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ヘルコフルート5

 リーウス校に入学して二年、帝都での友人ラトと一緒にダンジョンにいた。

 辺りは天然の洞窟の様相を呈し、休める場所は決まってる。


 僕は階段側の休憩所で、ラトと雑談して体力の回復をしてた。

 そこに王侯貴族ばかりが集まるラクス城校の学生たちが現れたんだ。


「ひゃぁーん」

「ぶは、何その子供みたいな声?」


 相手の身分を教えた途端、ラトが情けない声を出した。


「だ、え、嘘だろ。なんでこんな所にそんな高位の学生いんだよ!?」

「ラクス城校の辺りに行くとよく人だかりできてる人たちだよー」

「知らないよ! そんなところ行かないもん! っていうかなんでアーシャはそんな余裕なの! ともかく挨拶するもんだろ!?」

「いや、今さら過ぎるし、取り繕っても無理って言ったのラトでしょ?」


 反応が面白くて笑ってたら、ラトからけっこう強めの猫パンチを食らう。

 ただ正体を知って顔色を変えたのは向こうもだった。


「アーシャ? それに銀髪、まさか…………」

「初めまして? 一応はとこに当たるご令息で合ってる?」


 お互い名前は知ってる公爵令息に手を振って見せる。

 相手は父のいとこにあたる公爵家の嫡子で、ソーって呼ばれてたのを聞いただけ。

 名乗り合ったことなんてないし、僕が一方的に認識してた。

 何せソーの実家は、今の皇帝の地位を狙ってる。

 皇帝の庶子である僕は対立関係になりそうな相手なんだよね。


「まぁ、失礼いたしました。ご挨拶を申し上げても?」


 そう言うのは確かディオラという、この国のお姫さま。

 けどそっちにも手を振って、僕はあえて雑に辞退する。


「お互い学生だ。学び舎での平等を建前にしたくないなら気にせずにどうぞ?」

「いや、開き直って不遜すぎだから」


 またラトから猫パンチが飛ぶ。

 ラトは平民で商人だから、貴族に苦手意識持ってる。

 男爵とか領主くらいなら交渉もするんだけど、もっと上で政治やってるような相手は別世界過ぎて腰が引けるっぽい。


 けど確かに十代の子供相手に、ちょっと意地悪な言い方だったかな。

 僕は前世で大人だった頃の記憶があるし、大人げなかったかもしれない。

 困ってる様子にしょうがなく立って、お姫さまに手を差し出した。


「気にせず、座って休むといい。ここまで降りてこられたなら、相応に腕を磨いてきたんでしょう? だったら堂々と自分のやり方を貫いたらどうかな。その上で、交じり合うことのなかった者同士が、助け合うのもまたこの学園のやり方じゃない?」

「は、はい…………!」


 僕のちょっと乱暴な学園肯定に、ディオラは嬉しそうに手を取った。

 どうやらお姫さまとして国が誇る学術施設には思い入れがあるようだ。

 そんなこと考えながら、階段を下りる手伝いをして、暗い洞窟の中で燃やす火がある温かい場所へ誘導する。

 もう一人お付きらしい女子生徒いたから、そちらにも手を貸して座ってもらった。


 なんか言いたそうな顔のソーにも手を出してみる。


「いる?」

「いらん!」


 なんかめっちゃ睨まれた上で悔しそうにしてるのはなんでかな?


「あの、アーシャさま」

「なんのこともないただの学生だから、アーシャでいいよ。僕もディオラと呼んでも?」

「はい、アーシャ。リーウス校において、模擬演習における戦績や戦術についてはかねがね耳にしておりました」


 どうやら初対面だけど、ディオラのほうも僕のことは認識してたらしい。

 ただそうやって話し出すと、ソーの視線がさらにきつくなる。

 ラトも耳を片方立てて察した顔で猫の目を細くした。


「そういう話は、今度改めてしようか。今は気を抜けないダンジョンだ。まずは休むために水分を取ったほうがいい。体は冷えてない? 白湯ならあるよ」

「あ、すみません。そ、そうですね」

「謝る必要はないよ。僕も君の話に引き込まれて長くなってしまいそうだったからね」


 謙虚な感じのディオラに軽く答えて、ラトに白湯をわけるようお願いする。

 僕はまだ立ってるソーにも声をかけた。


「ほら、座ろうよ。そんな顔してたら女の子が逃げちゃうよ?」

「お前…………!」


 また余計に睨まれるけど、なんでもない風に手を振って見せる。

 僕の余裕に歯噛みしたソーは、それ以上言わずに仲間のほうへと座りに行った。


 それを横目にラトがこっそり僕に確認する。


「皇帝と血縁のある公爵の息子ってつまり、あれでしょ? いいの? 確か軍に顔効くんじゃなかった?」

「らしいね。だから父の後見してるほうの公爵は、軍に強い影響力がない。そこを埋め合わせられるかもしれないって、伯爵も思ったから僕のリーウス校入学許したし」


 ただ、今はその次代に睨まれてしまってる状況。

 見てわかるソーのディオラへの思いを馬鹿にするつもりはない。

 けど近づく異性を睨むなんて、わかりやすすぎるし子供すぎる。

 そんなことしてたら、ディオラのほうが交友関係歪むこともあり得るのに。

 だからちょっと釘差しのつもりだったんだけど、思いのほか睨まれたよね。


「うーん、ちょっと大人げなかったかも」

「そう言ってる時点で相手下に見すぎだって。まぁ、確かに子供っぽかったけど」


 ラトはさっきまで高位貴族に怯えてたのに、ちょっと笑ってる。


 沸かしてあった白湯をわけて、日の入らない地下で冷えた体を温めた。


「さて、それじゃ僕たちはそろそろ進もうか。獲物の取り合いするのも面倒だし、君たちは何処へ? 僕たちは身軽だから、獲物が被ってるなら一階下に行くけど?」


 話しかけるとソーがまた睨む勢いで答えた。


「いっそ、獲物の数を競うのはどうだ? こちらは日頃の修練の成果を見るために来ている。決まった魔物を狩るつもりではなかった」


 やっぱりお坊ちゃんだ。

 お小遣いが欲しくて売れる魔物探す僕たちとは、そもそもダンジョンに来た理由が違う。


 その上で、そんなこと言い出されたら、商人のラトが黙ってない。


「いいね。それならグレイブリザードの数を競おう。僕たちは慣れてるから二人で大丈夫。いくら取っても、取ってくれた分は引き取るし、解体もこっちでやる。ほしい素材あれば解体を受け負ってもいい」


 提示した勝負は二対四。

 さらに貴族が嫌がる解体作業を小遣い稼ぎに請け負い、最初から狙ってもいない魔物自体を引き取るのも可。

 グレイブリザードは頭に刃のような突起があり、タンクが必要とされる魔物でもあるから、軽装二人のこっちに不利そうな内容だ。


 けどそう甘い考えでラトもやってない。

 実は僕たちすでにグレイブリザードっていうトカゲ型の魔物を誘き寄せる、罠を張った後の休憩中だった。

 向こうから言い出したことだけど、ラトも人が悪い。

 まぁ、勝てない喧嘩は買うなって僕が助言したことあるけどね。


「いいだろう。その余裕が慢心でないことを期待している」


 ソーが言うと決定らしく、どうやら率いてるのがソーのようだ。

 あとは遅れは取らないという自信に繋がるだけの修練もしてるのかもしれない。


「それじゃ、一刻で引き上げだ。それ以上粘っても体力減るばっかりだからね。ここの火を一刻経てば消えるくらいに調整して…………」


 僕は時間を決めて準備をする。

 この世界、時計はあるけど懐中時計みたいに小型はない。

 だいたい空を見て時間の経過を図るけど、ここは地下だからね。


「それじゃやろうか。…………はじめ!」


 僕とラトは罠のほうへ素早く走り出す。

 ソーは焦るけど、ディオラが声をかけて止めた。


「グレイブリザードは穴を掘る種類です。つまり岩場ではなく掘り返せる土のある場所にいるはず。それはここから…………」


 どうやらダンジョンと魔物の知識はあるようで、ディオラが無闇に動くことを止める。

 きちんと対策をしてから動くだけの慎重さはソーにもあるようで、休憩場所で一度話し合いをするようだ。


 本当に今から探すようなことだったら、いい勝負だったかもしれない。

 けど、機先を制した僕たちの勝ちは揺るがなかった。


「ぐ、八匹だと? こちらは一匹がやっとだったのにどうしてそんなに見つけられたんだ」

「グレイブリザードは、聞いていたよりも姿が見えずにおりましたのに…………」


 ソーとディオラが言うとおり、僕たちのほうにおびき出してたからだね。

 それに売れる分、定期的に間引きされててグレイブリザードは目立つ場所にはいない。

 慣れてないのに、探して一匹見つけられたらけっこう優秀だ。


 とは言えこれは勝負。

 僕は種明かしはせず含みを持たせて笑って見せる。


「はは、相手の戦場に飛び込んでも上手くあしらわれるだけだよ。一つ学んだね?」


 なんて挑発したせいか、その後の学園生活では、ソーにダンジョンで勝負を挑まれるのがお決まりになってしまったのだった。


全七話

十二時更新

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― 新着の感想 ―
ラトラスの猫パンチ!かわいいなー。なかよしだなー。 爆速でディオラと距離詰めてるの流石。笑 ソーくんからにとってのアーシャはやっぱり勝ちたいライバルなんですね。
 隠さなくていい分容赦ないねw  ただなんとなくこのやりとり、ウェアレルルートのエフィと被るなw
アーシャが全くいないといないで成長しないなソー…… 会って数分で寝盗られかけてるのはよっぽどだぞwww
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