13.特殊な魔法の可能性
「よう、ロティア。お疲れ」
ハルセルとカシューが座っている席に向かうと、先に気が付いたハルセルが笑顔でヒラヒラと手を振って来た。いつも通りのハルセルに、ロティアはホッとして「お疲れ様」と返す。
ハルセルの隣に座ると、フフランもそのそばに着地した。
「あれ、どっかで食べてたのか? 食べかけじゃん」
「あ、うん。一人で食べてたけど、フフランがふたりを見つけてくれたから」
「そのキノコのソテーおいしいよな。俺もそれにした」
カシューもニコッと微笑み、ロティアの二口分のチキンを頬張った。
ロティアはフフッと笑いながら、改めてチキンにナイフを入れた。しかしどうにも食欲がわかない。
ロティアはナイフとフォークを置いて、すっかり冷めてしまったスープを一口飲んだ。
「……あのさ、ハルセルとカシューは、その、斬りつけアヴィスについて、何か知ってる?」
「何かって?」とハルセル。
「犯人の、目星とか」
「俺は大して知らないな。こういうのはおもしろがらずに、警察に任せた方が良いからな」
ハルセルはハッとして「なんかあったのか?」と尋ねてくる。
「危ない目にあったわけじゃないよ! ……ただ、物騒な事件だから、心配で」
「そっか。なら良かったけど、確かに早く捕まってほしいよな。無差別じゃ対策のしようがねえよ」
「老若男女も、人間か魔法使いかも関係ないみたいだもんね」
「犯行の手口的に、魔法使いが犯人だろうって推測されてるけど、どうだかなあ」
警察がそう予想していることはロティアも知っている。だからと言って、魔法特殊技術社の社員だけが疑われているわけではない。魔法使いは世界中にあふれているのだ。
――それなのに、わざわざ自分たちの仲間の社員を売る様な噂を流すなんて。
さっきの人たちはやっぱり変だ、とロティアは思った。
ロティアが「カシューは?」と尋ねると、カシューはロティアから目をそらしてから答えた。
「俺も新聞に載ってること以上は知らないな」
本当かな、と思いながらも「そっか」と答える。普段のカシューは目を見て話をしてくれるのだ。
「この前、シアも危ない目にあったし、不安が続くよな」
そう言いながら、フフランはテーブルの上をちょこちょこと歩き回った。
「そういや今日はシアを見てないな。依頼で出てるのかな?」
ハルセルはパンをちぎりながら食堂の中を見回した。
――さすがフフラン! 自然な流れでシアの名前を出してくれた!
ロティアは心の中で手を合わせてフフランを拝んだ。
「休みにしてるとすると、部屋に籠ってるかもな。シアは仕事の日以外は、基本的に部屋で過ごしてるから」
カシューは窓の外に見える社員寮の方を指さした。
「えっ、食事とかちゃんととってるかな」
「子どもじゃないから大丈夫だろ」
カシューは「ロティアは優しいな」と言って、ロティアの頭をなでた。
「……カシューってシアと仲が良いよね」
「えっ? ああ、まあそうだな」
「確かにふたりで話したり、食事してること多いよな。同郷だっけ?」
「いや、違うよ。でもシアが初めてラスペラに来る汽車に俺も偶然乗り合わせてて、汽車の中で魔法特殊技術社について話をしたんだ」
「へえ! そんな偶然ってあんのか!」
「俺も驚いたよ。その時のシアはずいぶん緊張してたから、少しでも気楽になれるようにしてやりたくて、いろいろ話したな」
カシューは昔を懐かしむような表情で、うっすらとヒゲが生えたあごをサリサリとさすった。
「……その時、シアがうちに来た理由って、聞いた?」
「……今日のロティアは、聞きたがりだな」
カシューは困ったような笑顔でそう言った。その顔は何か知っている顔だとロティアにはわかった。
「いろいろ話をしたからな。あんまり覚えてないよ」
「……そっか」
もし何かを知っているとしても、ここで聞くのは間違っているだろう。人が多すぎる。
ロティアは「ありがと」と言って、ナイフとフォークを持った。
「……そういや俺、最近は午後は仕事休みにしてるんだ」
ハルセルの明るい声で、ロティアは顔を上げた。
「何か勉強中なの?」
「似たようなもんだけど、魔法の特訓してるんだ」
「魔法の特訓!」
「へえ! 向上心があって良いな!」
フフランはハルセルの肩に飛び移り、褒めたたえるように羽根でハルセルの頭を叩いた。
「魔法って使い続けると結構変化するだろ。だから、破れた紙以外にも、壊れたものを直せるようになれないかなと思って」
「素敵な発想だね! 何か収穫はあった?」
「この前、割れた花びんに杖を向けたら、少しだけ反応があったんだ。元の形に戻ろうとしてたんじゃないかな。バラバラに並べたガラスの破片が、ピクピク動いて、一個だけ別の破片に近づいてったんだ」
「すっげえ! 見てみたいな!」
「ほんと! すごいねハルセル!」
ロティアの言葉に、ハルセルは歯を見せて微笑んだ。
前向きなハルセルに、ロティアは胸が熱くなった。
魔法特殊技術社には様々な魔法を使う人がいる。一見役に立たなさそうな魔法もある。
それでも多くの社員は自分の魔法と向き合い、魔法を進化させ、活躍の場を広げている。
ケイリーもまた金属なら自在に操ることができるようになり、アクセサリーを作って、自分で店まで持ったのだ。
――そうだ、魔法は未来を切り開く力があるんだ、明るい未来を。そんな素晴らしい可能性を秘めた魔法を、大切な友達であるシアが、悪いことに使うはずない。
ロティアはそう強く思った。
「がんばってね、ハルセル! わたし、全力で応援してる!」
「サンキュー、ロティア」
ふたりはにっこりと微笑みあった。
昼食の後、食器を片付けに行くハルセルの頭に、フフランがとまった。フフランは毛づくろいでもするように、ハルセルの髪をくちばしで優しくついばんだ。
「なんだよ、フフラン。くすぐったいな」
「さっきのお礼が言いたかったんだよ。ありがとうな」
ハルセルは「お礼言われるようなことしたか?」と首をかしげる。
「ロティアのやつ、ハルセルの話を聞いて、すっかり元気になったからさ」
「ああ。そういうことか。ロティアは大事な友達だからな。できるだけ笑っててほしいんだよ」
そう話すハルセルの声は少しだけさみしげだった。フフランはハルセルの肩に飛び移り、頬にそっと体を擦り寄せた。
「ありがとうな。ロティアもオイラも幸せ者だよ」
「そう言ってもらえるなら良かったよ」
ハルセルはフフランの小さな喉のあたりをホリホリと撫でた。




