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黄金の軍神は至宝の真珠を庇護する  作者: アルケミスト


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 レスターとのアフタヌーンティーは、今やシャロンにとって楽しみのひとつとなっていた。


 忙しいレスターが、何かと時間をつくっては、シャロンとテーブルを囲んでくれる。


(不思議だわ。

 お父様とお母様のことを考えると、胸がいっぱいになるのに。

 こうやってレスター様とアフタヌーンティーを楽しむと、お菓子をいっぱい食べられるの)


 今日は、サモワールという異国の珍しい白磁製の湯沸かしポットが用意されていた。


 それは、骨董品の壺のような形をしており、燃料火床の上に、小さなポットが載っている。


 どちらも青色の花や蔓、魚が一面に描かれており、とても芸術的だ。


 常時湯が使える仕様になっており、ティータイムの最後まで温かいお茶が楽しめる。


 シャロンはティーカップを取り上げた。


 カップもサモワールとお揃いのデザインで、とても綺麗な装飾と絵が見事だ。


 ティーカップに描かれた魚が可愛らしくて、しばらくじっと眺めていたら、レスターが満足そうな顔をした。


「どうかな、シャロン。

 今日は目でも楽しめるような紅茶を用意してみた」


 べリージャムをスプーンですくいながら、アッサムティーをいただくという、いつもと趣向の違うアフタヌーンティーに、シャロンの心も潤っていく。


(特別扱いされているみたいで、嬉しいわ)


「ドロシーから聞いたが、朝食をほとんど食べていないそうではないか。

 倒れてしまう前に、焼き菓子のジンジャーブレッドを食べなさい」


「はい」


 シャロンは、さまざまな形に焼かれたクッキーを指で摘まんで口に運んだ。


 生姜の風味が口いっぱいに広がり、少し食欲が増してくる。


 くるみやヘーゼルナッツ、アーモンドを砂糖潰けにしたもの、カラス麦のクッキー、洋なしのサワークリームパイなど、テーブルに並ぶメニューもいつもと趣が違う。


「いつも同じものばかりでは飽きるだろう。

 ちょっと変わったアフタヌーンティーもいいものだ」


 シャロンを喜ばせようと、レスターがわざわざ手配してくれたのだと思うと、それだけで幸せな気分になれる。


 緑美しい城庭、新緑の葉の間から、木漏れ日がきらきらと差し込む。


 珍しい芸術的な茶器に、食べたことのないお菓子の数々。


 そして傍らには、逞しくて頼りがいのある美貌の王。


(わたくしを気遣ってくださるレスター様が、心の底から……)


 愛しい。


 そう心の中で言いかけて、慌てて紅茶を口に含んだ。


(わたくしったら何を考えているの。

 レスター様は、わたくしを不憫に思って親切にしてくださっているだけ。

 温情と慈悲の心で、私を保護してくださっているのよ。

 愛しいなんて、そんな……)


 シャロンはティーカップをソーサーに戻すと、熱情を帯びた瞳でレスターを見つめた。


 レスターは特段、いつもと変わりのない表情をしている。


(レスター様から見れば、わたくしはお菓子で喜ぶ子供……。

 女性扱いしてもらうなんて夢のまた夢ね……)


 シャロンは意識が散漫なまま、空になったレスターのティーカップに紅茶を注ごうと、ティーポットの取っ手に手を伸ばした。


「シャロン、直接触ってはいけない」


「えっ……?

 あっ!」


 熱いポットに直接触ってしまったシャロンは、指先に熱した針を刺されたみたいな痛みを感じ、思わず手を引く。


 その瞬間、ポットがテーブルの上に倒れ込み、激しい音を立てながら、白い湯気を巻き上げ熱い湯がテーブルを跳ねるのが、スローモーションのように目に映る。


 その瞬間、強い力でシャロンは腕を引かれ、遅しい胸に抱き留められていた。


「大丈夫か!

 シャロン」


「は、はい……、大丈夫でございます」


 我に返り見上げると、すぐ近くにレスターの顔があった。


 白軍服に映える輝く金髪、高貴さを表すエメラルドの瞳、雄々しさと秀麗さを併せ持つ、荒々しくも、品位を保てる偉大なる軍人王。


 シャロンの鼻腔に、ふわりと新緑の香りがした。


 レスターがいつもつけている、爽やかな新緑と甘いムスクのフレグランスは、男の色香を際立たせる。


 レスターの深い緑の瞳と、シャロンの湖のような瞳が交差する。


 シャロンを見つめているレスターの瞳に情欲を感じ、まるで愛を語られているかのような錯覚を覚えた。


(レスター様……)


 心の中で名を呼ぶと、まるで以心伝心したかのように、レスターの瞳が揺らぎ、厚みのある色っぽい唇がおもむろに開いた。


 波動が激しく高鳴り、息を吸うのも緊張する。


 無意識に何かを期待して、シャロンは瞼を伏せた。


 その艶のある唇が、シャロンに落ちてきてくれたのなら……。


 が、しかし、シャロンの肩を掴んだレスターがぐいと身体を離す。


「お嬢さん、淑女が無防備に男に抱きつくものではないよ」


「あ……」


 言われてシャロンは、羞恥で顔を真っ赤に染めてしまった。


(恥ずかしい……、わたくしったら、何を勘違いして。

 レスター様は、わたくしを助けてくれただけなのに、キスをされるのではないかなんて)


 音を聞きつけたメイドたちが慌てて現れ、駄目になった菓子を下げ、テーブルの上を綺麗にした。


「医師を呼べ。

 シャロンの指が熱湯に触れた」


 レスターに命じられたメイドが、王城専属の医師を呼びに走る。


 シャロンは自分の指を見た。


 もうそれほど痛くはない。


「いいえ、大丈夫ですわ。

 ポットに触れてしまっただけで、湯には触れておりません。

 火傷はしていないようですわ。

 お騒がせして、申し訳ございません」


 意気消沈するシャロンに、レスターは心配げな顔を向けてきたが、まともに見ることができなかった。


 新しい紅茶が運ばれても、以前のような楽しい気持ちには戻れず、口に含む紅茶はただの湯のように味気なかった。


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