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ドロシーはとても陽気な女性で、話好きのメイド頭だ。
毎日せわしなく王城の中を行ったり来たりしている。
忙しいはずなのに暇を見つけては、心細いシャロンの相手をしてくれた。
そんな彼女の優しさに応えたくて、彼女の仕事を手伝うのが、シャロンの日課となっていた。
シャロンが、城に滞在して一週間ほど経過していた。
部屋にひとりでいても退屈だし、暇を持て余すとつまらないことばかり考えてしまう。
それに、何も役に立てないまま王城に滞在するのも心苦しい。
だから今日は、貴賓室の掃除を手伝っていた。
「シャロンお嬢様、その部屋の用意は私がいたしますよ。
白百合のような指を荒れさせたら、私が陛下に怒られます」
シャロンは、テーブルの上にフォークやナイフを綺麗に置く作業をしていた。
「やらせてちょうだい。
わたくし、テーブルセッティングをするのが楽しいみたい」
そう返すと、他のメイドたちが楽しそうに声をかけてきた。
「まったく、シャロン様ってば。
外見は深窓の令嬢にしか見えないのに、驚くほど行動的ですね。
こんなにお美しいのに気さくで優しくて……」
「おやめ、あんたたち。
シャロンお嬢様が困ることになるから、不用意に褒めちぎるんじゃないよ」
そうドロシーに怒られ、メイドたちは肩を竦めて縮こまった。
実はシャロンが城に滞在してから、妙な事件が立て続けに起こっていた。
たとえば昨日のこと。
お針子が泣いて訴えてきたので理由を聞いてみると、レスターから依頼されたシャロンのパーティドレスが、目を離した隙にずたずたに切り裂かれていたという。
「陛下に言われた日付までに間に合いません、どうしましょう」
シャロンは、お針子たちと一緒に、あまり得意でない裁縫でドレスの修繕を手伝った。
妙な事件は、それだけではない。
シャロンが掃除を手伝った場所に、砂が散らかされていたり、磨いた食器が床に投げ捨てられていたりしたこともある。
ドロシーは、それがシャロンに対する嫌がらせだと察して、表だって必要以上にシャロンを賞賛すべきではないと口酸っぱくメイドたちに注意していた。
「シャロン様みたいな方が、王妃様ならいいのに」
「シャロン様は美しく清楚なだけではないわ。
思いやりのある優しいお方よ」
しかし、メイドたちのおしゃべりは止まることなく、瞬く間にシャロンの良い評判が王城内に流布された。




