20cm身長差のランダムエンカウント
初期リスポーン部屋に囚われて朽ち果てるつもりは毛頭ない。ならば打開策をもってヤツをぶっ倒さなければならない。
こちらの攻撃はいまだ届かず、敵の攻撃はHPの低さから一撃必殺級。
唯一望みがあるとすれば、部屋から最速で飛び出してコモドにぶち当たった時に見つけた、リスポーン後5秒間の無敵時間だ。無敵時間中にこちらの攻撃を当てる事が出来れば次の一手に繋がる。こちらの1ダメージが通らないなんて事になればいよいよ詰みであるが。
「そうなったら被ダメを極力減らすしかないわな…」
格上相手に一撃も喰らわないでどこぞのダンジョンからセーブ無しで脱出。さすがにそれは厳しい。
頼むから1ダメージ通ってくれよな、コモド。
授業が終わったら早々に家路へと向かう。やはりプレイし始めたてのゲームは、この試行錯誤していく工程が楽しい。俺の足も自然と歩みが早くなる。
校門を潜る時、ちょうど同じタイミングで女子生徒が逆の方向へ進んでいった。
背の低い女子生徒だ。
後輩か先輩かは分からない。同学年ではないだろう。
シャンプーか香水か、柑橘系の残香が鼻をくすぐった。
旗岡瑞希は家路を急いでいた。
ホロウ・プレイヤーズのダンジョン"異界虜囚クリーナーズネスト"最深部で見かけた、例の肉塊。
あれから影に潜み観察を続けていたが、彼(あるいは彼女)は、執拗にコモドアーマーへの突撃を繰り返していた。決して届く事のない攻撃を繰り返すその様は、機械的でもありどこか狂気を覚えるような様であった。
旗岡瑞希としては、ゲームに快楽を見出した事が無い。
ゲームは作業でありその結果として高いステータスのキャラクターを得る事ができる。そういう価値観を幼少期から刷り込まれている為、旗岡瑞希にとっては、ホロウ・プレイヤーズ内で過ごす時間も他のゲームと同様の退屈な時間である。
単純に興味が湧いた。
恐らくランダムリスポーンを選択した事により、初期リスポーンがあの小部屋に設定されてしまっているのだろう。
普通であれば詰みの状況であり、キャラクターのビルドからやり直した方が効率が良い。
効率の面で言えばあの肉塊のしている事は全くの無駄なのだ。
理解に困る。
分からない事だから興味が湧く。分かろうと行動してみる。
この日、旗岡瑞希にとっては珍しく、ホロウ・プレイヤーズへのログインを少しでも早くするため彼女は急いでいた。
同じタイミングで逆方向へと男子生徒が向かっていく。
同じように急ぎ足だ。
彼ももしかしたらホロウ・プレイヤーズへのログインを急いでいるのだろうか?
そんな空想に旗岡瑞希は頬を緩めるのであった。