過去への旅
月曜の朝になって、宿題のレポートがないと十二歳の娘が騒ぐ。泣き出す。
内容を聞いてみると、日曜に掃除していたときに捨てた、床に落ちていたメモ書きみたいなものだということが判明。
娘に謝り、担任の先生に手紙「落書きだと思って母の私が捨てました」を書いて渡した。
学校から帰ってきた娘に、先生に赦してもらったかどうか訊ねた。
「『字が汚かったから』『来年からハイスクールなのに、それでは済まされない』と説教された」
と、ふくれっつらで応える。
「だから床に落としておかないで、ノートに挟んでおかないと。ハイスクールでも落ちてたら捨てる」
娘はまだふくれている。
「なんのレポートだったの」
「日本とオーストラリアが、マンモスを再生するとかいう新聞記事」
「BBCのプレヒストリック・パークみたいねぇ」
「ジュラシックパークの?」
「ジュラシックパークはアメリカのハリウッドの映画。プレヒストリックパークは英国BBCの番組。ウォーキングウィズダイナソー(恐竜と歩く)の続編みたいなものかな。スターゲイトみたいに、過去への門をくぐって、古代生物を集めて帰ってくるやつ」
その番組を思い出した娘は、突然早口にになってその門の名前を英語で言ったけど、聞き取れなかった。このごろ、子供たちが英語で話していることがよくわからない。訊きなおしたけど、彼女はいきなりタイムマシン談義を始めた。早口でよくわからない。
「……でも、そのうちきっと科学技術が進んで、過去へいけるようになるよ」
あ、いつも私が科学技術で克服できない不可能なんかないと言っていたのを真に受けているのかな。
「まあ、たいていのことは実現できるけどね、タイムマシンは無理だと思うよ。お母さんは」
「なんで」
「どんなに科学が進んでも、絶対に不可能なことはあるんだよ」
「なに?」
「死んだものを生き返らせること。過去は、history(もう終わったこと)だからね」
娘はわかったようなわからなかったような顔をして頷いた。
He is history. 「彼はもうおしまいさ」
生きている人にも、死んでしまった人にも使う。
過去は取り返せない、記憶と記録にしか残らないということでは、過ぎた時間は死んでしまった事象ということになるのかなと思った。