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黄金の軍神は至宝の真珠を庇護する  作者: アルケミスト


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 シャロンは、金色の髪をはためかせ悠然と微笑むレスターを、上から下まで見回した。


 だらりと伸びた左腕から、ぽたりぽたりと血が滴る。


 レスターの足元に、血に染まったフルーレが落ちていた。


 シャロンは小刻みに震える身体を鼓舞して、レスターにおずおずと近寄った。


 間近で見れば見るほど流血が激しく、その傷が深いのだと知れた。


「わ、わたくしのために……。

 こんなに愚かなわたくしのために……、こんなことって……」


「シャロンは愚かではない、誠実で素直なだけだ。

 それは私にとって、魅力ある美徳に映る」


「で、でも……、わ、わたくしのせいで……」


 レスターは、シャロンが流す美しい涙を、温かな指でそっと拭った。


「我が妻となる女性は、少々泣き虫なようだな」


 シャロンは、その言葉の意味を理解できず、呆けた表情でレスターを見上げた。


 レスターは、戸惑うシャロンの髪を優しく撫で、ふっと額に口づけを落とした。


 そして、放心状態のシャロンに、情感を込めてこう言った。


「シャロン、このよう場所でプロポーズする無骨な私を、どうか許してくれ。

 花束もなく、宝石もなく、それどころか正装もしていないという不作法で、大変申し訳ないのだが」


 シャロンはふるふると首を振り、レスターの煌びやかなエメラルドの瞳を覗き込んだ。


 慈愛に満ち、温情に溢れ、それでいて颯爽とした凜々しさと精悍さを兼ね備えた偉大なる国王レスター。


 花より華やかな美貌と、エメラルドより高貴な宝玉が、魅惑的な輝きを伴ってシャロンの瞳孔にしっかりと映っている。


 シャロンの両手を優しく取ると温かく大きな手で包み込み、レスターはゆっくりとその場に跪いた。


「シャロン、愛している。

 私の伴侶となってほしい」


 シャロンは、瞳から溢れ出る雫を拭うことなく、万感の思いを込めて返答した。


「は、はい……」


「我が愛しの姫君、シャロン」


 レスターはそう言うと、すっと手を伸ばし涙に濡れる頬に指先で触れた。


 シャロンの視界に、血痕のついた指が入る。


「レスター様……、わたくしのせいで、このようなおけがを……」


「名誉の負傷というところだな」


「まあ、そんな悠長なことを……」


 シャロンは慌ててドレスの裾を破った。


 ドロワーズの裾が見えたとしても、今は一切気にならなかった。


 レスターのけがを押さえる包帯代わりのものが、早急に必要だと判断したからである。


 シャロンはたどたどしい手つきで、ドレスだった布きれをレスターの腕に巻き付けた。


 ほどけないようにぎゅっと結び、布を傷口に固定する。


「これで城に戻るまで持つでしょうか……」


「ありがとう、シャロン。

 大丈夫だ、きっと持つ」


 慣れない手当てに、不安そうな表情を浮かべるシャロンを安心させようと、レスターは腕に巻かれた布に口づけた。


 そんな仕草にもレスターの愛を感じ、シャロンはもっと涙を流してしまう。


「何を泣く。

 もう黒幕は捕まえたのだ。

 不安に怯えることは何もない」


「違います……。

 不安で泣いているのではございません」


「では、なぜ泣いているのか」


 レスターの問いに、シャロンは涙を流しながら答えた。


「嬉しくて……、信じられなくて……。

 レスター様、本当にわたくしでよいのですか?

 このおけがもわたくしのせいで負ってしまったというのに……。

 こんな至らぬわたくしで……」


 レスターは、シャロンを安堵させるために「いいや」と首を振りながら名言した。


「そなたは至らぬ娘ではない。

 華奢で繊細でか弱いのに、心の中に強いものを持っているそなたを、私は心の底から愛そう」


 至上の愛に溢れた言説を心で受けたシャロンは、思わず歓喜に溢れた愛を口にした。


「レスター様……、わ、わたくしも……、レスター様を愛しております。

 花束は嬉しいですが、宝石は結構ですわ……。

 もっと価値ある緑の宝石を知っておりますもの。

 それにレスター様の正装は軍服です。

 白い軍服姿が一番好きですわ、とても似合っております」


 レスターが破顔し、惜しげもなく艶やかな微笑を振りまく。


「私の軍服姿が?

 そのようなことを言ってくれるのは、女性ではシャロンだけかもしれぬ。

 ルードや憲兵隊の連中になら、酒の肴でいくらでも言われるのだがね」


「まあ、レスター様ったら……」


 こんな局面でも場を和ませるため冗談を言うレスターに、シャロンは至上の愛を感じた。


 この場にいてもいいのだろうかと、居心地の悪い思いをしていた憲兵隊員が、誰からともなく拍手を始めた。


 それは徐々に湧き上がり、すぐに盛大な喝采となった。


 シャロンは傷口に触れぬよう、レスターの逞しい胸に寄り添いながら、祝福の歓声を受け止めた。


 レスターは、たおやかなシャロンの肩をそっと右腕で抱き寄せ、誓いの口づけを額に落とす。


「レスター元帥閣下、おめでとうございます」


「キスは唇にお願いします」


 冷やかす憲兵隊を横目に、わざとらしく咳払いをするルードが、ため息交じりにこう愚痴た。


「レスター元帥閣下は、こんなところが男らしくて好ましいのですが、いかんせん、少しばかり情緒がない。

 シャロン嬢がそれを理解してくれる懐の大きな女性でよかったです」


 その独り言は、お互いしか見えていないレスターとシャロンの耳には届かなかった。


 その横で、両親が口をあんぐりと開けて呆然と立ち竦んでいた。


「詐欺だとばかり思っていた国王陛下との結婚が、まさか現実になるなんて……」


 ルードは頃合いだろうと、眼鏡の中央を人差指で押さえ、レスターの耳に囁いた。


「レスター元帥閣下。

 貧血で倒れる前に、早く傷を医師に診てもらいましょう。

 そのあとゆっくりとプロポーズの続きをしてください」


 シャロンは、ルードの言葉にはっとなり、慌ててレスターに帰城を促す。


「そうですわ、レスター様っ!

 急ぎ城に戻って医師に診てもらわなくては!」


 動転してあたふたする愛しい女性と、何があっても平静な副官を交互に見比べ、レスターは嘆息し、右手でプラチナブロンドの髪を掻き上げた。


「本当に我が副官は、几帳面で生真面目だ。

 少々、場の雰囲気を解さないという難点はあるがね」


 よい場面を邪魔されたレスターは、文句を言いながらもシャロンとルードの懇願を受け入れ、撤収の合図を出したのだった。


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