コント台本「やらなきゃいけない空気」
上演を想定して書いたコント台本です。
戯曲の形式で書いてありますので読みにくいかもしれませんがお付き合い頂ければ幸いです。
役者さんの姿をイメージしながら読んで頂くと良いかもしれません。
明転。
舞台はバー。
バーテンダーが一人。
カウンターに男性客が一人。
テーブル席にカップルがひと組(カップル男→カ男、カップル女→カ女と表記)。
カ男 「待てよ」
カ女 「離してよ」
カ男 「なあもう一回考えてみてくれよ」
カ女 「もう決めたことだから」
カ男 「そう言わないでさ頼むよ」
カ女 「ムリだって言ってるでしょ」
カ男 「マジでか?マジで別れんのかよ?」
カ女 「だからさっきからそう言ってるでしょ」
カ男 「…もう一回だけ。もう一回だけチャンスくれよ」
カ女 「しつこい!」
バーテンと男性客、何気なくカップルのほうを気にしている。
カ男 「頼むよ。なあ…」
カ女 「今まで散々そうやってずるずる引っ張ってきて…。もういいでしょ。無理なのよ」
カ男 「…本当に別れるのか?」
カ女 「…うん」
カ男 「そうか。…分かったよ。…じゃあ、じゃあさ、最後に本当にもう一回だけ、俺にチャンスくれよ」
カ女 「…なに?」
カ男 「…(助けを求めるように周囲に視線を走らせて)もしも、あそこのお客さんが次にソルティードッグを注文したら、俺とやり直してくれ(男性客を指さす)」
男性客ちょっとびっくりする。バーテン皿を拭く手を止める。
カ女 「…何よそれ。あなたはあそこのお客さんが次にソルティードッグを注文したら、私とやり直すっていうの?」
カ男 「ああ。あそこのお客さんがもしも次にソルティードッグを注文したら、そしたら君は、僕とやり直すんだ」
カ女 「ふざけないでよ。あなたは本気で、あそこのお客さんが次にソルティードッグを注文するかどうかに私たちの未来を委ねようっていうの!?」
カ男 「そうだ。あそこのお客さんがソルティードッグを注文するかどうかに賭けるんだ」
二人男性客を見る。
男性客困る。
カ女 「ほら、そんな都合よく行くわけないわよ。もう帰るわ」
カ男 「待ってくれよ。きっと注文してくれるはずなんだよ」
男性客目線だけでバーテンに助けを求める。バーテンかすかにうなずく。
男性客 「…ソ、ソルティードッグを」
カ男 「やり直そう」
カ女 「うん」
男性客ほっとする。
カ女 「やり直すのはいいわ。でも一つだけ条件があるの」
カ男 「なに?」
カ女 「タップダンスを習うのはやめて」
カ男 「そんな…タップダンスはやめられないよ」
カ女 「なんでよ、やめてよ」
カ男 「いやムリだよそれは」
カ女 「大丈夫よ。やめられるわよ」
カ男 「いやだから無理だって」
カ女 「やだ、やめて。…あ、じゃああの人がソルティードッグをいっきしたらやめて」
男性客 「へ?」
カ男 「え?そんな、いっきなんかするわけないよ」
カ女 「ううん、するわ。絶対するわよ」
カ男 「しないと思うけどな」
カ女 「するの。もししたらタップやめてね」
カ男 「うんわかったよ、もうタップしないよ。でもいっきなんかしないと思うけどな」
カ女 「するわよ!ていうかもししなかったらやっぱりあなたと別れるわよ」
男性客 「へ?」
カ男 「お、おいちょっと待てよ!」
カ女 「だって、あの人がいっきしてくれないならそれしかしょうがないじゃない…!」
男性客目線でバーテンに助けを求める。バーテン二度うなずく。
男性客いっきに飲み干す。
カ男 「やめるよ、タップ」
カ女 「ありがとう」
男性客ほっとする。
男性客ちょっとむせる。
バーテン無言で水を差し出す。
カ男 「なあ結婚しよう」
カ女 「え…?」
カ男 「結婚しようよ。いいだろ?」
カ女 「それは、…でも、そんな」
カ男 「駄目かい?いいじゃないか」
カ女 「そんな、急すぎるよ…」
カ男 「いいじゃないか。…そうだ、この人が(男性客の肩に手を置いて)テキーラのボトルいっきしたら結婚しよう」
男性客 「ええ」
カ女 「そんな無理よ」
男性客 「ムリムリ!マジでムリ!」
カ男 「無理じゃないよ。この人がテキーラのボトルいっきしたら、俺と結婚しよう」
カ女 「この人がテキーラのボトルいっきしたら…」
男性客、カップルが話している間に必死に目線でバーテンに助けを求める。
バーテン、男性客の目を見て首を二度横に振る。そしてボトルを差し出す。
二人、男性客を見る。
男性客頑張って飲もうとするが飲めない。
カ女 「もうこれっきりにしましょう」
カ男 「待ってくれ!」
男性客 「待ってくれ!」
カ男 「今日はちょっと調子が悪かったんだよ」
男性客 「次は頑張るから!」
カ女 「ついてこないで」
カ男 「頼む!もう一度チャンスをくれ!」
男性客 「練習してくるから!」
カ女 「もういいから」
男性客 「お願いします!」
カ男 「あ、じゃあこうしよう。この人が(男性客を引っ張って)バーテンさんの歌に合わせてボックスを踏んだら、俺と結婚してくれ」
バーテン表情を変えずにぎょっとする。
しばしの躊躇の後いい声で歌いだす。
男性客それに合わせて一生懸命踊る。
カ女 「…結婚しましょう」
カ男 「…ありがとう」
4人で抱き合って喜びを分かち合う。
男性客 「よかった。本当に良かった」
カ男 「式はどこであげようか」
カ女 「そうね」
バテ 「(きめ顔で)当店でのバーウェディングというのはいかがですか?」
男性客 「ああ、それはいい!いかがですか!?二人が結婚を約束した場所で式を挙げるというのは?」
間
カ男 「すみません。どなたか存じませんが口を挟まないで頂けますか?」
男性客 「え」
カ男 「これは二人の問題ですから」
カ女 「ええ」
カ男 「もう行こう」
カ女 「うん。(はけ際に)こんなしょぼい店で式とか本当ありあえない…」
二人はけていく。
男性客、バーテン見つめ合う。
バーテンおもむろに歌いだす。
男性客それに合わせておずおずと踊りだす。
徐々に暗転。