エピローグ
いつになく渋い顔をしている暮林の前で、警備主任は大きな身体を小さくしていた。
「申し訳ありません」
事態が発覚したのは、ヘリコプターが飛び去った後。
警備が後を追おうにも移動手段がなく、何故か精神感応者が逃げた妖精を感知することができない為、瞬間移動能力者に追わせることもできなかった。
「んー、まあ、遥の使ってる精神感応の力のほうが強いからねぇ。ガードされちゃってるんだろうなぁ」
仕方がないなぁ、と溜息をつく暮林には、あまり深刻さが感じられない。
「あの……どうされますか?」
「どうもこうも、ないよ。あっちには完璧な予知能力者がいるんだよ? 何したって逃げられちゃうに決まってるじゃないか。ああ、勿体ない」
気の抜けた暮林の態度に、警備主任はなんと返すべきか判断を下しかねる。
まごつく彼を、暮林は完全に思考の外へ追いやった。
彼の頭の中にあるのは、不穏な予感。
これまで順風満帆だった暮林の行程に、横風が吹いてしまったのだ。まるで教師の前の小学生のように固まっている大男には取り合わず、彼は呟いた。
「これが何かの始まりになるんじゃなければ、いいけどなぁ」
単なるボヤきのような声だったが、眼鏡の奥のその眼差しは、鋭い光を放っていた。