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「あんな愚かな親でも、助けたいものかねえ。
私にはわからない感情ですな」
そう言うと、シャロンの柳腰に絡みつけていた手を、胸の谷間へと移動させた。
「あっ……、何を……」
ピーターソンの大きな手のひらが、二つの胸頭をすっぽりと覆い、荒い手つきで柔肌を揉みしだく。
衝撃的な行為に身体が硬直して、身動きひとつできない。
ピーターソンは飢えた獣のような顔を、涙を浮かべるシャロンの顔に寄せてきた。
「本当に下位貴族は馬鹿ばかりだ。
王の使いに扮した私が、国王に見初められた、目にとまったと言うと、すぐに信じて金をまき散らすのだからな」
「ひどい……、悪魔……、人間の考えつく事じゃ……」
ピーターソンは、恐怖で動けなくなっているシャロンの身体を引き寄せ、下半身を深く密着させた。
シャロンは、敵から身を隠したいのに、巣穴がどこにも見当たらないウサギみたいに、小さく震えて縮こまった。
ピーターソンは怯えるシャロンを心底楽しそうに見下ろし、立ったまま腰を揺らし始めた。
「シャロン嬢のご両親も、王族になれると本気で信じていましたよ。
秘密事項だから口外しないように、本決まりになるまで娘のシャロン嬢にもけしてしゃベるなと言ったら、本当に口を開かなかった。
扱いやすく、金も引き出しやすく、本当によかったですよ。
計算外だったのは、オークションの最中に摘発があったことだけですね」
ピーターソンが淫猥な仕草で下半身を擦りつけたまま、器用にドレスの裾をめくり上げた。
インナーのドロワーズに手を差し込まれ、びくりと全身が震えたが、関係ないとばかり指はそろそろと尻丘をくすぐってきた。
これから迫りくるであろう出来事に身が竦み、シャロンは悲鳴のひとつもあげられない。
「これ以上、この国で危ない橋を渡るつもりはないのでね。
この滑らかな肌を楽しんだら、すぐに出発だ。
船旅中、お嬢さんの無垢で清らかな身体に、性を徹底的に仕込んでやろう。
海外で高く売れるかもしれない。
それとも、私に絶対服従を誓うのなら、格上げして妻にしてあげてもいいですよ。
お嬢さんのような美しい娘なら、どこへ行っても自慢できるでしょうな、は、はははは……」
ピーターソンが笑いながら、両脚の間にある秘所に触れようと手を伸ばしてきた。
それはまるで、ナメクジが肌をゆるゆると這いまわっているようで、気持ち悪さしか感じない。
「レスター様……、助けて……」
「鬱陶しい口ですね、塞いであげましょう」
ピーターソンの薄い唇が、シャロンに迫ってくる。
父母の命と引き換えならば、この身を差し出しても、泥にまみれてもいいと決意したのに、それは嫌悪をなくすこととは無関係だった。
ピーターソンの荒い鼻息と生臭い息が顔を覆う。
皮膚が怖気でぴりぴりと引き攣っている。
(レスター様、雄々しい黄金の軍神、わたくしの救世主、助けてくださいませ……)
胸中で何回も名を叫ぶが、きっとレスターまでは届かない。
王城を出たのはシャロン自身の意思、愚かなシャロンを助けにきてくれるなど、夢でもありえない。
「さあ、その可愛らしい唇を開きなさい。
両親を助けたければ、私をその身に受け入れなさい。
自ら私を誘惑するように振る舞う態度は、大変歓迎しますよ」
自分から嫌悪する男を誘うなんて、できるわけがない。
しかし、そうとは言えず諦めの境地で、唇をゆるゆると開いた。
「さあ、舌を伸ばして。
……お嬢さん、キスは初めてなのかね?
それは実に光栄なことだ」
ピーターソンは、小柄で華奢なシャロンをすっぽりと腕の中に取り込み、強い力で抱きしめた。
下半身どころか、胸も腰も潰されそうなほど密着している。
(怖い……、でもお父様とお母様のために、耐えなければ……。
でも……嫌……、怖い……助けて、わたくしの……)
願いも虚しく、ピーターソンの唇が触れそうになったその瞬間、扉がバタンと激しい音を立てて、勢いよく開かれた。
「シャロン!
無事か!」
呼ばれて振り向くと、突然視界いっぱいに、眩い太陽が映り込んだ。
それはまごうことなき、黄金の髪をたなびかせた勇壮な軍神、レスターその人であった。
「レスター様っ!」
煌めく太陽を反射するプラチナブロンド、エメラルドの双眸に引きしまった口元、筋肉質な身体にまとう白い軍服は、清冽で気高い精神のレスターに似合っている。
だが今は、メラメラとした怒気を、灼熱の炎をまとったようにその身に宿していた。
レスターの背後にはルードが控えていて、縄をはずされた父母が立っており、逆に縄で縛られたクーリオが、無様にも床に転がされていた。
「お父様、お母様!」
駆け寄ろうとするシャロンの肩を、ピーターソンの大きな手のひらが、がっしりと掴んだ。
「美しい姫君との逢瀬を邪魔するとは、なんとも野暮な男ですなあ、国王陛下。
シャロン嬢のはしたなくも淫らな艶姿を、そんなにも覗き見したいのかね」
なぜか余裕を見せるピーターソンが、そう飄々と嘯くと、駆けつけた連中に見せつけるようにシャロンの太股を撫で回した。
シャロンは、ドレスの裾を腰までまくり上げられているというあられもない恰好で、ピーターソンに抱き込まれ身を震わせていた。
真っ青な顔のシャロンを目の当たりにしたレスターが、怒りに満ち溢れた業火の炎でピーターソンを睨みつけ、すらりと剣を抜いた。
「フィヨルド公爵ピーターソン、人身売買オークションの主犯として取り調べさせてもらう。
逃げようとしたり暴れたりしても無駄だ。
この館は取り囲んだ、大人しく拘束されろ」
ピーターソンは、真実を突きつけられ包囲網を敷かれたというのに、シャロンを抱きしめたまま、悠然とした表情と口調を崩さなかった。
「おやおや、なんのことやら。
証拠もないのに私を拘束すると?
人権侵害ですよ」
レスターは剣を向けたまま、攻撃の意思を剣先に込めて、ピーターソンを鋭く睨んだ。
この期に及んでも、慌てる様子もなく虚言を弄するピーターソンに、シャロンは更なる恐怖を感じ呼吸もままならない状態でレスターを見つめた。
レスターはその瞳を受け、安心させるために深く頷いた。
そして、カツカツと床を響かせ剣の切っ先を向けながら、ふたりに近づいた。
「貴様の意向に添えなくて悪いが、証拠は全てあがっている。
私に貴様のペテンは通用せぬ」




