こどもの名付け東西いまむかし
子供たちの銀行口座を開設するということで、出生証明を掘り起こす。
子供たちは自分の出生証明に何が書いてあるのか大騒ぎで読み始めた。
長女「おばあちゃんたちの旧姓まで記録してある。日本のおばあちゃんの『Ushio』って、牛の『Ushi』?」
私「違うよ。潮は『Sea breeze』という意味だよ」
長女・次女「Cool!(かっこいい)」
あとで調べたら『潮』は『海水』だったけど、まっいいか。
『Sea breeze』は『潮風』
次女が「なんで私のミドルネームがないの!」と叫ぶ。
私は「ごめんなさい。お父さんが出生届に記入するはずだったけど、忘れたまま投函してしまいました。名前変更するのに125ドルもかかります。成人して家をでるときでいいよね。そのかわり、自分で選んでいいから」(うちは貧乏)
日常でほとんど使われないミドルネームだけど、公の書類には必ず記入しなくてはならない。私は公文書を提出するたびに「ミドルネームは?」と訊かれる。
「ありません」
「なんで」
「日本人だから」
「日本人にはミドルネームがないの? どうして?」
どうして、欧米の人は名前がいくつもあるんでしょうか、ってこっちこそ訊きたい。カソリックの人なんて三つも四つも持っておられる。消耗予備品じゃあるまいし、いつ使うんですか、と。
日本人妻のなかには、旧姓をそのままミドルネーム登録している方もおられるが、私は父方の旧姓がもともと好きでなく、夫も発音不可能だったのであっさり脱ぎ捨てた。
日本のパスポートにはセカンドネーム以下を記入する欄がないので、陽子・ソフィア・ウィンザーさんは「ようこそふぃあ・ウィンザー」さんになってしまうそうだ。
娘たちはファーストネームが日本語名。長女のセカンドネームは夫の祖母の名をついでいる。英語名って、隔世で先祖の名前を受け継いでいくのが慣習らしいとそのとき知った。大昔の名前でも当たり前に今日使われている理由がここにあったのだ。
古代の伝説王『アーサー』という名前が古臭い響きを持たずに今も使われている、というのは驚きだ。今の日本で五~七世紀の和名をつける親はいない。たとえば同時代の敏達天皇の御和名が『ぬなくらのふとたましき命』だけど、現代でそんな名を市役所に提出したら却下されるのは間違いない。個人的に持統天皇の『うののさらら女王』という名前は素敵だと思うけど、やっぱり市役所は受理してくれないだろう。
でも、英語でイマドキな名前というのも、もちろん出回っていて「Zora:ゾラ」とか「Xenon:ゼノン」「Zac:ザック」なんて、本気ですか? とうような名前もあり。
「Sunshine」って「アマテラス」と脳内自動変換してしまった女の子もいました。現代風なら「陽輝」かな。日本語だと男の子みたいになるなとひとり笑い。
ママ友に「こういうの、英語的に普通な名前?」と訊いてみましたが「普通じゃない。前衛的だわ」とのお答え。
あと「ハーマイオニとパーセフォニ」というギリシア神話からそのままとってきました、という姉妹もいた。パーセフォニはペルセフォネのこと。冥界の王ハデスに誘拐されて無理やり冥界の女王にされてしまった女神の名前を娘につけるとは。ハーマイオニは「ハリー・ポッターのハーマイオニ・グランジャー」のほうが有名かもしれない。出典元のギリシア神話ではトロイア戦争の原因となったヘレネーとスパルタ王メラネーオスの娘、ヘルミオネーの英語読み。政略の道具として翻弄される人生だった。
こちらの方の名付けの基準がよくわかりません。