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43.星空色の絵を、君に

 寒く、長い冬を乗り越え、芽吹きの春が過ぎ、陽光の降り注ぐ活気あふれた夏がやって来た。


 ロティアは銀色の糸で紡がれたカーテンを開け、窓を開け放った。まだ暑さの乗っていない滑らかな風が、頬をなでていく。ロティアはグッと伸びをしながら、窓の下に広がるカモミールのカーペットを見下ろした。フフランとリジンと共に育てたカモミールは、今朝も柔らかく揺れながら美しく咲き誇っている。その愛しい光景に、ロティアはフフッと笑った。

「……クルルウ? ロティア、早いなあ」

 ベッドのクッションの上に座って眠っていたフフランは、のろのろとロティアの肩に飛んできた。ロティアはフフランを両手で抱き上げ、その場でクルクルと回った。

「おはよう、フフラン。だって今日はみんながヴェリオーズに来るんだよ。早起きして準備しなきゃ!」

 急にフフランは元気になって、ロティアの周りをグルグル飛び回り始めた。 

「そっか! ロティアの十七歳の誕生日だもんな!」

「それからフフランもね!」


 身支度を済ませてキッチンへ向かうと、すでにリジンが料理を始めていた。

 ロティアはエプロンを結ったリジンの背中をポンッと叩いた。

「おっはよう、リジン。早いね」

 リジンは顔だけを後ろに向けて、にっこりと微笑む。

「おはよう、ロティア、フフラン。ふたりはまだ寝てても良かったのに」

「ダメダメッ。リジンとフフランと一緒に準備するから楽しいんだから」

「オイラも味見なら手伝えるぞ」

「フフッ。それじゃあふたりと一羽で準備しようか」



「――あっ! ロティアー! フフランー! こっちこっち!」

 短い髪にすっかり慣れたサニアが、ブンブンと手を振りながら駆け寄ってきた。その後ろには、夏の日差しを受けてきらめく湖が見える。今日のロティアとフフランの誕生日パーティーは、ヴェリオーズの湖畔で開かれることになったのだ。

「ついでにリジン先生もね」

「相変わらずだね、サニア。まあ今日はロティアとフフランが主役だからね」

「そういうことっ。さあ、早く来て、ロティア! みんな来てるよ! 準備もできてるから! ほら、フフランも!」

 サニアはロティアの手から荷物を取ると、その手を握ってズンズン歩き出した。

「ハハッ、慌てるなよ」

 フフランはサニアの白いシャツの肩にふわっと降りたった。

「準備ありがとうね、サニア」

「どういたしましてっ。それにしてもずいぶん大荷物だね。なにが入ってるの?」

「お料理とか、お菓子はもちろんだけど、みんなへのお返しとかいろいろ詰めたら大きくなっちゃったんだ。重いでしょう? 持つよ」

「大丈夫、大丈夫っ!」

 今日のパーティーにはサニアの他に、ロティアの両親と兄二人、オーケ、ヴォーナレン、ハルセル、ケイリーも来ている。ロティアとフフランの大好きな人たちばかりだ。

 みんなでガーデンテーブルを囲み、持ち寄った料理やお菓子を食べて、ロティアとフフランの誕生日を祝った。誕生日の贈り物も、両手では抱えきれないほどだ。

 こんなにも幸せな誕生日は、ロティアにとってもフフランにとっても初めてだった。






「――リージンッ。暑くない? ちゃんと水分摂ってる?」

「……あ、レモネード持ってきてくれたんだ。ありがとう、ロティア」

 リジンはキャンバスから顔を上げ、にこやかにジュースを受け取った。氷が入ったレモネードをグッと飲む喉には、一筋の汗が流れている。

 パーティーが一段落すると、リジンは輪から出て、にぎやかな様子を描き始めた。今日という日を残すためだ。

「今日来られなかった母さんたちにも見てほしいからね。ごめんね、母さんたち来られなくて」

「もうっ、そんなに何度も謝らなくて良いよっ。マレイさんたちからはお詫びに、って部屋に入り切らないくらい贈り物をいただいたんだよ? 逆に申し訳なくなっちゃった」

「あれくらいしても気が済まない、って言ってたよ」

「リジンもマレイさんたちも気にしすぎなんだから」

 ロティアは困ったように肩をすくめて、リジンの隣りに座った。

「あと少しで終わるから、そしたらボートに乗ろうか」

「いいねっ。わたしボート漕ぐの得意だよ」

 ロティアが力拳を作って見せると、リジンはペンを止めてクスッと笑った。

「たくましいね、ロティアは。それじゃあ交代で漕ごうか」


 まだらな影を落とすナナカマドの木が、風でサワサワと揺れる。その風はボートが浮かぶ湖の水面を揺らし、微かな涼しさを運んできた。

 ロティアはうっとりと目を閉じてから、チラリとリジンの方を見た。

 真っ直ぐな眼差しで、キャンバスに向かうリジン。長い髪とまつ毛が、風で揺れている。

 きれいだな、とロティアは思った。


 突然、リジンは「あっ」と言って、ペンを置いた。

「そうだ。ロティアに渡したいものがあるんだ」

 リジンはシャツの胸のポケットから一つの封筒を取り出した。星空色のインクで「ロティアへ」と書いてある。

「手紙と、ロティアの絵を描いたんだ」

 ロティアは目を輝かせて「わたしの?」と繰り返す。

「うん。俺の隣にいるロティアを見るのが好きなんだ」リジンはロティアの手を取り、そっと封筒を握らせた。「星空色の絵を、ロティアにもらってほしいんだ。俺が大好きな色で描いた、大好きな人の絵」

 リジンの群青色の目がきらりと光る。ロティアはその目をまっすぐに見つめ返して、にっこりと笑った。

「ありがとう、リジン。すごくうれしい」

「よかった。絵の他にも花束とかお菓子とか、いろいろ用意してるから、それは家で渡すね。ここには持ってこられなかったから」

 ロティアが「あの家のどこに、そんなに隠してるの?」と笑いながら封筒をワンピースのポケットにしまうと、リジンが両手を広げてきた。

「ロティアのこと、抱きしめて良い?」

 リジンらしい質問に、ロティアはフフッと笑った。

「わたしも、リジンのこと抱きしめたい」

 ふたりはじっくりと見つめ合い、そっと抱きしめあった。

「これからもずっと隣にいてね、ロティア」

「うん、リジン」


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