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黄金の軍神は至宝の真珠を庇護する  作者: アルケミスト


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4/11

 ところが、ピーターソンはしばらくは館を訪れず、いつまで経ってもお披露目パーティどころか、社交界や上位貴族主催のお茶会にさえも呼ばれることはなかった。


 そして十八歳の誕生日を、何事もなく迎えた。


 もちろん、結婚を申し込んできたという相手との顔合わせどころか、名前も知らないままだ。


 父と母が勝手に取り揃えたドレスや宝石、華やかな飾りがついた帽子や派手な靴が、毎日のように届く。


 クローゼット部屋にとうとう入りきらなくなり、貴賓室以外の部屋すべてが衣類で埋め尽くされた。


 その後も乱費は続き、シャロンの結婚にまったく関係のない絵画や高価な食器類、調度品にまで及んだのである。


 シャロンは目が点どころではなかった。


 いくら男爵家とはいえ、財産や資産などは限られている。


 これでは嫁ぐ前に破産してしまうかもしれない。


 シャロンは目を覚ましてほしくて何回も何回も進言した。


 その度に、父母はこう言った。


「これくらいしないと、周りに認められないとピーターソン様がおっしゃるのだよ」


 父母は世間知らずかもしれないが、浪費家ではない。


 そのふたりが、ピーターソンという男性の持ち込んできた話を鵜呑みにし散財するさまは、あまりにも奇妙に見えた。


 その日の午後、フィヨルド公爵ピーターソンが館を訪れた。


 フィヨルド公爵ピーターソンは、年の頃三十代後半の伊達男で、いつも高級ジャガード仕立てのタキシードに、品の良いシルクのネクタイを身に着けていた。


 宝石をちりばめた懐中時計や高級革靴など、持つ小物も贅沢かつ華美な趣味をしている。


 長身で、がっしりとした体格。


 この国では珍しい宵闇のような黒髪に、黒い瞳の持ち主。


 表情に変化は少なく、いつも目を細めて周りを慎重に窺っている。


 どこか異国の香りを感じさせるエキゾチックな雰囲気のひとで、脚が悪いのか、銀の持ち手がついた杖を持っていた。


 ピーターソンが気取った手つきでシルクハットをくるりと回すと、満面の笑みを向けた。


「これはこれはシャロン嬢、相変わらずお美しい。

 まるで、泡から生まれた美神のようですな。

 いや、それとも磨き上げた最高級真珠のようと申し上げましょうか」


 口から先に生まれてきたようなひとだと思った。


 そして、シャロンを子供扱いしているのか、まったく相手にしない様子を見せた。


 シャロンは、ピーターソンがコートを脱ぐ間も待つことができず、早々に肝心なことを訊いた。


「ピーターソン様。

 あなた様からご紹介いただけるという、わたくしのご結婚相手というのは、どこのどなた様なのでしょうか」


「それを訊いてどうするね?」


「できれば、お断りしたいと思っております。

 わたくしは、早く地に足がついた生活に戻りたいのです」


 ピーターソンは細い目を精一杯見開き、心底驚いたような顔をした。


「断るだって!

 身の程知らずのお嬢さんだ!

 そんなことをしたら君のご両親が、どうなるかを考えて口にしているのかね?」


「どうなると、おっしゃいますと?」


 ピーターソンは大仰に振る舞ったあと、ささめくようにそっと言った。


「不敬罪に問われるということですよ。

 何しろシャロン嬢に結婚の申し込みをされているお方は、格上も格上、私など足元にも及ばないような尊いお方。

 お嬢さんの我が儘でどうにかなるような相手ではないのです。

 お父さんとお母さんを牢獄に繋ぎたいのかね?」


 牢獄という、極めて物騒な単語を耳にしたシャロンは、想像しただけで指先が震え、唇がわなないた。


(結婚のお申し出をお断りしたら、不敬罪に問われるほどのお方、公爵家よりも格上だとおっしゃられる方。

 それは一体、どなただというの?)


「世間知らずの無知なお嬢さん、二度と結婚しないなどと勝手を言って、ご両親を困らせないように。

 そして相手を詮索するような卑しい真似もおよしなさい。

 たかだか男爵家の令嬢ごときが、注文をつけられるような相手ではないのだから」


 相手を教えてくれと問うただけなのに、卑しいと言われるなんて夢にも思わなかった。


 そのひどい言われように、心をひどく傷つけられ呆然としていると、慌てた様子の母が玄関口に現れた。


「まあ、ピーターソン様。

 どうぞ、貴賓室に温かいお茶とマフィンをご用意しておりますわ。

 シャロン、ピーターソン様をご案内せず何を……。

 申し訳ございません、気のつかない娘で」


「いえいえ、可愛らしいお嬢様と楽しくお話をさせていただき、誠に光栄の至りですよ」


「そうおっしゃっていただけますと……。

 さあ、どうぞ。

 暖炉のある部屋へ」


 ピーターソンは、先ほどまでシャロンに向けていた恐ろしい顔を和らげ、母の後について片足を引きずりながら、貴賓室に入っていった。


 シャロンは自分の知らぬところで、わけのわからぬ話が着々と進んでいることに恐怖を覚え、そして抗えぬ運命の歯車に怯えるしかなかった。


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