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黄金の軍神は至宝の真珠を庇護する  作者: アルケミスト


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 裏門の近くとベアトリスは口にしたが、かなり離れている場所に案内された。


 人通りの少ない街のはずれ、重厚な煉瓦橋の上で、ひとりの男性が川の水面を眺めていた。


 その男性はシャロンの姿を確認すると、目を見開き、心底驚いたような顔を向けた。


 長身で、がっしりとした体格。


 宵闇のような漆黒の髪に、同じく黒い瞳の持ち主。


 銀の持ち手がついた杖を持っている。


 異国人のような容貌、醸し出す冷たい雰囲気、フィヨルド公爵ピーターソンに間違いない。


「これはこれはシャロン嬢。

 久し振りですな。

 まさか本当に連れてくることができるとは、ベアトリス侯爵令嬢も、なかなか口が達者なようで……」


 ピーターソンがベアトリスに、いわくありげな目線を送ると、ベアトリスは得意満面の笑みを浮かべ、ドレスの裾を摘まみ慇懃に一礼した。


「ピーターソン様の教え通りにしたまでですわ」


 シャロンはそのやり取りを無視して、ピーターソンに詰め寄った。


「ピーターソン様、お父様とお母様の行方をご存じというのは本当のことですか?」


 ピーターソンは、今日も仕立てのいいタキシードにシルクハットという気障な格好をしていた。


 派手なシルクのネクタイに、宝石のついた懐中時計と、相変わらず小物も洒落ている。


 エキゾチックな黒い髪と黒い瞳がそう思わせるのか、それとも表情が薄いからか、全体的に硬質で陰湿な印象を受ける。


 淡々とした口調も加わって、感情が見えにくい。


 ピーターソンは、銀の持ち手に宝石がふんだんに埋め込まれた杖をつき、片足を引きずりながらシャロンに近寄ってきた。


「はい、その通りですよ。

 安心してください」


 ピーターソンは珍しく口端を広げたが、目は笑っていないような気がする。


 それでも父母が無事だと聞いて、ピーターソンに感謝する気持ちがあふれ出す。


「よかった……、無事でしたのね。

 お父様……、お母様……。

 ピーターソン様、教えていただき誠にありがとうございます。

 わたくし、心からお礼を申し上げますわ」


 シャロンが祈るように手を組み感謝を捧げると、ピーターソンが満足げに見返してきた。


「そろそろ、わたくしは失礼してもよいかしら」


 その光景を他人事のような顔で見ていたベアトリスが、白けた調子で話に割って入ると、ピーターソンが嘘くさい微笑みを向ける。


「おお、ベアトリス嬢。

 ここまでシャロン嬢を連れてきていただき、誠にありがとうございます。

 助かりましたよ」


「お互いの利益のためです。

 ……この件は、くれぐれもご内密に」


「そうですな」


「では、ごきげんよう。

 シャロンちゃん、ご両親にお会いできるとよいですわね」


 ベアトリスは、ドレスの裾を持ち上げて優雅にお辞儀をすると、嘲笑を浮かべながら王城へと向かって駆け出していった。


 シャロンは消えゆく真っ赤な後ろ姿を見て、一瞬で心もとない感情に襲われる。


(なぜかしら、胸騒ぎがする……)


 レスターに相談してからここに来るべきであったと、今更ながら後悔した。


 早く父母の安否を確認し、一度王城に戻ったほうがよいかもしれない。


「父と母は、どこにいるのでしょうか?」


 ピーターソンは、シャロンの問いに形式的な笑顔を浮かべ、安穏な口調でこう返した。


「私の館に助けを求めて来られましてね。

 今は私がご面倒を見ておりますよ。

 シャロン嬢が借金取りに連れて行かれたと日々嘆いておられましてねえ。

 私どもがいくら心を込めておもてなしをしても、まったく心が晴れないようで、ほとほとまいっております」


「お父様、お母様……」


 シャロンは、その近況を聞いただけで涙が溢れそうになった。


 シャロンが王城に匿われて不自由なく暮らしていたときに、その事実を知らない父母は、日々嘆き悲しんでいたという。


(一刻も早く対面して、無事を知らせたいわ。

 お父様……、お母様……)


 シャロンの焦燥感に火をつけるように、ピーターソンが説明を続けた。


「最近は夜も眼れず、食も進まず、すっかりやつれ果てておられますよ。

 その姿がなんとも憐れで……。

 それでシャロン嬢を捜さねばと私も決意しましてね」


 ピーターソンがシャロンをじろじろと眺めながら、皮肉めいた一言を投げかけた。


「……シャロン嬢は、肌つやもよく健康そうで何よりですねえ。

 王城でいい思いをされたと見える。

 お父様もお母様も安心されると思いますよ、ずっと心配されていましたから」


 それを聞いたシャロンは、罪悪感で身も心もいっぱいになり、一瞬で意気消沈した。


 レスターに救済されたシャロンは、美味しい食事を楽しみ、王城で安全に暮らし、いい服を身に着け、華やかな場所で踊り、幸せなひとときを過ごしていた。


 それに比べて、ピーターソンの話を聞く限り、両親は大変辛い思いをしていたという。


「苦労された様子の片鱗もないシャロン嬢に、両親はさぞかし驚くでしょうな、売られたと思っていたはずの娘が王城に匿われ、何不自由なくぬくぬくと暮らしていたのですから。

 それを知ったら、大層喜ぶと思いますよ」


 少々誤解を招く言い回しだが、この場では、自分を恥じる感情が優先された。


(お父様とお母様が、嘆き苦しんで、わたくしを心配していらっしゃったというのに……、わたくしはなんて薄情な娘なの、美味しい紅茶やお菓子をいただき、いい服を着て、温かいベッドで寝て……、ああ、なんて恥ずべきことなの)


 良心の呵責で今にも泣き出しそうなシャロンの肩を、ピーターソンが強い力で引き寄せた。


「早速私の城へ行くことにしよう。

 そこに君のご両親がいるのでね」


 シャロンは、 ピーターソンに引きずられるように、止めてあった馬車へと誘導された。


「でもわたくし、レスター様にその旨を伝えなければ」


 ピーターソンが躊躇するシャロンを見据え、馬車の扉を開けながら首を振った。


「時間がありませんよ、私はまもなく母国へ戻るために、この国を出るのですから」


「え……、夜ではないのですか?」


「母国の船が寄港する港が、少々離れておりましてね。

 さあ、急ぎましょう、私の時間は限られている、これ以上ここでもたもたしてはいられないのですよ」


「は、はい……」


 シャロンは、ピーターソンの大仰な言い回しにせかされて、父母会いたさに馬車に乗り込んだ。

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