プロローグ
今回で全てのキャラクターが出揃います。
大事な相手を失ってしまった男と、惑う少女との出会い。
「ねえ、ママって、ムカつくよねぇ。『片付けなさい』、『勉強しなさい』、『早くご飯食べなさい』。怒ってばっか」
そう言ったのは、絵里ちゃんだった。
「そうそう、弟ばっか可愛がるしさぁ。アイツが悪いのに、すぐ『お姉ちゃんでしょ』って」
これは、真紀ちゃん。
「高木先生だってさぁ、ぜったい、ユウコのこと、ヒイキしてるよね!」
プンプンしながら皆の顔を覗き込んだのは、美季ちゃん。
それじゃあ。
「死んじゃおっか?」
そう言い出したのは、誰だったっけ?
覚えてないや。
でも、誰かが言い出したことは、段々、皆に広まっていった。
「もうさ、生きてたってムカつくことばっかだし、いいことないじゃん」
「そうだよね、もう、みぃんな、おしまいにしちゃおうか」
「わたしが死んだら、きっとママだって、『ゴメンね』って泣くよね。そん時はもう遅いっての」
「ざまぁみろ、だよねぇ」
「高木だって、辞めさせられるかも!」
キャー、と、高い笑い声が響き渡る。
あたしはみんなの言葉を聞きながら、そっかぁ、そんなに死にたいんだ。だったら死んじゃったらいいじゃない。そうしたら、『楽』になれるのにって思ってた。
死んじゃえばぁって。
そうしたら、急にみんなピタリと黙って、フラフラ歩き出したかと思うと、団地の階段を上り始めたんだ。みんなは三階まで来ると、いっせいのせ! で飛び降りた。
すぐに人がたくさん集まってきて、救急車が来たりおまわりさんが来たり、大騒ぎになった。
結局、『サイワイナコトニ、シタガウエコミダッタカラ』3人とも怪我だけだったんだって。
迎えに来た叔母さんに、「死ねなくて可哀相だね」って言ったら、スゴく変な顔をされた。だって、パパとママが『シャッキンク』で『ジサツ』した時、「オイテカレタあんたハカワイソウダケド、コレデぱぱトままハ『楽』ニナレルンダヨ」って言ったのは叔母さんだったじゃない。
次の日に、気持ちが悪いくらいニコニコした『子どもの心のお医者さん』のところに連れて行かれて。パパとママの事まで、どういうふうに思ったのか、とか何とか、色々訊かれた。その日から、叔母さんがあたしの目を見なくなって、何だか変な感じだった。
あたし、何かワルイコトしたのかな?
叔母さんは、あたしのコトを怖がってた――気持ち悪がってた?
とにかく、そんな感じ。
そうして、三日後には、ここに連れて来られてた――この『研究所』に。
初めて会った所長は、あたしのことを、スゴいって褒めてくれた。そして、『仕事』を手伝って欲しいって。
褒めてもらえてあたしはとっても嬉しかったから、それからずっと、ここにいる。
あたしの『仕事』は、『力』に怯えてつらい思いをしている子を、『楽』にしてあげることなんだって。あとは、時々、違う『仕事』も入るけど。それだって、『ワルイコト』をしているわけじゃない。頑張って頑張って、それでも報われなくてつらい思いをしている人を、助けてあげているだけ。
そう、あたしは、みんなを『楽』にしてあげているんだから。