千里
クリスマスイベを予告通り投稿♪
まぁ、かなりギリギリですが……。
連載になってますが、すぐに次を投稿します(*´ω`)
「クリスマスイブが……キター!!!!!!」
午前の5時。
まだ外は真っ暗な時間だと言うのに、
室内の気温が馬鹿に下がっている時間だと言うのに、
洸は今日も朝からハイテンションだった。
「クリスマスイブが……キ――」
「ストップ!何で2回も言うのさ!」
「大事なことだからに決まってるだろ?」
大事なことだから12月の朝5時に勢いよく僕の部屋のドアを開けて仁王立ちで叫ぶわけか。
それも2回も。
それも僕の睡眠を邪魔して。
「もー……何で僕?普通、あおか琉雨ちゃんに言うんじゃないの?」
大抵、洸の突飛な思い付きは、葵か琉雨ちゃんのワンクッションを置いて、僕の耳に届くのだ。直接僕に言うなんて………………怪しい。
洸が寝癖を標準装備し、ちゃんちゃんこにマフラーと手袋を特殊装備しているなど、嫌な予感しかないのだ。
気持ち悪い笑顔付きだし。
「え?だって、葵はそこにいるじゃん」
「……………………そうだね」
僕と同じで裸のまま、僕の隣で寝てるんだった。
「何で葵がいること知ってるの?」
昨晩は洸が大好きな刑事ドラマを見終えて寝るまで、僕は甘々コーヒーで頑張って寝ないよう耐え、打ち合わせ通りに僕の部屋に来た葵を抱いたのだ。
だから、ここに葵がいることを洸は知らなかったはずだけど……。
「だって、俺達は壁を挟んでベッドが隣だろ?」
ですよねぇ……。
「洸、あおと部屋交替してよ」
そしたら、1週間に2回以下から1週間に7回以上は葵と事情ができるのに。
「7回以上は盛んすぎだろ。お前は発情期の犬なのか?あと、お前はともかく、葵の方は仕事に支障が出るからダメ」
「ちょっと、僕の心の声にまでツッコミ入れないでよ!あと、僕は犬じゃないけど発情期だから!若いの!ピチピチなの!因みにあおは食べ頃なの!旬なの!ちょー美味しいの!」
と、自分で言いながら昨晩食べたブリ鍋を思い出した。
最初、スーパーの安売りで買ったブリを琉雨ちゃんはブリ大根にする予定だったが、大根が嫌いな僕がおねだりしたら鍋にしてくれたのだ。勿論、鍋には大根の短冊切りも入っていたが、厚みのある大根を食べるよりはずっとマシだ。それに、鍋は温かい。
鍋の醍醐味の雑炊なんてもう……溶き卵が掛かった部分を洸と取り合いした程だ。
「鍋は本当に旨かったな……。でも、今日はクリスマスイブだぞ!チキンとかケーキを食べたい!」
だーかーら、僕の心の声に――(以下略)。
「クリスマスのご飯はいつも琉雨ちゃんが凄く豪華なの作ってるじゃん。で?あおに何の用?」
「プレゼント選びを手伝って貰いたくて」
「それ、去年は僕の役だったよね?」
僕の役は葵と交替?
「去年は葵のプレゼントに馬鹿高い――とか――とか勝手に買って、結局、葵に使われずに収納棚に仕舞われただろ?だから俺はお前にプレゼント選びは無理だと判断した」
敢えて言いはしないが、去年の葵のクリスマスプレゼントは洸の知らないところでちゃんと使われてたりする。ただ、“ピー”なものをクリスマスプレゼントとは言え、葵が使っていると公言しないだけだ。
「だから葵、今からクリスマスプレゼント会議、始めるぞ!」
葵が毛布の中で僕の腰にくっ付いた。葵も洸の出す騒音に起きていたようだ。
「ねぇ、洸。あおは寝てるんだから、会議はもう少し後にしようよ」
僕にエールを送っているのか葵の髪がさらさらと僕の肌を撫でる。腰に抱き着く腕の力も強くなる。
「いや、葵なら起きてるだろ?」
またバレてる……。
「こ、洸だって知ってるでしょ!昨日はあおがかなり啼いてたじゃん!くたくたで起きれるわけないよ!」
すると、ぎゅっと葵に脇腹を摘ままれた。どうやら、僕の言い訳に不満らしい。
でも、啼いていたのは事実だから、からかいの意味で布団の中で葵のうなじを擽った。ぴくりと葵の体が震える。
「このちゃんちゃんこもマフラーも手袋も葵用なんだけど。俺の部屋もエアコンフル活用で春の温かさなのに」
洸がしゅんとした。
が、しゅんしゅんすれば葵を味方に付けられるなんて、大間違いだ。葵は洸に甘いけど、しゅんとしたぐらいで僕と葵の愛の絆は切れないんだから!
「洸祈、分かった。クリスマスプレゼント会議しよう」
葵がガバッと布団を引っくり返して出てきた。当然、僕も葵も全裸。
「あお……寒い……」
葵は僕を跨いでベッドを降りると、僕のタンスを開け、僕のパンツを勝手に穿く。それも、紺地に黒と赤のボーダーが細く入ったそれはつい先日に買ったものだ。
「……僕のパンツ……買ったばっかの新品なのに……」
そして、葵は洸の装備品をえいやと剥がすと、全て自分に装備し、僕の部屋を駆け足で出て行った。続いて、隣部屋のドアが閉まる音がする。
「……………………」
何とも言えない。
開いた口が塞がらないよ。
葵が僕の予想以上に洸に甘過ぎたのか、僕と葵の絆は豆腐並みの軟弱さだったのか……一応、僕は前者希望だ。
「千里、風邪引くぞ」
洸が唇の端に隠しきれない笑みを浮かべて僕に毛布を掛ける。
「じゃ、おやすみー」
パタパタと手を振った洸が薄っぺらいパジャマの裾を揺らしながらジングルベルの鼻歌を歌って僕の部屋を出て行った。
「さぶ…………さぶい……」
葵製の湯タンポがないと寒い。
「ぶぇっくし!!!!」
「くしゃみの中でもくしゃみっぽいくしゃみだな、ちぃ」
誰のせいだと思ってるんだか。
僕はリビングのソファーに座ってメモ帳にペンを走らせる洸を横目に睨んだ。しかし、次の瞬間にはくしゃみの第二派に目尻が弛んでしまう。
「くそぉ…………ふぇ……ふぇっくしっ!!!!」
洸がむかつくから「食らえ、風邪菌!」とかやりたかったが、くしゃみし疲れで本気でダルくなってきた。
「ううう……鼻がむずむずするぅ…………」
「こら、千里。その格好だと悪化する」
頭を撫でられ、背中にブランケットを掛けられ、葵が僕の額をまさぐる。
「んー……少し熱いかな……」
まさか、クリスマスイブに風邪ですかね。僕ってつくづく運がないのかも。
だって、恋人の風邪には看病イベントが発生するはずなのに、
「薬を用意するから」
「葵ー、薬用意したらプレゼント買いに行くぞ。俺、先に司野のとこ行ってるから」
洸のせいでイベントが強制回避されてしまうのだ。
「洸のリア充苛めぇ……」
そりゃあ、洸は家族が一番の用心屋の頼れる大黒柱だけどさ。
「千里は15歳以上だから、3錠っと…………千里、留守番大丈夫か?」
「大丈夫だよ。テレビ見て留守番する」
「テレビ見るなら俺の毛布持ってくるから。夕食は豪華なんだし、今は無理せず休んでるんだぞ」
直ぐに薬用意してくれたり、毛布取りに駆けたり、葵はいいお母さんだ。というより、今話題の主夫かな。勿論、僕の主夫ね。
そして、ソファー前のローテーブルに必要なものを何もかもを用意してくれた葵は防犯を点検した後、洸が待つ向かいの由宇麻の家まで走って行った。
僕はというと、悪態を吐く相手も居らず、皆は買い物に出て静かな室内でテレビを付ける。しかし、特に面白いプログラムもなく、テレビを消して薬の副作用に任せて眠った。
あ、毛布から葵の匂いがする……。