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黄金の軍神は至宝の真珠を庇護する  作者: アルケミスト


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7/11

「大きな声をあげぬように。

 次の角を曲がったら、その先はオークション会場だ」


「は、はい。

 申し訳ございません。

 思わず……」


(この方は一体何者なのかしら、黒幕を捕まえるなんて……。

 黄金の軍神様は、憲兵隊の兵士なのかしら。

 だとしたら強いのも頷けるけど……)


「注意を払いますわ。

 隊長様」


「隊長?」


 巨悪に立ち向かう勇壮な黄金の軍神を、大層頼もしく感じて、ついくだけた調子で返してしまった。


「あなたはとても強いから憲兵隊員でしょう?

 もしかしてもっと階級が上でしたか?」


 黄金の軍神は、太陽を連想させる輝くような微笑をシャロンに向けた。


 思わず心が舞い上がる。


「面白いお嬢さんだ。

 いい読みをする、なかなか近い」


 そう言い、あやすように頭をぽんぽんと叩かれた。


「シャロンですわ。

 お嬢さんではなく、シャロンとお呼びくださいませ」


 頭を叩く仕草も、お嬢さんという呼び方も、どちらも子供に対する扱いではなかろうか。


 背伸びをするわけではないが、黄金の軍神には名前で呼んでもらいたいという気持ちが、シャロンの心の中に湧き上がった。


「シャロンお嬢さん」


 しかし、黄金の軍神の少女をあやすような口調に、シャロンは唇を尖らせる。


 その表情を見た黄金の軍神が、もっと楽しそうに笑ったので、羞恥心でいっぱいになった。


(子供っぽい仕草だと思われたかしら、なんて恥ずかしいの……。

 でも、やはりこの方は憲兵隊員なのね。

 異常な事態に場慣れしているはずだわ)


「差し支えなければ、黄金の軍神様……、あなた様のお名前も……」


 黄金の軍神は人差指を口にあてた。


 様子を窺うため、目線を角の向こうへと向ける。


 何かを確認すると、背後で控えていたシャロンの耳元に、そっと顔を寄せ小声で囁いた。


「わかっているね、シャロン。

 私が暴れたら逃げなさい」


 黄金の軍神は布を顔に巻きなおすと、シャロンの返事を待たず一歩足を踏み出した。


 堂々と角を曲がり、悠々とした足取りで廊下を歩いていく。


 シャロンは柱の陰からその様子をそっと覗き見た。


 黄金の軍神の背中越しに、シャロンを強引にここまで連れてきたクーリオが、右を見たり左を見たり、扉の前で落ち着かない動きを繰り返しているのが視界に入った。


 クーリオは黄金の軍神が余裕の態度で現れたことに驚き、慌ててジャケットの胸元からナイフを取り出し突き刺すポーズをとった。


「おいっ!

 貴様、何ひとりでうろちょろと……、見張りの連中はどこへ行った?」


「さあね。

 誰も呼びにこないから自ら来てやったぞ、感謝してもらいたいね」


「ふ……、ふざけるなっ!

 貴様、何か妙なことを企んでいないだろうな」


 黄金の軍神は、唾を飛ばして喚くクーリオに向かって、平静な口調でこう言った。


「妙なこと?

 こんな状態なのにか?」


 黄金の軍神は、何もできませんという風に、ひょいと手首の手枷を見せた。


 クーリオはそれを確認すると、安堵の息を吐いてナイフを胸ポケットに戻した。


「そ、そうだな……、その状態では何もできないか。

 さあ、来い。

 男奴隷の登場を、まだかまだかと待ちかねている奥方が、野次を飛ばしまくって騒ぎたてている。

 収拾がつかなくなる前に、早く舞台に出るんだ」


「奥方が野次?

 どこの貴族だ、品のないことだな」


「黙れ!

 ……貴様、顔を隠している布を取るんだ!」


 パシンと鋭い音を立て、傍若無人なクーリオの手が鋭く弾かれた。


 抵抗されると思っていなかったのだろう。


 クーリオが怒りの表情を見せたが、黄金の軍神が発する強靱な気に気後れしたのか、口角をいやらしくあげて冷静なふりを装った。


「ふ、ふんっ。

 勝手にしろ、貴様のように背も高く筋肉質の男は、不細工な顔でも需要がある。

 ただし、朝から晩まで自慢の肉体をこき使われるだろうがな」


 虚勢を張るクーリオに腕を引っ張られ、黄金の軍神が扉の向こうに足を一歩踏み入れた瞬間。


 肩越しに振り向き、視線をシャロンに向けた。


『今だ、逃げろ』


 目でそう語ると黄金の軍神は、クーリオが内部へ顔を向けた瞬間、背中を勢いよく突き飛ばした。


 クーリオは、潰された蛙みたいに「ウギャッ」と醜い声をあげ、その場にへたりこむ。


 その隙に黄金の軍神は、手枷など無いに等しいくらいの俊敏さで、そのままオークション会場の人混みに向かって駆け出した。


「ば、ばかめ……」


 腰が抜けたのか、床にひれ伏したまま立ち上がれないクーリオが冷笑した。


(黄金の軍神様……。

 騒ぎを起こすとおっしゃったけど、わたくしを助けるために囮になろうと……?)


 這いつくばったまま、よたよたと部屋に入っていくクーリオに見つからないよう、シャロンは足音を潜め、扉の近くまで寄った。


「警備兵、その男を捕まえろ!

 逃げ出した商品だ!」


 クーリオが叫ぶとそれまで騒々しかった紳士、淑女の格好をした野獣連中が、一斉に驚嘆の声をあげた。


「まあ、あの奴隷。

 逃げ出そうとしたみたいよ」


「生意気ねえ、落札できたら躾からやり直しかしら」


 歪んだ欲望を秘めた女性たちが、扇を振りながら楽しそうに話し合っている。


 布からこぼれ落ちる艶やかなプラチナブロンドだけでなく、隙間から覗く整った顔だちや、簡素な服に浮かび上がる筋肉質な身体を、舐めるように見入っていた。


 屈強な警備兵が数名現れ、瞬時に黄金の軍神を取り巻く。


 その拍子に布がはらりと落ち、端整な顔だちが露わになると、もっと歓声が沸き上がった。

 

「どこかで見たような気がするわねえ。

 どこでだったかしら」


 ひとりの女性がそう言うと、他の女性も同じように思ったのか首を傾げて、その風貌をどこで見たのか思い起こそうと首を捻っている。


 シャロンも同じように、記憶の片鱗を探ってみた。


(確かに、どこかで見たことがあるわ。

 でも、どうしても思い出せない……)


 そんなことを考えていたら、意外にも黄金の軍神はあっけなく拘束された。


 両脇を警備兵に挟まれ、すっかり大人しくなったのである。


 シャロンが無事に逃げたかどうか確認しようとしたのか、黄金の軍神が振り返った。


 扉から覗き込むシャロンと目が合うと、驚きの表情で見返す。


『なぜ、逃げなかった』


 唇が責め立てるようにそう動いたが、シャロンは瞼を伏せ、ゆっくりと首を振った。


「さあ、オークションを再開しますぞ!

 活きのいい美形の男だ!」


 会場の女性達は狂喜乱舞で、皆それぞれ、高い金額を提示し始めた。


 結果、このオークション会場では大層浮いている、真面目そうな眼鏡の男性が落札した。


 その男性は、金で奴隷を買うような人物には見えなかったが、驚くほどの金額を提示したところを見ると、男の奴隷が欲しいと思ったのだろう。


 もうここに用はないとばかりに、大人しくなった黄金の軍神を連れて、男性はオークション会場から出て行った。


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