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fairy tale  作者: トウリン
シュウケツの時
32/35

 この、何もない空間で、わたしは眠る。

 もう一度、全てをリセットするの。

 失うのが怖ければ、何も得なければいい。

 何も見ず、何も聞かず、何も感じず。

 ただ、『無』であれば、怖いことなど何もない。

 だから、わたしは、眠る。

 ああ、でも。

 それは、本当に、わたしが望んでいることなのかしら……?


   *


 真也しんやたち一行は、再び『研究所』間近に来ていた。

 相変わらず、外観はただの岩壁だ。あの中にあれだけの施設があるとは、誰も思わないだろう。実際にそこを歩いてきた真也ですら、疑いたくなる。

「じゃ、行くか。まずは俺。で、次に春日かすがさんな。恵菜えな、どうだ?」

 真也の問い掛けに、中の、少女たちの周囲の状況を窺っていた恵菜が目を開ける。

「大丈夫そう。あの子たちの周りに、起きている人はいないと思う」

 恵菜の力は精神感応であって、透視ではない。そのため、はっきりと見て取れるというわけではないのだが、さしあたっての問題はなさそうだった。

「よし、なら今のうちだ。愛璃あいり、頼む」

「わかった」

 コクリと頷いた愛璃の手が、触れる。と、瞬きをいくつかする間に、真也は先日と同じ『中庭もどき』に移っていた。間を置かずして、悠一郎ゆういちろうも現われる。

「行きますか」

 悠一郎にそう声を掛けて、警戒しながら進む。丁度見回りの時間をすり抜けたと見えて、警備とかち合うことはなかった。

 真也と悠一郎は二手に別れ、少女たちが眠る四部屋に手際よく催涙ガスを放り込んでいく。幸いにして、彼女たちが眼を覚ますことはなかったようで、部屋も廊下も静まり返っていた。ガスは十分もすれば拡散し終わるので、見回りに来た男たちに気付かれる事も無いだろう。

「あとは、上か?」

「そうだな。取り敢えず、連絡入れるか」

 悠一郎に頷き返しながら、真也は無線機を入れる。

「珂月?」

「どうだ?」

「下は成功。今度は上に行く」

「了解。……気を付けろよ」

「任せろって。了解」

 少し笑って無線を切った。そして、悠一郎に目で合図をし、階段へ向かう。これからは更に慎重にことを進めなければならない。騒がれる前に、いかに人数を減らせるかが鍵だ。

 階段を上り、壁にぺたりと張り付きながら、廊下を窺う。少なくとも、人の気配は今のところないようだ。

 二人は通風孔から見えた監視室のドアまで進むと、その両側に陣取る。

 悠一郎が催眠ガスを取り出すと真也に頷いた。悠一郎はガスを放出させるスウィッチを押し、真也が静かに開けたドアの隙間から、それを静かに転がし入れた。スウィッチを圧迫するものがなくなるとガスが放出される。手早く、だがそっとドアを閉めると、二人は再び階段へと戻った。

 待つこと、しばし。

 だが、特に騒ぎは起きず、監視室の中の者が催眠ガスに気が付いた気配はなかった。どうやら、うまく眠らせることができたらしい。

 目配せしあった二人が再び監視室へ向かおうとした時だった。廊下の向こう側から足音が近付いてくる。それが二名分であることからすると、どうやら見回り組みのようだった。

 彼らが階段へ向かってくるのか、それとも、どこか途中の部屋に入るのか。

 ジッと耳を澄ませて、足音を追う。

 それらは廊下の中ほどで止まり、扉が開く音が続く。そっと真也が廊下を覗き込むと、監視室の扉が閉まっていくところが見えた。

 騒ぎになる前に、叩かなければ。

 真也がチラリと悠一郎を見ると、彼も無言で頷いた。

 足音を殺して廊下を走り、一気に監視室に飛び込む。

 仲間たちの肩に手を掛けていた男たちが、二人同時に振り向いた。

「お前たちは!?」

 彼らは腰に手をやり何かを取り出そうとしたが、真也と悠一郎の動きの方が、速かった。二人は暗黙の了解でそれぞれの相手に狙いをつけ、ほぼ同時に殴り飛ばした。流石に相手も頑健で一撃でノックアウトとはならず、起き上がりかけたところを、真也は側頭部への、悠一郎は鳩尾への一蹴りでとどめを刺す。

 騒がしい物音が止んだ時、さして広くもない監視室の床の上には、デカい図体をした五人の男が転がっていた。それらを部屋の隅に寄せ、縛り上げる。

「さて、巡回はもう一組いるんだよな……どうするか」

「待っていれば、そのうち姿を現すかもしれんが、あまり時間を掛けるわけにもいかないな。監視カメラも、二階だけか。それらしい姿はないな。どこを回っているんだろう」

 悠一郎がカメラを操作しながら呟く。真也もそれを覗き込みながら、唸った。

「そうだな……もう、あいつら呼んじまうか?」

「できる限り、安全を確保してからにしたいのだが……」

 真也の台詞に、悠一郎がそう返した時だった。切り替えていたカメラの一つが廊下を進んでくる男の二人組みを捉える。

「あ、まずい」

 この部屋に足を踏み入れられたら、何が起きているかは一目瞭然だ。かと言ってこの部屋から出ようとしたら鉢合わせになる。

「どうする?」

 悠一郎が訊いてくるが、迷っている時間はなかった。

「先制攻撃だな」

 それだけ答え、入り口に向かう。開いた扉の陰になるような位置に立ち、悠一郎には自分の背後に立つように手で合図を送った。

 やがて、扉が開いた。

 一人目が入ってくるが、壁に並べられた同僚たちの姿に仰天したようだ。

「おい、どうした!?」

 そう言うなり、彼らのもとに駆け寄る。続いた二人目も同様だ。真也は手で自分が一人目、悠一郎が二人目と指示を出し、二人目の警備員が部屋の中央まで進んだところで扉を閉め、一気に彼らのもとまで走る。扉の音に気付いた二人の警備員がハッと振り向くが、その時には真也と悠一郎は彼らの間近に迫っていた。

 指示を出したとおりに各々の相手に狙いを定めて襲い掛かる。

 先の二人組みほど意表を突けず、真也の攻撃はクリーンヒットとはならなかった。殆ど反射のようなカウンターを、上半身を反らせてかわした。

 撃沈できなかったのは悠一郎も同じのようである。相手の反撃を前腕でガードし、次の拳を繰り出すのを視界の隅で捉えた。

 相手の目をヒタと見据えながらジリジリと動き、お互いの邪魔にならないように距離を取る。そして構えを解き、両腕をだらりと下げた。対峙している男が怪訝な顔をするのへ、ニッと笑いかける。

 真也たちが丸腰であることが見て取れたのだろう。男の手がスッと動き、腰のホルスターに納まっている拳銃のグリップに伸びた。が、それはわずかな隙になる。

 真也は袖口に隠し持っていたパチンコ玉をそっと手の中に落としこむと、男が銃を構えるよりも先にそれを指弾で飛ばす。それは狙い違わず男の眉間に命中し、パッと血を噴き出させた。

「グッ」

 男が呻き、取り出しかけていた銃が床を滑る。すかさずそれを拾い上げ、返す手でグリップを男のこめかみに叩き付けた。崩れ落ちる男に、真也はやれやれと呟く。

「日本の中じゃ、こんなの持ってちゃいかんのよ?」

 そうして手早く男を拘束すると、相方の方へと視線を向けた。そこでは丁度、ナイフを持った敵の腕を絡め取るようにした悠一郎が、そのまま男を背負い投げようとしているところだった。背中から落とされ、呻きながらも即座に身体を起こそうとするのを、真也がナイフを持った方の腕を踏みつけて阻止する。更に力を入れて踏みにじり、ナイフを取り上げた。

 背後から男の首に腕を回した悠一郎が、真也を見上げる。

「どうする? 落とすか? それとも、起こしておいて話を訊くか?」

 彼の腕は、ほんの少し力を加えれば男の頚動脈洞を圧迫する部位に置かれており、ものの数秒で意識を失わせることができる。

「そうだな……やってくれ」

 真也の合図で、悠一郎の腕にクイ、と力が入る。それは、十秒も無かっただろう。だが、その数秒間の間に男の手がもそりと腰の辺りを探ったことに、二人は気付かなかった。意識を失った男の身体を他の者たちと同じように後ろ手に縛ると、彼らは再びモニターの前に戻った。

「まだいるかな」

 前回潜入時に確認できたのは、この人数だけだ。施設の規模からすれば、こんなものの筈だが。

「あ。ヤベ」

 モニターの一つに目を止めた真也は、思わず呟く。悠一郎も気付いたようだ。

 そこに映されたのは、廊下を駆けてくる複数の男たち。ザッと五人は数えられた。

 二人は一瞬顔を見合わせると、室内の動かせる物を全て入り口へと押しやった。あらかたを移動させ終わったのとほぼ同時にノブがガチャリと鳴り、わずかに沈黙したかと思うと、ドアの向こうから激しく体当たりする物音が響いてきた。

「ありゃ。閉じ込められたか。……また、あそこを使うか」

「あそこ?」

「あれ」

 そう言って真也が指差したのは、通風孔である。

「お宅には……ちょっと狭いかもしれないけどなぁ。ま、仕方ない」

 真也は肩をすくめると、男たちが持っている銃を全て回収する。

「グロックかよ……ハリウッド映画じゃないんだぜ?」

 性能の悪い改造銃やトカレフあたりなら、真也もちょくちょくお目にかかっているが、日本国内で洋画に出てくるような銃で攻撃を受けるのは、初めてだ。ボヤキながら、彼は悠一郎にも二つほどそれを手渡した。

 そして残っていた二つの催眠ガスを取り出し、スウィッチを押すと、適応な重石を載せてバリケードの上に置く。勢いよく突破してくれれば、重石が外れてガスが放出されるだろう。数がもう無いのでどの程度の足しになるかは判らないが、無駄にはなるまい。

「まず俺が登るから、肩を貸してくれ」

「わかった」

 悠一郎は頷くと、真也を肩車し、一息に立ち上がる。

 ナイフで手早く通風孔のフィルターを外して、真也はダクトの中によじ登った。そのまま少し進んでから仰向けになると、ウェストのバックルから紐を引っ張って伸ばすと、外へと投げた。両足をダクトの壁に踏ん張り、悠一郎に呼びかける。

「それに捕まれ」

 それに応じるように、紐にグッと重みが加わった。

 真也はバックルについているスウィッチを押す。と、モーターが作動し、紐は巻き上げられていく。その小型のウィンチは、百kgの物までなら苦も無く持ち上げられる代物だ。

 やがて悠一郎の頭が覗き、彼は自力で這い登ってきた。

「お疲れさん」

 一声掛けて腹ばいになると、ダクト内を全速で匍蔔前進する。

 早々にここから離れなければ、催眠ガスが放出されたときにもろに吸ってしまうことになるだろう。

 意外に簡易バリケードは持ちこたえてくれたとみえて、トイレの通風孔が見えてきた辺りでダクトの向こうから派手な物音が聞こえてきた。今頃、ガスが放出されて右往左往していることだろう。

 前回潜入時に接着剤で付けただけのフィルターは、蹴るだけで容易に外すことができた。

「よし、到着」

 床に降り立った真也は、首や肩を回す。

 トイレは曲がり角にある為、監視室からは死角になる。鏡を使ってそっと廊下の奥を窺うと、見える範囲では倒れ付している男が一人、なにやら言い合っている男たちが二人確認できた。部屋の中にもいると予想すると、まだ少なくとも五人はいると思っておいたほうがいい。

「よし、やるか」

 真也は悠一郎に目配せし、彼が下がるのを待って、バックパックからスタン・グレネードを取り出す。耳栓をはめると、敵の目が逸れているタイミングを見計らって監視室の入り口めがけてそれを投げ、自分はそちらに背中を向けて屈みこんだ。

 数瞬後に耳栓越しに聞こえてきた音は、生なら脳みそを揺さぶられるだろう。

 効果のほどを確かめようと真也が覗き込んだ先では、男たちが耳を押さえて煩悶している。真也は悠一郎に合図を送って呼び寄せた。そして、これ幸いとばかりに、射程内に入った者をスタンガンで撃つ。電力は上げてあり、一発でもかなりの効果がある筈だが、念の為に三発ずつ撃ち込んでおく。彼の隣で、悠一郎も真也に倣って残る一人を撃ち始めた。

 戦闘可能な者は、後何人残っているだろうか。

 監視室からは誰も出てくる気配がない。

 まさか、中で気絶しているわけでもあるまい。

 真也は慎重に気配を探りながら、近付く。

 と。

 チラリ、と、視野の下の方を、黒い物が動く。

 ハッと思った瞬間、真也は身を翻し、悠一郎の襟を引っ掴んで引きずり倒した。

 直後、パンパンパンパンと続けざまの破裂音と共に、彼らの胴体があった辺りを鉛玉が貫いていく。

 二人はそのまま全速力の匍蔔前進で曲がり角まで戻る。

「あの中、何人いると思う?」

「判らんな。だが、あちらも仲間の銃が奪われていることには気付いているのだろう。そう易々とは突っ込んでくるまい」

「膠着状態か」

 時折、相手を牽制する為に廊下へ向けて銃を撃ちながら、真也は溜息をつく。

 このままでは、夜が明けそうだ。

 相手の背後を突ければ、いいのだが。

「もう一回、ダクトから行くか……?」

 だが、あんな狭いところを移動中に攻撃されたら、手も足も出ない。敵もそう思うからこそ、通風孔のフィルターが外れていることに気付いている筈なのに、真也たちの後を追ってきていないのだろう。念の為、警報代わりにスタン・グレネードを仕掛けているのだが、今のところ反応していない。

 ――愛璃の力が、あれば……。

 そう、真也が心の片隅で思った時だった。

 唐突に、背後に人の気配が現れる。

「!?」

 真也と悠一郎が同時に振り向き、そちらに銃口を向ける。と、同時に、それを逸らした。

「お前ら……」

 男二人は、目の前に立つ三人に、溜息をつく。

「何よ、あんたたちが困ってるふうだったから、来てやったのよ?」

 ムッと口を尖らせたのは、恵菜だ。その間に、愛璃が残してきていたはるかを引き寄せる。結局その場には、愛璃、恵菜、珂月、遥――すなわち、全員が揃うことになった。

「何で判った……って、愚問か」

 きっと、彼女はその力で真也たちの思考を追っていたのだろう。聞かせたくないようなことをしでかさなくて良かったと、彼は内心で安堵した。

「で、どうするの? 行くの?」

 こんなところでグズグズしているな、と言わんばかりの眼差しで、愛璃が睨みつけてくる。彼女としては、心底から、その気持ちなのだろう。一刻も早く深青の無事な姿を目にしたいに違いない。

「……わかった、頼む」

 真也が、答える。と、待ったましたとばかりに、愛璃が真也と悠一郎の腕を掴む。視界が揺らぎ始めたのは、その直後だった。そして、数秒後には――

「お前!? 何でいるんだよ!?」

 思わず、状況も考えずに真也が声をあげる。その声に、監視室の入り口近くに集まっていた四人の男たちが一斉に振り向いた。彼らは、まさに鳩が豆鉄砲を食らった顔で、真也、悠一郎、そして愛璃を見る。

「お……お前たち!? どこから――!」

 狼狽した声をあげる、男たち。だが、そんな彼らを無視して、愛璃が目一杯呆れた声で真也を糾弾する。

「あんた、バカじゃないの!? 何、大声出してんの! ばれたじゃない!」

 彼女のその声で、彼らはハタと我に返ったようだ。一斉に銃を構え、それぞれが漏れなく真也たちを狙う。

「動くな! 動けば――!?」

 だが、しかし。威嚇の声は中断し、驚愕で彼らの目が一様に見開かれた。

「それは、こっちの台詞。動けるモンなら、動いてみなよ。さっさと深青を返さないと、ただじゃ済まないよ」

「……おいおい、俺たちの出る幕ないじゃん。程々にしとけよ? ぶっ倒れたら、元も子もねぇんだからな」

 そう言いながら、真也は男たちの中でかろうじて引き金を絞りかけていた一人から銃を取り上げ、手早く縛り上げる。悠一郎も彼に続いてロープを手に取った。

 全員を拘束し終えると、真也は廊下の向こうに声をかける。

「おい! 片付いたぞ」

 その声で、珂月が残る二人の少女を連れて向かってくる。

「愛璃! お前は、まったく、何てことを……!」

 珂月も予想外の行動だったようで、合流した第一声が、それだ。

「――ごめんなさい」

 真也が同じようなことを言った時とは打って変わって殊勝な態度で、愛璃が彼女に謝る。

 その違いは何故なのか、と首を捻りつつ、真也は、男たちを指差して入ってきた恵菜に訊く。

「こいつら、どう?」

「ん……その、右から二番目の人。そいつなら、多分いける。最近、ここに来たばかりね」

 そう言って、彼女は縛られている警備員たちの中から選らんだその男に歩み寄ると、手を伸ばして触れた。しばらく目を閉じていたが、不意にその漆黒の目を見開き、男に問う。

「ここの警備、何人?」

 男は、答えなかった――声に出しては。

 だが、恵菜はニッと笑うと、真也たちに振り返った。

「これで全部みたいよ」

「な!?」

 先ほどまで触れられていた男が動揺の声をあげる。

「この人、あたしたちの力を知っていたけど、解かっていなかったのね。もう、丸聞こえもいいとこよ」

 めいっぱいバカにしたような眼差しで、恵菜が言う。彼女らしいと言えば、彼女らしい態度だった。

「ま、そりゃ重畳。じゃあ、本来の目的を果たしに行こうか。そうだな、とりあえずアヤさんのところだろ? 今がここだから、もう少し先の、この部屋にそれらしい物があったぜ」

「では、オレと遥と恵菜はそこに行く。君たちは?」

「私はデータを漁りに行きたい」

 そう言った珂月の隣では、愛璃がイライラと足を踏みながら手を上げる。

「あたしはもちろん、あの子を探しに行くからな!」

 言うなり、答えも待たずに飛び出していってしまいそうになる彼女の襟を、真也が捕まえた。

「ちょっと、待て。それなんだが、探索は俺一人に任せてくれないかな」

「何で!?」

 声は、愛璃と珂月からのものである。それは、キレイに同調していた。

 食って掛かられた真也は、一歩下がって答える。

「あのな、あまりバラけるのもどうかと思うんだよな。悠一郎さんは戦力外になるんだろ? 珂月と愛璃が行っちまったら、残るのは恵菜と遥だけになる。不測の事態が起きたら、対処できるやつがいない」

「でも……!」

 愛璃が、真也に縋りつく。

「早く、あの子を捜してやらないと!」

「そりゃ、わかってるさ。だから、俺が捜してきてやるよ。捕まっている場所が見つかって、お前の手が必要だったら、呼ぶ。珂月もだ。データは俺が見てくるから、ここでガードしてやってて欲しいんだ。な? 何が起きるか、判らないだろ? 何しろ、ここは敵地なんだから」

 真也が一番探索に向いていることは、長年仕事を共にこなしてきた珂月には、よく判っているのだろう。そして、今の状況で、あまりバラバラになることは望ましくない事も。彼女は、唇を噛んで俯いた愛璃の頭を撫でながら、頷いた。

「……解かった。その代わり、ちゃんと見つけてこいよ?」

「任せとけって!」

 胸を張った真也に、珂月が何か言いたそうな眼差しを向けてきた。

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