表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
fairy tale  作者: トウリン
シュウケツの時
24/35

プロローグ

最終話です。

 わたしは、今、とっても幸せ。

 だって、ママとパパはこうやって笑ってるし。

 お誕生日のお祝いは、ママが、わたしが大好きなイチゴのケーキを作ってくれた。

 十五夜にはちゃんとススキとお団子を飾って、綺麗なお月様を三人で見上げるの。

 クリスマスはもちろんツリーを出してきて、ママと一緒にたくさんのオーナメントをぶら下げていって。

 お正月には振袖を着て、ちょこっとだけ、お屠蘇を飲んでみるのよ。

 冬は雪がとってもよく積もるから、雪かきが大変!

 でも、少しずつ雪が溶けてくると、春が近付いてきた証拠。よぉく見ると、樹の芽が膨らんできてるのがわかって、ワクワクするわ。

 春になると色んなお花が咲いて、とってもキレイなの。可愛い小鳥もたくさん来るから、パパと一緒に、冬の間に壊れちゃった巣箱を直すのが、わたしのお仕事。

 そして、夏。わたしが一番楽しみにしてる夏が、やってくる。

 このお家に隠れていないと『悪いヤツら』に捕まってしまうからどこにも行けないけど、

『  』君が会いに来てくれるから寂しくないわ。一年のうちにほんのちょっとの間だけだって、とっても嬉しいの。

 初めて『  』君が来た時、ホントはどうしようかと思った。ママとパパに、いつもいつも、誰かが来ても絶対に出てっちゃダメって言われてるんだ。どこで『悪いヤツら』に見つかるかわからないからって。でも、『  』君なら大丈夫だって、思ったの。

 お話してみたら、やっぱり、大丈夫だった。

 ママとパパも大好きよ?

 ……でも、ホントはね、『お友達』が欲しいなって、ずっと思ってたんだ。

 だから、『  』君と会えた時、とっても嬉しかった。

 ママとパパには、ナイショ。だって、知られたら、きっとまた「逃げなくちゃ」って言われちゃう。そうしたら、『  』君とは会えなくなっちゃう。そんなの、絶対イヤ。

 ああ、早く『  』君と会いたいなぁ。

 ――あれ? この間会ったのって、いつだっけ……?

 指を折って、数えてみた。

 もう、一年経ってない?

 ううん、そんなことないわ。だって、ちゃんと毎年、会いに来てくれてたもの。また、もうすぐ来てくれる。

 待ってる時間も、楽しいもの。

 ただ、ここでこうしているだけで、わたしはいいの。

 ――本当に?

 不意に小さく囁きかけてきた、誰かの声。

 気のせい? ううん、小さかったけれども、確かに聞こえた。

 その声に誘われるようにお家の玄関の扉を開けてみたら、そこには女の子が立っていた。わたしよりも、一つ二つ、年下かな? 肩までの真っ直ぐな髪はサラサラで、紫色の目は不思議な感じ。誰だろう。

「本当に、あなたは今のままでいいの?」

 女の子は、わたしの目をジッと見つめて、もう一回訊いてきた。

 その紫色の眼差しはとても真っ直ぐで。

 わたしは目を逸らしたくなる。

 いいんだよ。だって、こんなに幸せなんだもの。

 そう答えて、わたしは扉を閉めた。絶対開かないように、鍵もかけないとね。

 閉まっていく扉に女の子はちょっと悲しそうな顔をして、それがわたしの胸をチクチク刺したけれど、もう、扉は開けてあげなかった。

 だって、わたしはこのままでいたいのだもの。

 もう、何も変えたくないのだもの。

 そう、この世界が終わるまで――ううん、この世界と一緒に、全部終わりにしたいのだもの。

 ――だから、お願い、誰もわたしを起こさないで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ