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fairy tale  作者: トウリン
カクセイの兆
23/35

エピローグ

 ――やっと、終わりへ導くための鍵に、辿り着いたよ。

 その声に、月を見上げて佇んでいた少女は手を上げて指を伸ばした。自然な動きで。

「うまくいくと思う?」

 少女は指先に現われた蝶に、問い掛ける。それに応じて思案するかのように、紫の翅が緩やかに開閉した。動きに伴い、金色の光がヒラヒラと舞う。

 ――これ以上は、わたしにもわからないの。『彼女』の力は強いから、まだ、『彼女』は何の影響も受けていないわ。まだ、わたしが見た未来は変わらないまま。たぶん、わたしでは『彼女』を動かすことができないの。それができるのは、『彼』だけなんだわ。

「『アイツ』の妄執と、『彼』が『彼女』を想う気持ち、そのどちらがより強いかで未来が決まってくるということ?」

 ――わたしは、そう思ってる。『彼女』が目覚めてくれるかどうかが、大きな転換点になる筈だから。

「ふうん……」

 そう頷くと、少女は蝶を両手の中に包み込んだ。実体はない筈なのに、手のひらをくすぐるような感触がある。

 ――何?

「少し休みなよ。ずっと動いていただろ?」

 彼女の言葉に、笑い声が響いたかのように空気が震えた。

 ――わたしは、もう疲れたりしないよ? あなたのお陰で。それに、あなたを独りぼっちにしたくないわ。

「いいから、さ。少ししたら、また呼ぶよ」

 ――もう。

 過保護なんだから。そんな囁きを残して、蝶は彼女の手の中から消える。

 空っぽになった両手の中に、彼女はそっと囁きかけた。

「だって、大事にしたいんだから、仕方がないじゃないか」

 そうして少女はきびすを返し、夜の闇の中へと溶けていった。


   *


 絶え間なく続く夢の中、『彼女』はその夢以外の全てを拒絶していた。

 『彼女』が欲しいのは『真実』や『現実』ではない。それらは、『彼女』にとってはつらすぎる。ただ、甘い夢だけ観ていられたら、それで良かった。

 優しい両親に護られていた日々。

 触れ合うのは彼らだけだったけれども、二人がいたら、幸せだった。

 そして、ひと夏の、短い間にだけ会える『  』君がいれば。

 自ら固く閉ざしたぬるま湯のような世界の中で、『彼女』はまどろむ。

 ゆるゆると。

 不意に。

 ――待ってろよ。

 力強い声が、『彼女』を護る殻を震わせたような気がした。

 知らないけれど、何となく、聞いたことがあるような、声。

 けれども。

 ――そんなことがあるわけない。

 自分を迎えに来てくれる人なんて、もういないのだから。たった独りで、朽ちていくのを待つだけなのだ。

 そうして、『彼女』は再び優しい世界へと戻っていった。

次が最終話です。

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