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王女の騎士 ―赤いローズと空の青ー  作者: 雛雪


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1/4

前編

「神の名のもとに、汝を騎士に任ず」


その騎士が王女の護衛騎士となった時、

物語は動き出した。



◇◇◇



この王国で三番目に生まれた末の王女の宮は、いつも静かだった。

城の奥にあるその庭には、ほとんど人が行き来しない。

季節折々の花だけが賑やかに、手入れされた小径の両側を彩っていた。

母である王妃は王女を産んだ後の産褥で亡くなった。その死を境に、王や兄姉とは距離を置かれ、王女は忘れられたように一人で過ごすことが多かった。

決して世話をされていないわけではないが、権力の中心から遠い場所にいる彼女は、それが当然であるかのように静かな日々を送っていた。



ある日、王女は花壇の向こうに金色の光が煌めいているのに気づいた。

なんだろうと思って近づくと、そこに自分より少し年上の少年がいた。

彼の髪が太陽の光を浴びて、眩しく揺れていたのだった。


「そなた、なにをしてる?ここはおうきゅうぞ」


少年は顔を上げた。

金の髪に、空を映したような真っ青な瞳。

王女はしばし、その瞳に見とれてしまった。

(わぁ、おそらのあおだわーきれい)


少年は王女を認識すると、慌てて立ち上がり、そしてまた膝まづき頭を下げた。


「申し訳ありません。花を植えかえておりました」


服は質素で、手は土で汚れている。


王女は気にした様子もなく言葉を重ねた。

「あたまをあげてよいぞ」

(あおいおめめがみたい)

少年の目を今一度見たいと思った。


少年は頭を上げ、少し緊張した声で答えた。

「私は庭師の息子です。

親方が足をくじいて休んだので、父が代わりに木の剪定(せんてい)に参りました。

僕も庭師見習いです。父を手伝ってます」


(せんてい、ってなぁに?)

と思いながら、

王女は花壇を覗き込んだ。


小さな赤い花の蕾が一輪、ぽつんと隅にあって、でも凛として立っていた。


「なんのおはな?」

王女は姉王女の真似は放棄した。


少年は王女の大きな黒い瞳に見つめられ、胸の鼓動が大きくなるのを感じながら、ためらいつつ言った。


「……ローズです」

凛としたところが少し王女に似てると思った。


「わらわとおなじなじゃ」


「ローズさまとおっしゃるのですか?」

少年は末の王女の名を知らなかった。


「うん。ローゼンウィン。

あなたのおめめのなかのばらもきれいね」


少年の青い瞳の中で赤い花が咲こうとしていた。


彼は遠くで自分を呼ぶ父の声が聞こえると、王女に頭を下げ、去って行った。



父の呼ぶ声に背中を押され、少年は何度も振り返りながら、あの静かな庭を後にした。

胸の奥にはまだ、王女の大きな黒い瞳が焼き付いている。

(ローゼンウィン様。……また、明日もお会いできるかな)



◇◇◇



そんな期待は、翌朝、小屋の冷え切った静寂のなかで(つい)えた。

(父さん、目を覚ましてくれよ)

いくら揺り動かしても、父が目を覚ますことはもうなかった。


唯一の支えだった父の死。それは穏やかな日々の終わりであり、凄惨な飢えの始まりだった。

見習いの子にすぎない彼があの庭に呼ばれる理由はどこにもなかった。

すがりつく場所も、明日のパンを買う当てもない。父を土に還せば、手元のわずかな蓄えなどすぐに底をつく。


(食い繋ぐには、戦いに行くしかない)

泥と血にまみれて魔物を狩り、日銭を稼ぐ兵卒になるしかなかった。


少年は形見の剪定バサミを握りしめると、住み慣れた場所をあとにし、兵を募る城下外縁の屯所(とんしょ)へと歩き出した。


やがて、王宮とは正反対の、魔物の棲む荒野へ派遣されることになる。


前編・中編・後編で日曜の夜に完結予定です。

m(_ _)mよろしくお願いします。

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