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1.カモミールの約束

 日に日に寒さが増す十二月の上旬。

 ロティアとリジンは温かい上着に身を包み、フフランは羽根に空気を入れてふくらみ、リジンの家の裏庭にいた。

 リジンがポケットから小さな紙袋を取り出すと、ロティアとフフランはそっとリジンに寄った。

「サニアからもらったカモミールの種、やっと植えてあげられるね」

 リジンは袋から種を取り出し、にこにこしながら「うん」と答える。

「庭があるのにカモミールは植えてないって言ったら、サニア怒ってたもんね」

 ロティアは、種の紙袋の中に入っていたサニアのメモを読み上げた。

「カモミールの効能は不安を安らげたり、不眠を解消したり、肌荒れとか、神経系の症状に効くんだって。こんなにたくさん効果があるなら、サニアの言う通り、植えてないのはもったいないね」

 このメモに、「植えるなら十一月がベスト! 一週間くらいで発芽するよ。でも十一月が難しいなら、十月、十二月、一月」と書かれている。そこで、ふたりと一羽は寒さが和らいだ今日を選んだのだ。ロティアは一週間の休みを取り、二日前からリジンの家に滞在していた。

「香りがリンゴに似てるから匂い袋にしたら良いかもね。ベッドサイドに置いて寝たら気持ちよさそう」

「リンゴかあ! 良い匂いだよな」

 フフランはロティアの肩から飛び上がり、クルクルと飛び回った。

「ハーブティーにするのも良いね」

「わあ、素敵! いろいろ夢が広がるね!」

 ロティアとリジンは顔を見合わせて微笑み合った。



 サニアのメモによると、カモミールは水はけのよい土壌で、日当たりが良く、風通しの良い場所に植えるそうだ。そこで昨日のうちに、裏庭の中で特に日当たりが良く、水はけのよいエリアを用意しておいた。準備は万端だ。

「それじゃあ、始めるよ! カモミールの種は小さいから、あんまり深く植えると発芽しないんだって。風で飛んでいかないように、軽く土をかければ良いって」

「それじゃあ、リジンが種を蒔いてくれたら、オイラが土をかけるぜ。この器用な足でな!」

 細い足をピンッと自慢げに伸ばすフフランに、リジンはクスッと笑った。

「わかった。役割分担してやろうか」

 リジンたちが種を植えている間に、ロティアはジョウロに水を汲みに行った。

 リジンの家は相変わらず井戸しかないため、まずはバケツに水を汲んで、中の水にジョウロをくぐらせて、ジョウロの中を満たした。

 サニアのメモによると、水を与える前に少し手で押さえて固める必要があるらしい。ロティアは右手にはジョウロを持ち、左手で土をギュッギュッと押した。

「わっ、土が冷たい! グローブ越しでもわかるね」

「もうすっかり冬だね」

 リジンは「終わったら、暖かいココアでも飲もうか」と言った。

 そう、季節は今、寒さが身にしみる冬だ。つまり、夏にリジンと出会ってから、もう半年経つということになる。

 このカモミールが咲く頃は再び夏が来る。その頃もリジンと一緒にいられるだろうか。

 ロティアは、一緒にいられると良いな、と願わずにはいられなかった。

 たった半年で、リジンが自分にとってこんなにも大切な人になるなんて。

 ロティアはその考えに気恥ずかしくなり、うずくまって唇をかみしめた。

「ロティア、どうしたの? 寒い?」

 顔を上げると、心配そうな顔をしたリジンの顔がすぐそばにあった。驚いてヨロッと後ろに転がりそうになると、すかさずリジンが手を取ってくれた。

「大丈夫?」

「ご、ごめん! ちょっとぼーっとしてた……」

 リジンの肩にとまっているフフランがご機嫌に笑っている。どうやらフフランには考えていたことがバレているようだ。ロティアは苦笑いをしながら、リジンと一緒に立ち上がった。

 ふたりで手を繋いだまま見つめ合う。

 リジンの群青色の瞳は、不安そうに揺れている。

 ロティアはにっこりと笑って、リジンの手を強く握りなおした。

「また暑くなる頃には、きっとカモミールが咲くでしょう。その時も、一緒にいられたらいいなって考えてたんだ。わたしと、フフランと、リジン。ふたりと一羽で。それがわたしの願いなんだけど、それを思ったら、なんだか照れくさくなっちゃって」

「なんだ、そんなことか。オイラだってそう思ってるぜ。半年後だけじゃなく、ずっと一緒にいられたら良いよな」

 フフランはパタタッとリジンの肩から飛び上がり、ふたりの手の上に着地した。フフランの柔らかい温かみがふたりの手に伝わると、ロティアもリジンも自然と顔がほころんだ。

「俺も、それを望んでるよ」

「……本当?」

 リジンははにかみながらうなずいた。

「一緒に、カモミールの花も、その先も、いろんなものを一緒に見ようね、ふたりと一羽で」

 ロティアは「うんっ」と笑顔で答えた。


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