表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金の軍神は至宝の真珠を庇護する  作者: アルケミスト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/55

20

 シャロンは、全身をかたかたと震わせ、レスターに身を寄せていた。


 頭はふらふらするし、何より鼓動が落ち着かない。


 もしこの手を離されたら、ひとりで歩くことさえ不可能に思えた。


 レスターに手をひかれて舞踏会へ戻ると、広間の窓から煌々と灯が漏れていた。


 その内側、美しく眩く飾上げた世界の横で、うっすら硝子に映り込む自分の姿を目視した。


 綺麗に結い上げられた髪はあられもなく乱れ、可憐なパールピンクのドレスも土がつき、ドレスを飾ってくれていたジュエリーたちはどこかへと飛び散ってしまった。


 こんな姿はあまりに場違いだった。


「素晴らしい真珠でしたのに、失くしてしまいました」


 申し訳ない気持ちがいっぱいでそう謝罪すると、レスターは気にも留めない様相を見せた。


「いくらでも購入できる真珠などどうでもいい、一番の宝玉はシャロン自身だ。

 目立つ傷のひとつでも残ったら、あいつら一生許さん」


 その言明は、シャロンの悩ましい心の内に滑り込み、すうっと負の感情を洗い流していった。


 ベアトリスの嫌みも、狼藉者の恐怖も、嫌なこと全てを清涼な想いが拭い去っていく。


 指先の震えは止まり、心臓音も平常に戻った。


 意識も落ち着き始めている。


 少しばかり顔色のよくなったシャロンを目にして、やっと一安心といった顔のレスターが、席を外した理由を説明した。


「クーリオの件で報告が入って急ぎ対応していた。

 奴はまだ国内に潜んでいるとのことだ」


「そうですか」


「シャロンの姿がどこを捜しても見つからぬから心配した。

 クーリオの手下が入り込んで、そなたを嬲っていったのではないかと気が気ではなかったよ」


「ご心配をおかけいたしまして誠に申し訳ございません、レスター様」


 レスターを見上げるようにして面を上げた。


「てっきりベアトリスと一緒にいるものだと思っていた。

 どこへ行ったのだ、ベアトリスは。

 頼りにならぬな」


 シャロンの胸懐には、男たちの発した言葉が、不穏な棘となって残されていた。


『図に乗った小娘を少々懲らしめてくれと、ある方から頼まれて』


『レスター陛下に取り入るしたたかな娼婦』


(まさかベアトリス様が……?

 いえ、確証のないことだわ。

 第一わたくしが、レスター様に取り入ることなんて、できるわけがないもの)


 シャロンが王城にいられるのは、闇オークションの黒幕を、どこかで見ているかもしれないからだ。


 証拠隠滅のため攫われたり、命を狙われたりする可能性があると、レスターは懸念している。


 もしシャロンが、黒幕の手に落ちれば、レスターは重要な手がかりを失うことになる。


 シャロンは、人身売買オークションという卑劣な犯罪を、これ以上のさばらせないという目的で匿われているにすぎない。


 その事実をあらためて顧みてみると、シャロンの心はとても辛くなってしまう。


(どうして、寂しい気持ちになるのかしら。

 わかりきっていたはずのことに意気消沈してしまうなんて)


 どちらにしても、レスターに取り入ることも褥に入り込むことも、シャロンにできる姦計ではない。


 何をどう勘違いしたひとの仕業なのだろうか。


(お父様とお母様のことだけでも頭がいっぱいなのに、これ以上の憂慮を抱えるのは苦しいわ。

 心が潰れてしまいそう)


 シャロンとレスターが舞踏会場に一歩足を踏み入れると、来賓客は皆息を呑んだ。


 崩れた髪形や、土で汚れたドレスに、余計な勘ぐりを寄せているのが一目でわかる。


「レスター様。

 わたくし、今晩は下がらせていただいてもよろしいでしょうか?」


 シャロンの懸念を察したレスターが、首を振った。


「ラストワルツを私と踊ったならばね」


「でもわたくし、髪も服も乱れていますわ。

 レスター様の品位を損なうことになっては大変です」


 どちらにしても、もう踊る気分にはなれなかった。


 だがレスターはそれに取り合わず、口端をきゅっと上げた。


「私は、戦昜に行けば土の上でも寝られる男だ。

 そなたを悲しませたまま放置できる品位など、敵兵に食わせてやってもいい」


「まあ……、なんて……」


 国王としてはふさわしくないが、無骨な軍人としてはあり得そうなジョークに、目を丸くして驚いた。


 開いた口が塞がらないシャロンに、レスターは不敵な微笑を見せた。


「少々下品だったかな?

 私は、境界地区へ視察のために出向いたり、時には戦の最前線に出撃したりすることもある。

 父がたまたま国王だったというだけで、長男の私が国王という地位についたが、本来は軍人気質だ。

 少々男くさくても品がなくても、目こぼし願いたい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ