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シャロンはその日から、食事制限などどこへやら、まわり中からたくさんの食事を勧められることとなった。
「王妃様、本日はフォアグラと牛フィレ肉のソテーでございます」
「シャロン王妃、搾りたて牛乳を低温殺菌したものでございます」
ここのところ、毎日朝昼晩の三食に、高級食材を使った料理が並ぶ。
食べられる量でないと一目見てわかるのに、何かと理由をつけられ、食べるように促される。
その理由とは、勿論これである。
というかこれ以外はないのだが……。
「お腹のお子様の分も食べてくださいませ」
「立派なお世継ぎが生まれるといいですねえ」
正直、大人三人分くらいの最をテーブルに並べられるので、お腹の中の子供分というには無理がある。
しかし周囲は本気であった。
浮かれているのは料理人や給仕人だけではない。
父母も明らかに舞い上がっていた。
「シャロン、気分はどうかな。
今日は食が進んでいるかい?
ああ、立ち上がってはいけないよ。
紅茶なら私が頼もう」
「おくるみにとてもいい生地を親戚がくれたのです。
それに国の紋章の刺繍を入れましょうか。
ああ……、わたくしの孫が次期国王……」
まだ男の子か女の子かなんてわからないというのに、次期国王とはなんとも気が早さ。
まるで宝物を扱うような、過剰ともとれる周囲の対応に、シャロンは困り果てていた。
「レスター様が戻られたら、目を覚ましていただくよう進言しないといけないわ。
このままでは宮廷楽士にベイビー狂想曲という題の曲を作られてしまう」
それほど王城内は、シャロンの懐妊に盛り上がっていたのである。
その翌日、レスターが単身で帰城した。
シャロンが出迎えると、丁度レスターは脱いだマントを執事に預けている最中だった。
早馬を何度も何度も乗り換えてとのことで、疲労しているかもしれないと思ったが、それでもシャロンは言わなければならなかった。
「レスター様」
声をかけると、レスターは興奮した面持ちで振り向いた。
顔色もよく、動きもきびきびしており、とても疲れているようには見えない。
声をかけると大股で歩み寄り、シャロンの肩にぽんと手を置いた。
「シャロン。
懐妊というのは事実か」
「はい、宮廷医師はそうおっしゃいました。
……あの、その件でお願いごとがございまして」
この騒動ともとれる懐妊祝いのムードを、どうか収めてくださいませ。
と口にする前に、レスターのほうが目を輝かせて、シャロンをぐわりと抱きしめた。
「シャロン!
でかした!
早速明日より、国をあげての祭りとしよう」
「ええっ?」
「めでたいことだ。
私の息子……、いや、娘かもしれぬのだな。
どちらにしても瑞祥だ。
催事の準備をしようではないか。
パレードの用意も必要だ」
(う、浮かれまくるなんて……。
そんな……)
「レスター様、お待ちくださいませ。
そのように大がかりな……」
「お願いごとというのは、動きやすいように、腰のあたりがゆったりしたドレスでも欲しいということか?
何枚でも作らせよう」
(お父様やお母様、ドロシーたちだけでなく、レスター様までが歓喜に酔っていらっしゃるわ。
ここは、冷静かつ沈着に物事を考えられるひとに、ぜひとも諫めていただかないと)
「ル、ルード様は?
ご一緒ではございませんの?」
「ルードは、ともに帰城をと誘ったが、まだ現地での仕事を残しているので、それを終えるまでが動けないと言うので置いてきた。
相変わらず朴念仁というか、堅物というか」
(さすがですわ。
いつでも冷静なお方。
ルード様が戻られたら相談してみましょう)
シャロンは、ルードが戻ってくるのを心待ちにした。




