ウェアレルルート4
塾でエルビア先輩は、僕の魔法に驚いた。
カウリオ先生に話を聞きつつ、他にも上位とされる魔法を使って見せる。
水の上位は氷で、地の上位は岩、そして風の上位は雷だ。
僕としては氷を作る魔法は、温度を操作するというもの。
岩は鉱物を生成するか、圧力。
そして雷は電気で、これは電子の操作ってことになるのかな?
イメージで使ってる部分が大半だから、この辺りの分類はもっと考察の余地がある気はする。
「と、まぁ。出せるには出せますが、威力はありませんよ」
水があれば凍らせるし、土があれば砂粒を固められる。
そして風というか摩擦で電気を発生させるようにはできた。
うん、上位の魔法ってつまるところ、影響を与えるものの属性をさらに変化させるっていう手間がある。
これをまっとうに魔力頼りでやるとしたら、相当の魔力量が必要になるんだろう。
僕としては科学を再現してるだけで、前世の家電が魔法として再現できるイメージの元。
ただ家電にイメージを引っ張られてるせいか、問題は威力だった。
「できるだけ奇跡的ではあるんだだが…………」
エルビア先輩が、カウリオ先生を見て言葉を濁す。
「アーシャくんは賢く、自己判断も確かです。自らに危険があるような出力は出しません」
「あぁ、そういうタイプか」
「タイプですか?」
僕は納得するエルビア先輩に聞いた。
「幼い頃から慣らしておかないと、威力が出せない。まず魔力を放出するための体が作られてない。だから魔力をどんなに練っても魔法に威力が乗らない」
どうやら魔法で高威力を出すには、子供の頃から鍛える必要があるようだ。
そして九歳の僕は、鍛えるには遅いらしい。
「どんなにそれらしいことができても、こんなちっぽけな威力じゃ何にも使えないと笑われるだけ。今さら塾なんて意味ないどころか、競う相手ができることで差が顕著になる。意義を失って二度と魔法が使えなくなることもあるぞ」
カウリオ先生に教わった中に、魔法を使う時に疑ってはいけないというものがある。
他の種族にはない教えなんだそうだ。
けど人間は魔法に対して自信を失くすと、途端に魔法を使えなくなるんだとか。
だから人間の魔法使いは最初に自信を持つように教育される。
けどカウリオ先生はそれで学園の学生相手に苦労したそうで、僕には過剰なことはしないって最初に言ってた。
「何より心ができてない。心ができてない魔法使いは自分が怪我をすることはもちろん、他人に血を流させることを嫌う。そんなことでは魔法を扱うには不適切だ」
エルビア先輩が言うのは、たぶんカウリオ先生が言ってたことと同じだろう。
あと前世では東京オリンピックがあったから、なんとなくわかる。
体操競技やスケボー競技で、確か跳んだり回ったりには恐怖を覚える前に慣れさせる必要があって、そういう訓練を小学生からやってたというインタビューを見た。
(もしかしてこれは僕、オリンピック目指すアスリートの卵の中に、素人なのに同じ塾入ろうとしてる?)
場違いを感じてカウリオ先生を見ると、不思議そうに見返された。
「別に大規模殲滅魔法を使いたいわけではないと以前にいってましたよね?」
「えぇ、それはもちろんいりません。魔法の仕組みが気になるくらいです」
「ではやはりこのエルビアが…………」
「おい、先輩をつけろ」
うーん、仲良し?
カウリオ先生はエルビア先輩のことは気にせず、そのまま話を進める。
「イールやニールの例がありますし、まだ魔法使いとして大成できないと決まったわけではないでしょう」
「道具のほうか? だがそれだと俺は教えることがないぞ」
「いえ、ですから魔力の扱いを教えてほしいんです。元が少ないので効率についてなど」
「そうなると他の生徒と別に扱う必要が出てくる」
「多くの属性を見ることで刺激も得るでしょうから、大丈夫です」
「つまり普通の授業しつつ、こいつのために指導しろって?」
「そんな嫌な顔をしないでください」
「するだろ」
僕の扱いで困ってるっぽいのかな。
なんて大人の話が終わるのを待ってたら、後ろから肩を叩かれた。
「おい、お前今の光の魔法か?」
声かけてきたのは赤い髪の男の子。
僕より体が大きいけど、たぶん同年代だ。
「初めまして?」
「うん? あぁ、俺はレクサンデル大公国のハマート子爵家のエフィだ」
「僕は…………カウリオ先生にお世話になってるアーシャだよ」
偉そう、というか後ろにはこっち窺ってる子たちを引き連れてる。
なんかここのボス的な子なのかな?
それに名乗った国が違う。
ここは帝都でイスカリオン帝国の首都だ。
他の国名を上げるってことは、その歳で親元離れてるの?
すごいね。
「それで魔法は?」
「あぁ、僕は少しだけ上位の魔法使えてね。それでここの先生に相談をしてるんだ」
「すごいじゃないか!」
驚いてエフィは声を大きくする。
それにエルビア先輩が気づいて注意をした。
「おい、エフィ。まだ部外者だ。ちょっかいを出すな」
「上位使えるなら俺と腕試ししようぜ!」
「駄目だ」
「無理だよ」
エルビア先輩に続けて僕も断るんだけど、エフィはぐいぐいくる。
「上位使えるならそれなりにやれるだろ!」
「いや、だからそれなりに使えないのに上位使えるから相談に来てるんだよ」
説明するんだけど、エフィはわからない顔だ。
まぁ、逆上がりできないのに大車輪できましたって言ってるようなものだからね。
けど詳しく話す前にエルビア先輩が散らすように手を振る。
「いいからお前たち練習サボるな。この後、飛距離測ると言っただろう。きちんと記録残さないと後で評価点足りなくなるぞ」
追い払われて、エフィは不満げに唇を突き出す。
それでもエルビア先輩の言うことを聞いて離れて行った。
それはそれでなんだかすごく不服装で、また会った時絡まれそうだな。
そう思ってると、カウリオ先生がエフィって子について聞いた。
「エルビア先輩、彼は?」
「レクサンデル大公国からこっちに学びに来てる。実力がある分、すぐにその力を誇示したがってな。勝ち越してるせいで改める様子もない」
「良くいるタイプですね」
カウリオ先生、よくいるの? そんな喧嘩っ早い人?
え、学園大丈夫? それって個性の殴り合いにならない?
日本の規律とか、海外から注目されるのは聞いてたけど。
こっちだと魔法使いはそういう海外的なタイプの集まりだったりする?
「魔法の才能もあり、火の属性への適性が強いから、光使えるってことで気になるんだろ」
「乱暴なことは?」
「あるな。正直力を見せつけられる場を求めてる」
「抑制は?」
「した後だ。最初は祖父母に甘やかされて、こちらの指示にも全部反発してた。あんな風に退くようになったのも最近だ」
「大変ですね」
思わず言うと、エルビア先輩は僕を見下ろした。
「九歳なんだろ? 同じ年齢だぞ」
「そうなんですか。だったら、きっと社会を知っていずれ大人になるでしょう」
僕は経験もあってそんな言葉が出る。
エルビア先輩は、次にカウリオ先生を見て僕を指差した。
「おい、できすぎだろ」
「賢いことと、生育環境のせいで、子供らしく振舞うことをやめてしまっているようで」
「いえ、カウリオ先生のところでは大変よくしてもらっています」
つい反論したら、カウリオ先生は嬉しそうに笑う。
けどエルビア先輩はあきれ顔だ。
「あぁ、まぁ、生まれ思えば抑圧されるもんか。これだけ大人しいならまぁ、見学ってことでまずは様子見から始めてもいい」
なんか同情的になったみたいだ。
やっぱり隠し子だった皇帝の庶子って、大人からすれば面倒な存在なんだろう。
エルビア先輩のように自分の塾を持って商売をしてる人なら、たぶん抱え込みたくはない。
それでも折れてくれたなら、大人の判断の中に、同情や善意があったはずだ。
「ありがとうございます」
気遣いにお礼を言ったら、なんだかエルビア先輩が珍獣を見るような目になった。
本当に魔法使いって個性の殴り合いなの?
「お前が、どうやったらこんなまともな子を育てられるんだ?」
「失礼ですね。一緒に暮らして一年ですが、元からいい子ですよ」
うーん、これはカウリオ先生も実は、昔やんちゃだったとかいう落ちかもしれない。
次話明日更新