぐに自国に吸収します。
八百屋ならぬ八百万の神様信仰が根底にあるからでしょうか。
皆違って皆いい。
だから、皆のいいとこを合わせよう。
ということでしょうか。
さて、ヨーロッパのとある戦地で生まれた僕は旅に旅して、現在、日本にいます。
何故日本なのか、ですか?
“皆違って皆いい”らしいので、悪魔の僕でもいいですよねと思いながら日本に逃げてきました。
逃げていたのは“皆違って……嗚呼、何て珍しいんだ!”な思想持ちの人間に飼われていたのですが、嫌気が差したからです。
日本という地は本当に雑多していて、住み心地が他よりはいいです。
魔獣も探せば至るところにいるし、古来から日本に住み着く“あやかし”の類いの魔獣もいます。
魔法使いとそうでない者との折り合いもまぁまぁ付いているようですし。
結論として、悪魔の僕にとって、日本は住みやすいということです。
日本の雑多具合はヒトや魔獣に限らず、お仕事にも及ぶようです。
用心屋のキャッチフレーズは『用心棒貸し出します』で、チンピラから暗殺者、あらゆるものから顧客を護衛する用心棒を貸しています。
この日本に用心棒を求める人なんているのかと言えば……います。
世の中、物騒ですね。
しかし、用心屋店長の洸兄ちゃんが最初のお客様を慎重に選んだ為、以降のお客様は品とマナーのある方々ばかりです。きちんと報酬も払ってくださいますし、成りが子供の僕でも実力を見せれば、お客様にお仕事を任して頂けます。
さてさて、話は変わって、今日はクリスマスです。
この僕でもびっくりですが、用心屋には“サンタさん”が来ます。
勿論、サンタの存在を僕は信じていません。
だって、サンタは大抵、一家のお父さんが演じているだけだと知っているからです。
だから、御独りの寂しい方々は一人クリスマスパーティーをして一人ショッピングするのです。勿論、サンタは来ません。
サンタ役がいませんから。
でも、用心屋はサンタ役がいないのに、皆にプレゼントが届きます。
サンタは自分にプレゼントは配らないから、皆にプレゼント届くということは用心屋には第三者――本物のサンタが来て皆にプレゼントを配っているということです。
というわけで、今年こそは夜更かしして本物のサンタさんを劇写します。
カチャ……。
悪魔の僕は夜目が利きます。
しかし、別に悪魔は夜行性というわけではありませんよ。そういう特性があるだけです。
サンタさんは数多の文献通り、真っ赤なコスチュームで、現れました。
おや、髭がない。若作りでしょうか。
スマートで黒髪で和風で、葵兄ちゃん似です。新発見。
文献もあてになりませんね。
「というより………………葵兄ちゃんじゃないですか……」
「あ、起こしちゃった?ごめん。これ、プレゼント。机の上置いとくからね」
葵兄ちゃんには「自分はサンタだ」と少しは僕を否定してほしかったですよ。
「あの…………一つ聞せてください。葵兄ちゃんは自分にプレゼント届けてるんですか?」
「あ、俺が洸祈にプレゼント配って、洸祈は俺に配ってるんだ。わざわざね。何でだろう」
首を傾げた葵兄ちゃん。
でも、洸兄ちゃんはサンタを分かっている。サンタの心得をマスターしています。
「サンタにとってのプレゼントは子供の喜ぶ顔だからですよ」
だから、自分にプレゼントは配らない。サンタへのプレゼントは配れるものじゃないから。
「そっか。じゃあ、まだ早いから寝ててね」
まぁ、僕にとってのサンタさんは家族でいいです。
僕に笑顔をくれる家族でいいです。
「おやすみ、呉。メリークリスマス」
「おやすみなさい、葵兄ちゃん」
僕は二度寝することにしました。




