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fairy tale  作者: トウリン
シュウケツの時
35/35

エピローグ

 今日も平和だ。

 真也しんやは呑気にボトルシップなど作っているし、珂月かづき自身も暇を持て余して書類整理を始めたところだ。

 あの後。

 悠一郎ゆういちろうはアヤ――綾子あやこを連れて、去っていった。どこか、静かなところで暮らすのだと。

 恵菜えな愛璃あいり、そして深青みおは『研究所』に残った。

「あたしには、あの子達に対する責任があるわ。あの子達の意思を奪ったのは、あたしだもの。全員を元に戻して、皆がどうしたいのか、確かめる。もしも家族の元に戻りたいと言うなら、できる限り、それを手伝う。それがあたしのするべきことだし、あたしの居場所にもなると思うんだ」

 迷いのない真っ直ぐな眼差しで、恵菜は言った。出会った頃の彼女とは、身にまとうものをガラリと違えて。

 そんなことをする必要はないだろう、と言う大人たちに、手を挙げたのは愛璃もだった。

「あたしも残る。あたしも、手を下したんだ。自分だけのうのうと幸せに生きるのは、我慢できない」

 愛璃が残るというなら、深青もそうするのは当然のことだろう。二人はしばらく揉めていたが、やがて愛璃の方が折れた。いざとなると頑固なのは、深青の方なのだ。

 きっと、責められるだろうし、辛いことばかりだろう。それでも、彼女たちはその道を選んだ。

 それが罪滅ぼしの為だというなら、珂月たちは止めたかもしれない。確かにあそこにいる少女たちを放置するわけにもいかなかったが、何も恵菜と愛璃だけがその責任を負う必要はないだろう。真に罪を償うべきは、暮林なのだから。だが、それだけではなく、自分自身の為にもそうするのだと言われれば、それ以上、珂月たちに何が言えるだろうか。

 せめて手を貸そうかと提案した真也たちに、それさえも愛璃たちは首を振った。

「解かった。けどな、いつでも、俺たちを呼べよ?」

 おそらく、そうすることはないのだろう。実際、三年が経った今でも、彼女たちからの声は届いていない。

 あの場にいた警備員――柴山しばやまは、できる限りのサポートをしてくれると言ってくれた。彼自身も、唯々諾々と暮林に従わざるを得なかったことに、忸怩たる思いを抱いていたのだと。

 中には、居場所がない少女たちもいる。研究員たちの殆どは、ある意味、『まともな』者ばかりだ。暮林さえいなければ、無難な研究に終始するだろう。柴山が目を光らせてくれていれば、そんな彼女たちにとって、『研究所』が安住の場所になるかもしれない。

 心残りはありつつも、愛璃たちの『強さ』を信じて、珂月たちは彼女らの望むがままに任せたのだ。

 そして、遥。

 彼女は、いつの間にか姿を消していた。今、どこでどうしているのか。

 きっと、『あの子』と一緒にいるのだろう。

 皆、何をしていてもいい。

 ただ、幸せであってくれれば。

 能力者は短命なのだと、聞かされた。だが、珂月は、また彼女たちに会えることを信じている。

 ふと珂月は手を止め、窓の外を見た。外は、きれいに晴れ渡っている。

 と、滅多にならない玄関のインターホンが鳴り響く。

 何故か、胸が騒いだ。

 急ぎ足で玄関に向かい、そしてドアを開ける。

 そこに立っていたのは――。

「おかえり」

 珂月はそう言って、満面の笑みを浮かべた。

長いお話を読んでくださって、ありがとうございました。

つらい目にばかり遭わせてしまった彼女たちには、これからは平穏な日々が訪れるのだろうと思います。

お気に入り登録してくださった方、ありがとうございます。

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