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黄金の軍神は至宝の真珠を庇護する  作者: アルケミスト


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「クリームが唇についているよ、シャロン」


 言われてシャロンは、慌てて口元に手をあてる。


(また子供扱いされてしまったわ……、なんて恥ずかしいの)


 しばらく和やかにお茶を楽しんでいると、ノック音がした。


「レスター元帥閣下、よろしいでしょうか」


 男性の低い声が、扉の向こうから聞こえる。


「入れ」


 開いた扉の先に、紺色の軍服を着た、真面目そうな眼鏡の男性が立っていた。


 きびきびとした動きで敬礼すると 少々硬質的ではあるが、颯然とした声でこう告げた。


「レスター元帥閣下。

 ご歓談中のところ誠に申し訳ございません。

 侯爵家のベアトリス様が、元帥閣下を捜されて、あちこち徘徊しております」


 シャロンは、この男性を見たことがあった。


(確かオークション会場で、レスター様を落札された方だわ。

 味方がいるとおっしゃっていたけど、配下の方だったのね)


「来賓室でお待ちいただけるようお願いしたのですが、気がついたら席を外されていまして……。

 管理不行き届きで申し訳ございません」


「仕方がない。

 また中庭でけがをされては後味が悪い」


 レスターはそう言い、すっと椅子から立ち上がった。


「私が捜そう。

 その辺を歩いていたら、向こうから勝手に現れるだろう。

 シャロン、しばらく王城に留まりなさい」


「え……」


「この部屋を使うといい。

 私の妹の部屋だが不便はないだろう。

 服も揃っているから好きなものを着て構わない。

 ネグリジェとガウンだけでは心もとないだろうからな」


 シャロンは、その申し出に息を呑んだ。


 茶を飲んだら出て行かねばならないと思っていた。


 父母の行方を捜してくれるという約束だけでも十分にありがたいのに、まさか王城で保護してもらえるとは夢にも思わなかったのだ。


 それも王女の部屋を使わせてもらい、服を借りていいなど、破格の扱いともいえる。


「よろしいのですか?

 わたくしが」


「構わない。

 黒幕の顔を見ているそなたを、クーリオたちが狙ってくる可能性もある。

 せっかく助け出したそなたを、再び闇オークションに戻すつもりはない。

 王城に身を潜めるのが得策だ」


(そうだったわ……。

 犯罪者を逮捕するために、わたくしを匿ってくださっているだけよね。

 自分が特別扱いを受けていることに喜んでいてはだめじゃない)


 シャロンは、自分の立場を改めて見つめ直し、気持ちを引きしめる。


「感謝いたします。

 わたくしがご協力できることがあれば、おっしゃってください」


 レスターは、シャロンの窮地を理解しているといった面持ちで、深く頷いた。


「思い出したことがあれば、すぐに報告してくれ。

 なるべく早く、そなたのご両親を捜し出そう。

 ルード」


 ルードと呼ばれた、眼鏡の男性が一礼した。


「シャロン嬢にも正装の手配を」


「承りました」


 なんのことかと首を傾げると、レスターが笑って答えた。


「今晩、久しぶりに親睦会を兼ねた王城主催の舞踏会が開かれる。

 美味しいお菓子もたくさん並ぶから、気分転換にシャロンも出席しなさい」


 王城の舞踏会と聞いて、社交界デビューすらしていないシャロンは、嬉しさと恥ずかしさ、そして気後れの感情が同時に湧き上がった。


(下位貴族のわたくしが?

 お城に滞在させていただけるだけでも、無遠慮ではないかと気が気ではないのに。

 それもレスター様自ら王城主催の舞踏会に誘ってくださるなんて……)


 シャロンの複雑な胸中を知らぬレスターは、椅子から立ち上がると同時に、ルードに命を下した。


「舞踏会では、ルードがエスコートしてくれ。

 なるべく私の目の届く範囲内にいてもらいたい。

 それと、シャロンはまだ子供だ。

 酒をあまり飲ませてはならぬぞ」


「ま、まあっ、子供だなんて……」


 シャロンは、てっきりレディ扱いされているからこそ、王城の舞踏会に誘われたのだと思っていた。


 ところが当のレスターは、子供扱いを訂正するわけでもなく、真っ赤な顔で頬を膨らませるシャロンの頭を、ぽんぽんと叩くだけだ。


「はい、そちらも承りました」


 レスターと、礼儀正しくお辞儀をするルードを交互に見て、シャロンは大人扱いされないことに戸惑いを隠せなかった。


(稀に見る美姫と言ってくださったのに、お酒は駄目だなんて子供扱いして……。

 それともあの言葉は、女性に対する社交辞令なの?

 わたくしったら、本気にして喜んでしまったわ。

 恥ずかしい……)


 そしてレスターは、羞恥でいっぱいのシャロンに「舞踏会で会おう」と言い残して、部屋から出て行った。


 それでもシャロンは、今しばらくレスターの傍にいられることに歓喜した。


 それが、黒幕とクーリオを逮捕する目的のためであり、シャロンの安全のためでもあるとわかっていても、湧き上がる嬉しさを抑えきれない。


 そんな風に一喜一憂するシャロンを見て、ルードが生真面目な声でこう言った。


「レスター元帥閣下は、パーティや舞踏会を好まれません。

 今夜はシャロン様のために、出席されると決めたようですね」


「え……、わたくしのために……?」


 ルードは、シャロンの戸惑いに、表情を変えないまま一礼した。


「メイドに舞踏会の準備に入るよう申しつけてまいりますので、部屋にてお待ちください。

 今夜八時にお迎えにまいります」


 シャロンは慌てて立ち上がり、呼応したように礼を返した。


「ありがとうございます」


 部屋から出て行くルードを見送ったシャロンは、椅子に腰を下ろして自分の身に起こっていることを振り返る。


(お父様、お母様、わたくしはレスター様に助けていただき、今はお城におります。

 どうかご無事でいてください)


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