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シャロンはその日から、これまで食していた量の三分の一くらいの料理を、テーブルに並ベるようお願いした。
それは料理に問題があるわけでなく、シャロンが太ったからだという説明も付け加えた。
給仕人はいい顔をしなかったが、シャロンにとってこれは死活問題。
もしこの調子で太り続けてしまったら、王妃となってからあつらえたドレスが、全て入らなくなってしまう。
王妃であるシャロンに与えられるものは、全て公費でまかなわれている。
(ドレスが全部入らなくなってしまったら……。
わたくしは税を無駄遣いしたことになるわ。
それも、わたくしの食べすぎが原因だなんて……)
そう考えると、何があっても痩せねばならないと考えた。
「王妃様。
この献立は料理人が日々栄養バランスを考えて、心を込めておつくりしている料理です。
食べないとなると料理人が悲しみます」
「勿論料理人の、心遣いを理解しておりますわ。
でもわたくしは元の体形に戻らねばならないのです」
「王妃様はお太りになってなどおられません。
不必要な行為だと思われますが」
給仕人がなんと一言おうと、シャロンは以前の体形に戻りたい。
「太めの王妃だなんて……。
レスター様に恥をかかせてしまうわ」
シャロンのお腹から、きゅるきゅると鳴る音が頻繁に聞こえたが、父母もドロシーも給仕人も、シャロンの自制心の前では何も言えなかった。
ところが、シャロンの体形に変化が見られるよりも先に、別の変化が訪れた。
ここ数日、微熱や胸のむかつきといった体調不良に悩まされるようになったのだ。
シャロンは心配した父母とドロシーに付き添われて、宮廷意思の元へ足を運んだ。
宮廷医師は、レスターの政務室近くに医務室を構えていて、レスターの意向により王城で働く人々も診てもらえるように常駐している。
シャロンは、医務室で医師と向かい合わせの椅子に座った。
その左右に、心配そうな顔の父母とドロシーが立っていた。
医師はシャロンの顔を見て、目を細めた。
「王妃様。
お顔に丸みが……。
胸も大きくなっておりますし、腰も張っておりますね。
どこか身体に異変を感じますか?」
シャロンは、頬を押さえながらこくりと頷いた。
「はい、最近とても眠くて……。
時折微熱も出るのです。
痩せたいと思って食事制限をしたせいでしょうか……」
「これ以上痩せたいのですか?
食欲のほうは?」
「ありません。
時々気分も悪くて」
食事制限を始めた当初は、空腹感に困ることが多々あった。
だがここ数日は、空腹どころか、胸がむかむかして、少量の食事ですら取ることができない。
眠りも浅く、熱で頭がぼおっとするときもある。
「風邪でしょうか?」
医師が首のリンパに指を当てたり、脈拍を測ったりしたのち、こう訊いてきた。
「王妃様、月のものの最後は、いつ頃でございましたか?」
なぜそんなことを聞いてくるのだろうと思いながらも、シャロンは目線を斜めに向けて、最後の月経がいつ頃だったかを思い出そうとした。
レスターに一晩中抱かれた、視察へ出発する前夜の数週間前だと思われる。
つまり約四週間前。
シャロンがそう告げると、宮廷医師は「ふーむ」と顎髭を撫でさすった。
そして血液を採取したり、血圧を測ったりすると、聴診器を机の上に置き、こう断言した。
「王妃様はご懐妊しているのだと思われます」
「え……」
驚きで何も言えないシャロンに代わって、父母とドロシーが歓声をあげた。
「シャロン、でかしたぞ!
男の子かな、女の子かな。
ああ……、できれば男の子が望ましいのだが」
「まあぁっ、わたくしの娘が、世継ぎを……。
夢みたいだわ!」
「シャロン王妃、おめでとうございます。
乳母を手配しなければいけませんねえ。
楽しみですよ、国中がもっと沸き上がりますねえ」
瞬く間に、王城内に吉報が飛び交った。
それは、遠征に出ているレスターにも、早馬でもたらされた。
数日後には、急ぎレスターが帰城するとの連絡が入った。
可憐で愛らしい若い王妃が、結婚式の数ヶ月後には第一子を妊娠との福音に、城中が幸福と歓喜で満ちあふれた。
シャロンは太ったわけではなかった。
お腹に新しい命を宿していたのである。




