ハンサムな彼女
夕食どきに、次女(9歳)が訊いてきた。
「ハンサムって、女の人にも使うの?」
夫が答える。
「昔は何にでも使ったようだけど、今は男性美にしか使わない」
あれ?
おや?
もしかして。それは、日本人の私が生粋の英語人のあなたに、いつか教えてさしあげたことでせうか。
ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』のBBCテレビドラマDVDを観ていたときのこと。夫が不機嫌になって、
「へんなドラマだ。おかしな英語で喋る」
「どのへんが?」
「『女性に対して"handsome"』とか、間違ってる」
「そうなの?」
あと、いくつか『変』な英語や妙な言い回しに文句をつけた。
私はそのあと、原作を読んだ。ジェイン・オースティンは18~19世紀の作家。
日本で言えば、江戸時代末期。鎖国が苦しくなって外国船打払令が出されたり。
だから、たとえば南総里見八犬伝を原書で読んでみようとか、そのくらいのムツカシさがありました。DVDを何度も観て、粗筋やキャラを知らなかったら読み通せないような。
『Handsome』の形容詞は男性、女性、建物、情景、なんにでも使われていた。
そうしてみると、他の時代劇でも『ハンサム』はいろいろな美的表現に使われていることに気がつく。
「『ハンサム』が男性美に限定されたのは、最近のことみたいよ。『高慢と偏見』は時代劇だし。わざともったいぶった言い回しをして感じを出してるんじゃないの。日本の時代劇なんか、もっとすごいから」
うん。今どき誰も『それがし』とか『なんとかでござそうろう』とか、言わないし。
時代劇で『ちょーダサい』とか言ったらずっこける。
「そうなのか」
わりと素直に納得して引き下がった。
夫の観る歴史物って言ったら、ハリウッドのスペクタクルな冒険ものばかりだから、セリフはわりと平易なのが多いんだろう。時代考証をきっちりとしたものは違和感があるのかもしれない。
で、擦り切れるほど繰り返し観たDVDだけど、英会話の勉強にはあまりならなかった。
言い回しがご大層過ぎて……。周りから浮く。