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「主催者の顔……ですか?
レスター国王陛下がおっしゃっていた、真の黒幕の……」
シャロンは渇いた喉を潤すように紅茶を一口含み、ティーカップをソーサーに戻した。
レスターが頃合いとばかりに、オークションの黒幕について質問をしてきた。
どうやらお茶会の目的は、それらしい。
「そうだ。
ざわざ潜入捜査までしたというのに、私は見つけ出すことができなかった。
思い当たる人物はいないだろうか」
訊かれてシャロンはしばし逡巡した。
「クーリオと、その部下のひとたちしかわかりませんわ」
「進行役のクーリオは小物で、黒幕の手下にすぎない。
奴に指令を与えている人物が背後にいる。
それを確かめることができなくて心残りだ。
結局黒幕だけでなく、クーリオも逃がしてしまったからな」
シャロンは自責の念を感じ、沈痛な面持ちで俯いた。
その姿を見たレスターが、優しい声でこう言った。
「クーリオを捕らえるチャンスならばいくらでもある。
だが黒幕は巧妙で、なかなか尻尾を掴ませない。
だから私は、そなたに協力を願いたいと思っている」
「わたくしに?」
驚くシャロンに向かって、レスターは深く頷いた。
「私が捕らえられているふりをしていたとき、クーリオが部下に、そなたをオークションの目玉にするよう、黒幕から指示されたから、最後に出品するように指示をだしているのを聞いた」
「クーリオが?」
神妙な面持ちでレスターは続ける。
「ああ。
クーリオは、黒幕から、そなたはとても美しいが、実際に話してみると気が強いところがあったから、多少の躾が必要になるとまで言われたそうだ。
黒幕とそなたは、どこかで顔を合わせているのではないだろうか」
「わたくしが黒幕と……?」
シャロンは、一生懸命記憶を手繰り寄せたが、どうしても思い出せない。
その思案をどう捉えたのか、レスターは言葉を補足した。
「気分を悪くしないでもらいたい。
言い方はどうであれ、そなたが稀に見る美姫であることは事実だ」
そう言われ、シャロンは恥ずかしくなって、頬をピンク色に染めて俯いた。
(わ、わたくしが稀に見る美姫……。
最大級の賛辞だわ。
恥ずかしくて顔を上げられない……)
絶世の美男であるレスターに「稀に見る美姫」と言われては、どうしても面はゆい気持ちになってしまう。
「どうだろう、黒幕として思い当たる人物はいないだろうか」
問われて、シャロンは気恥ずかしい気持ちを抑えながら面をあげた。
「おりませんわ……。
お役に立てず申し訳ございません」
「構わない。
何か気になることがあれば、早急に私に言ってくれ」
シャロンは深く頷き、ティーカップを口元に運びながら、先ほどの一文を心中で反復した。
(黒幕がわたくしのことを、とても美しいと評したと……。
社交界デビューをしていないわわたくしを一体どこで……)
思案するシャロンに、レスターが声をかけてきた。
「ところで、そなたはなぜ、オークションの商品となったんだ。
しかもチャンスがあったのに逃げなかったね。
あの場に残らなければならない明確な理由があるならば、ぜひ聞かせてくれ」
シャロンは、問いかけるレスターのエメラルドの瞳に、視線を返した。
そして父母の借金と、これまでの経緯について、わかる限りのことを詳細に説明した。
「わたくしが売られて、お金を工面しないと、借金が返済できません。
たとえ逃げ出すことができたとしても、借金取りに追われて、逃げながら生きていくのはとても大変でしょう。
わたくしがお金に換われば、その心配もなくなる、そう考えました。
だから逃げ出せなかったのです」
それを聞いたレスターが、不機嫌な顔をした。
「だから自分を犠牲にしたと?
そんなことをして、ご両親が喜ぶとでも思ったのか」
レスターの口調は、咎めるようなものだった。
シャロンはそれを受けて、ゆっくりと首を振った。
「喜ぶとは思っておりません。
でもそのときは、その考えが最善の策だと思えたのです。
どちらにしても、私はお金に換えられなければならないのです」
シャロンの悲しい決意を聞いたレスターが、声高にこう言った。
「我が国は奴隷売買を禁じている。
ひとを物のように売買する者は犯罪者だ。
拿捕して処罰せねばならない。
それと私個人の感情だが、若いそなたがたったひとりで苦しむ姿は見たくない」
激情を宿したその言葉に、シャロンの心がふわりと舞い上がった。
父母と離れ離れになってから、シャロンのことなど、誰も気に留めてくれないと思っていた。
クーリオも、嫌な見張りたちも、シャロンをひとりの人間として扱わなかった。
商品であり、物であり、果ては欲望のはけ口として人権を抹殺した。
でもレスターは、国王としての立場だけではなく、個人的にもシャロンをひとりの人間として扱ってくれている。
怒られているのに嬉しかった。
心配されたのだと思うと涙が出そうになった。
少しばかり熱くなったことに気恥ずかしさを感じたのか、それともシャロンのブルーの瞳が潤んだからなのか、レスターが気まずさを押し隠すように咳払いをした。
「声を荒らげて悪かった。
けして私はそなたを責めたわけではない」
「はい、わかっております。
わたくしを心配してのことだと」
シャロンの瞳から滑り落ちる大粒の雫を目にして、 レスターは再び咳払いをした。
「それで、そなたのご両親は、今どこに?」
問われて、シャロンは大事なことに気がついた。




