母娘の言の葉 その1
2ヶ月の予定で帰国した母の看病介護休暇も残り少なくなりました。
母71歳は一昨年から直腸がんの治療をしていましたが、今年の3月あたりから骨盤、肺へと転移しているとかで、今はゆるい抗がん剤で進行を遅らせ、モルヒネの痛み止めを増やしていく、という段階です。
そんな母と、彼女を看病介護している娘の会話は、訪問看護師さんや、ケアマネージャー、ヘルパーさんの曰く
「親子漫才みたいですね」
そうなのかな。
というか、この小京都と呼ばれるまったりした土地柄とはかけ離れて、隣県出身の母と、太平洋側県出身の父を持つ私は、たしかにぽんぽん言いたいことを言うほうではありますが。
がん細胞が骨盤周辺の神経を圧迫しているために、痛みがひどく、帰国してしばらくは
「早く楽になりたい」とか「殺してくれないか」と言っていた母ですが。
自分勝手な娘は「いや~、私、刑務所行きたくないから」と断っていました。
仏間兼居間兼自分の寝室の片づけをしていて、今年の初詣でいただいてきた破魔矢と玉串が埃をかぶって放置されていたのを発見。
「ご利益がないわけだよ~。今から拝めば楽になるかもよ」
と、百円ショップでミニ三方を買ってきて、テレビの横に並べて米と塩と酒をお供えしておきました。
それを見た母は、がんばって拝んでました。
「もう痛いのいやです。早くこの世のお役目を終わらせてください。お迎えにきてください」
……お迎えは神様でなく仏様ではなかっただろうか……?
数日後、風邪を引いてしまった私が、鼻水と咳を撒き散らしていると。
「風邪なんかうつさんでよ。この年だと簡単に肺炎になってしまうんだけんね」
「……早く楽になりたいんじゃなかったのかな? 肺炎だと早いみたいよ」
「あ、そうだった」
「うつしてあげようか」
「いやだ。あっちいって」
まだまだ生きる気力はなくならないようで。