石油の花火
何かを使って曖昧にする事が正解じゃない
そんな事はだれよりも理解しているつもりだった。
8:45発の機内ではそんな事を考えてたわけではない。
新千歳に降りて古いレンタカーに乗る。
同じ日本とは思えない。梅雨を感じない乾燥した空気を浴びながらおおらかな路を走らせる。
名古屋に家があるのに仕事でしばらく帰れていない。
旭川のホテルにチェックインをする為にフロントに入る。古びたホテルだが改装をしているのか子綺麗にしてある。
受付は一人しか居ないようで立て込んでいる。
やる気のない従業員がだらだらと手続きをしていく。
俺の順番が来たみたいだ。
会計をしながら馴れ馴れしく話しかけてくる。受付は「どこから来たの?」と
俺は「地元は名古屋だけど、この前まで千葉に居た」
受付は腕を組み直して口を開く
「俺の地元は関東なんだ。ゆっくり遊んでいきな」そう言うと鍵を渡してくれた。
男前な中年でどこか遊び慣れている雰囲気だった。何か訳がありそうな雰囲気で。
なぜかわからないけど自分を投影した。こうなってたら明るく生きられたのかと。
エレベーターに乗り込む。石油のような匂いがする。
扉が開いて自分の部屋に入る。
どこにでもあるホテルの雰囲気。誰も知らない俺の部屋に腰掛ける。
タバコを吸いながら旭川をスマホで調べる。
適当に服を羽織って飲み屋に歩く。
日が沈んできた北海道は涼しく、6月も終わるというのに暖かい春のような気候だ。
置いてきたはずの先月に戻ってきたかと錯覚してしまう。
陰鬱な気持ちを片手に持ちながら歩く。
戻れるはずのない過去を歩いてるのは皆同じなのに。
新しく刻むのは新しい憂鬱が訪れたときだかもしれない。
走る荷物達の下敷きになるよう飛び込むと夜になった旭川を照らすライトが花火に見えた。