世界の片隅でエンガチョされてしまった!?
地方によって呪文や印の切り方に違いがあるのですが、私の生まれ育った地方では『中指を人差し指に交差させ』て『エンガチョ』と叫ぶと、人の穢れ(犬のフンを踏んでしまったとか、便器の水がかかったとか)を受けなくてもすみます。
日本のこどもに受け継がれる民俗風習のひとつです。
これを、赤道の反対側の英語圏の国でやられました。といっても、指を交差させる部分だけですが。
ホテル勤務当時、臨月に入った私は退職することになり「ベイビー・シャワー」というバスケットいっぱいの乳幼児製品(よだれかけや靴下、ベビーオイルなど)をもらっての送別会。
そして、仲良しだった当地出身のおねえさんが、急に両手を高く掲げて私の名を呼び……。
中指と人差し指を交差したんです。
びっくりしました。
彼女は『Good Luck!』と叫んでいたので、エンガチョでないことはすぐにわかりましたが、さすがに固まってしまった私に気がついた人もいて。
「どうしたの、ミユキ」
私はちょっとどきどきしながら訊ねました。
「これって(指を交差させながら)グッドラック、って意味なの?」
「そうだよ」
「あと、嘘をつくときに相手にわからないように背中で指を交差させるとバチがあたらないとも言われてるよ」
「そうなんだぁ」
所違えば、ですね。私の反応に興味を持った人が訊いてきました。
「日本でも同じことをするの」
「うん、でも意味はかなり違うけどね」
穢れや不浄を避けたり移したり落としたり。
そういう感覚を説明するところからするのが難しく、『穢れ』に該当する単語も思いつきませんでした。
『不思議の国ニッポン』の文化の一面、ちゃんと伝えられたかどうかわかりません。
退社のときに、みんなでいっせいにエンガチョの印を切られた日本人は、私くらいなものでしょうか。
ジブリ映画の「千と千尋の神隠し」では、指を繋いで人に切ってもらうやり方でしたね。