「ハーフ」は半分
長女が小さかったときのこと。
訪ねてきた日本人の友人が「さすがにハーフは可愛いね」と言ってくれた。
それを夕食の時、夫に話した。
夫はフォークを口に運ぶ手を止めて、まじめな顔になった。
「一個の人間を指して『ハーフ』(半分)は失礼だろう。君の子供だよ。『ハーフ&ハーフ』とか『ハーフジャパニーズ』と最後まで言うか、『Mix:ミックス』と言いなさい」
和製英語ではなんの抵抗もなく、混血といえば『ハーフ』だったけど。
こちらではちょっと差別的な意味を含むのだろうか。それとも単に『半分』という言葉の意味が一個の人格を否定するようで不自然なのか。
以来、『ミックス』という言葉を使っている。英和辞典を調べても、特に『混血』という意味は含まれてなかったものの、注意深く周りの人の会話を聞いていると『ミックス』のほうが使われている。
他の英語圏ではどうなのだろうかと思った。
今では『血が混じる』のではなく『遺伝子が交わる』のだと誰でも知っているのだから、『混血』という言葉も実は正しくはない。
英語で『混血』に該当する言葉に『ハーフ・ブラッド』がある(ハリー・ポッター6巻のタイトル『Harry Potter and the Half-Blood Prince』など)が、会話ではあまり聞かない。
あと『ハーフ・ブリード』なんて呼び名もあるけど、犬や牛の交配を連想してしまう。
多民族国家では、ハーフもクォーターも、八分の一の場合も、遡れる遺伝子がそれぞれ違ったりなんて人は珍しくないので、いちいち何分の一の◎◎と説明していたら、回りくどくてたいへんだ。
やはり、裏も表も複数の意味もない、ひと言だけで完結できる『ミックス』が人種の坩堝的に合っていて好きだ。
二、三年してから、そんな話を日本人にしたら、こういう会話になった。
客「日本でも最近は『ハーフ』は差別用語だって、使わないようにしているみたい」
私「じゃ、なんて言うの。日本語の『混血』じゃ、古いしもっと差別っぽくない?」
客「ダブルとか」
私「まじ。doubleには偽善者とか、裏表があるとかの意味もあるのに。状況次第では二枚舌な人間かと思われそう。他にましな言葉が見つからないのかしら」
あれからまた数年経ちましたが、異文化・異人種間に生れた子供たちの公式日本語名称、今ではどうなっているのでしょうか。
ちなみに、冒頭の友人のセリフの全文はこうでした。
「両親がどうでも、さすがにハーフの子供は可愛いね~」
いや、否定はできないけどね。
ハーフだから美形とは限らないよ。
石を投げればハーフに当たるところに住んでますが、やっぱり美形は希少価値です。