”ユー”は何してたの?
確定申告と、大家の視察に備えて掃除でばたばたしているのに、突如夫に拉致されて自宅から32km地点の牧場地帯にマウンテンバイクとともに放り出された。
二日前に往復二時間ではあるけども、急勾配と心臓破りそうな階段つきハイキングをして、ガッチガチになってしまったふくらはぎの筋肉痛に苦しんでいる状態でもあった。
32kmをMTBサイクリング。
のどかな田園風景に、野鳥が戯れる貯水池、岩石むき出しの丘、鹿牧場、牛牧場、羊牧場。
途中で、休憩中のサイクリストが目に留まり、たまに仕事を頼まれるモテルのオーナー奥さんであることに気がついて急停止。
前から一緒に走ろうと言っていたので、ちょうどよい塩梅でのんびりまったりおしゃべりをしながら田園風景や雪の山並みを眺めつつ並んで走り、川岸の柳青めるさまに春の訪れを堪能した。
「行きで、羊が出産しているところに出合ってね、20分ほど座り込んで生まれるまで見ていたのよ」
とオーナー夫人。街まで近づいてきた頃「このへんだったわ」と牧場のフェンスに沿ってマウンテンバイクを停めた。
生後二時間の二匹の子羊と母羊。子羊は立ち上がってはおっぱいを捜し求め、疲れて膝を折っては草を(既に!)食べ始めていた。そのすぐそばに、まだ乾いてもいない胎盤が。
その日の夕食に家族にその話をした。
次女が口を挟む。
「わっと わ ゆー どぅーいんぐ ぜん」
と聞こえたので
「Riding bike.」自転車に乗ってたよ。と答える。
突然、夫も長女も大爆笑。次女はフォークを握り締め、目に涙を浮かべて笑い続ける。
「何がおかしいの?」
長女が「ひつじはバイクに乗れないでしょ、お母さん」
え? 次女はなんて言ったのだろう。
「ひとことずつ区切って、もう一度いってごらん」
「What was the ewe doing then?」(ewe:ユー・雌羊)=「そのとき、雌羊(母羊)は何をしていたの?」が
「What were you doing then?」=そのとき、あなた(お母さん)は何をしていたの?」
に聞こえたのは、私だけなのね。
夫も長女も、しばらくご飯が進まないくらい笑いこけていた。
次女の話し方は口の中でこもるし、単語のつながりが曖昧なので少しわかりにくい、と夫は以前から心配してはいたんだけども、今回は単に私の耳がついていけてないだけのもよう。
羊はSheep、 雄羊はRam 雌羊はEwe、子羊はLambとそれぞれ名前がついているうえに、RamとLambはカタカナにするとどっちも「ラム」だから、日本人には難しすぎるわ。