第1話 処刑台の令嬢、転生の瞬間
「セリーヌ・ローゼンブルク……本日をもって、貴女の罪を裁く」
王都セレストリアの広場に、凍りつくほどの視線が集まった。
広場中央に設けられた高台の処刑台に、セリーヌは静かに立つ。白いドレスは貴族令嬢としての装いを保ちながらも、その瞳は死を受け入れない意志で燃えていた。
「これは、私の罪――ではなく、貴族たちの陰謀の証だ」と、心の中で呟く。
しかし、外の声は無情だ。王宮派貴族たちは口々に非難し、王都の民は恐怖に震え、見物の人々は熱狂する。
「さあ、始めるがよい――」
処刑の剣が振り下ろされる寸前。
セリーヌの視界が、一瞬にして眩しい光に満ちた。
――前世の記憶が、溢れ出す。
魔法帝国の城壁、空を裂く魔法陣、忠誠を誓った家臣たち、裏切り、滅びの瞬間……全ての光景が彼女の脳裏に焼き付く。
「これは……――私の力……?」
体内に、前世で極めた魔法力が流れ込む。心臓が激しく鼓動し、指先に稲妻のような魔力が迸る。
処刑の剣が――触れる前に、空間が歪んだ。
一瞬の閃光。
広場の空気はひび割れ、民衆の悲鳴が消える。目を開けると、セリーヌは処刑台に立ったまま、誰もいない王都の広場に立っていた。
「……なにこれ。死なないの?」
振り返ると、目の前には誰もいない。王都の音は消え、ただ風だけが吹き抜ける。
しかし、力の感覚は確かだった。前世、魔法帝国を築いたときの、絶頂の魔力が、確実に手の中にある。
「よし……始めるわ。今度こそ――この王都を、私の手で――」
胸の奥で燃える覚悟が、前世の痛みを乗り越え、冷徹な知略と決意を呼び覚ます。
悪役令嬢の汚名は、もう必要ない。
彼女の手で、この王都は新たな魔法帝国の礎となるのだ――。
そして、遠く王宮の窓辺で、幼馴染ロイの瞳が冷たく光る。
その表情は忠義を誓うものの、それだけではない――秘密を抱えた思惑が隠されていることを、セリーヌはまだ知らない。
――こうして、前世の知識と力を取り戻した令嬢の、新たな戦いが幕を開けた。