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犯罪者ギルドルート4

 目を開いて、僕は一瞬状況を忘れる。

 地下に作られた工房は、頑丈さを重視して石でできてた。

 けど見上げる天井は木製だ。


 ここは何処だ?

 そう疑問が浮かぶと同時に、近づく気配に跳び起きる。


「お、元気だな。よしよし。ここは俺たちが取ってる宿だ。あの遺跡からそう遠くない」


 言うのは緑髪のクトル。

 室内には僕を襲った他の五人もいた。


「俺の名前は言ったな。じゃ、お前の名前は?」


 クトルは椅子をもってきて座りながら気安く尋ねる。

 僕が答えないと肩を竦めて見せた。


「地下の工房は家探しさせてもらったぜ。あそこ作った魔法使いの手記からあの工房探してたんだ」


 どうやらあそこに工房あるとわかってて来た人たちだったらしい。

 その上で、襲った一人である膝まである長髪の男が見慣れた本を読んでた。

 地下にあった魔法使いの研究書だ。

 どうやら工房から持ってきたらしい。


 その長髪の男が顔を上げてクトルに声をかける。


「その子供が自分の状態をわかってるとも思えない。クトル、前提から話してやれ」

「何? イム、もう読んでしまった?」

「いや、まだ途中だ。だが、初歩的なことは何も書かれていないことを考えれば、淀みについても理解してないだろう」


 淀み、それは日誌のほうに出てきた言葉だ。

 そして目の前のクトルが僕を指して言った言葉、淀みの魔法使い。


「じゃあ、淀みについてなら、地脈とか魔素の話が先か。聞いたことあるか?」


 襲ってきた相手となれ合うような気にはなれないし、何故話そうとするのかもわからないから警戒してしまう。


 僕が無言を通すと、またイムと呼ばれた男が口を開いた。


「人間が備える魔力とは別に、自然界に存在する超常現象の元と言われるのが魔素。そして地脈はその世界を滔々と流れ潤す水脈のように、魔素が満ちる大いなる流れ」

「そうそう。そう言うもんがあるって話しだ。で、その流れは川と同じで時代で流れが変わる。そして変わった流れに取り残された魔素の溜まり、それを淀みって言うんだ」


 イムに続いてクトルが話す内容で、淀みという名称のイメージはわかった。

 けど、だからこそ淀みという命名は、あまりいいもののようには思えない。


 警戒を深めた僕に、長身で顔に目立つ傷のある女が話しかけて来た。


「お察しのとおり、淀みはただの魔素の溜まりじゃない。淀んで本来の働きが悪くなった場所のことだ。場合によっては魔物が生まれる場所になる。それが、あんたのいた工房だよ」

「そ、アルタの言うとおり、あそこを作った魔法使いは、やばい場所だと知っていて魔法の研究のためにあえてあそこに工房を作ってこそこそ研究してたんだ」


 アルタと呼ばれた女性を指して、クトルが続ける。

 そう言われれば、嫌でもわかる。

 あの魔法使いの工房は、違法、もしくは倫理的にヤバいものだと。


 そうでなくても犯罪者と名乗る彼らが捜してたんだ。

 僕が顔を顰めると、ベリーショートの髪に眼帯をつけた女が首を傾げる。


「全然喋らないけど、まさか淀みに中てられて発狂してるなんてことない? それじゃ、あたしたちの仲間になれないじゃない」

「は?」


 思わず返してしまったのは、しょうがないと思う。

 いきなり襲ってきて犯罪者名乗って、こうしてよろしくない情報を与えてるのに、仲間?


「カティはちょっと黙ってろ。それ確かめるために話聞かせて反応診てたってのに」


 クトルがばらされて肩を竦める。

 どうやら僕は正気かどうかを計られていたらしい。


 けど、もう言ってしまったからか、イムが先に話を進めた。


「大人相手に一人で対応するなど、あまりにも無謀。狂気に犯されている可能性はあったが、反応を見る限り理解し、窮地を脱することすら考えている」

「えー、もうカティが言っちまったから言うけど、お前けっこういい線いってる。その歳であれだけやれるならこの先まだ伸びるぜ」


 クトルは終始友好的で、どうやら仲間にしたいというのは本気らしい。

 前世の漫画やアニメで戦って本気でぶつかったからこそ仲間にとかあった。

 けど実際やってみると、命の危険が強くこびりついてそんな気にはなれない。


 すると低身長で顔の下半分をマスクで覆った男が初めて口を開く。


「発狂していないなら淀みに浸って適合した淀みの魔法使いだ。世間一般じゃ狂気で周囲に迷惑をかけても倫理に外れても力を求める極悪人扱い。そこに至っている以上、知らなかったとしてもまともな扱いをされると思うな」

「バッソ、そんな言い方可哀想よぉ。気が狂って逃げ出すしかなかった工房の魔法使いと違って、この子は見事に適合した才能のある子なんだからぁ」


 バッソと呼ばれた男が喋ると、口元から頬にかけて大きな傷が見えた。

 特徴的な外見の者たちの中で、間違いなく美しいと言える顔立ちの女が最後に口を開く。


「私はぁ、マギナって呼ばれてるの。どうせあなたも行くところがないんでしょう? だったら私たちと一緒にいましょうよぉ。仲間になってくれるならぁ、あんな湿っぽいベッドで寝る必要ないのよぉ?」


 間延びした喋り方のマギナの、その言葉はとても惹かれる。

 実際今いるベッドの上は乾いたシーツが心地よかった。

 二年で慣れたと思っていたけど、あの地下での生活は気がめいるくらいには不便で不快だったんだと今さら気づく。


 それに、どうせ行くところがないなんて、まったくそのとおりだ。


「…………帰れないのは、今さらだ。けど、あなたたちがなんなのか、知らないまま頷けるわけがない」


 初めて返答したら、クトルは眉を上げた。


「おっと、こりゃ思ったより年齢高いか? まぁ、まずは俺たちのことだな。顔合わせた時に言ったハリオラータって聞いたことは?」

「首を絞められた時にそんなこと言われた気もするけど、聞いたことはない」


 皮肉交じりに返すけど、クトルは全く悪びれない。


「帝都には昔から悪事を担って金を稼ぐ奴らがいる。それがお互いに争って自滅しないように組んだのが犯罪者ギルド。別に自称じゃなかったらしいが、なんかそう呼ばれてたんだと」


 クトルは他人ごとの様子で自分たちの組織を語る。


「最初に犯罪者ギルドを結成した四つの組織の一つが、淀みの魔法使いが魔法を磨くためだけに犯罪でも何でもしてやろうってことで作ったハリオラータ」

「もうこの時点で碌でもないのだけはわかる」

「まぁ、聞けよ。で、今じゃハリオラータも魔法関係の品扱う違法業者なんだが」


 聞いて得することなさそうなんだけど?


「ハリオラータの頭は必ず淀みの魔法使いにしろっていう掟があるんだ」

「あぁ、なるほど。つまりクトルはお飾りか」

「まぁな。研究素材潤沢なのはありがたいんだが、別に誰それと縄張り争いするとか、どこそこと抗争するとか興味はない」


 随分やる気のない犯罪組織の頭もいたものだ。


「ま、俺たちは先代が集めた淀みの魔法使いだ。その中で、一番面倒臭がらずにハリオラータの構成員と話してた俺が押し出されたって話だな」

「えぇ? 私ぃ、みんなと仲良くしてたよぉ?」

「それで痴情の縺れの末に言い寄る男軒並み実験台にしたのは誰だ」

「あんたを上に立てた途端、崩壊するのは目に見えてんだよ」


 マギナに同性のアルタとカティが手厳しく言い返す。

 イムとバッソは端から興味ないと言いたげな顔だ。


「ほらな? で、俺たちは子供の頃に淀みに浸った。だからたぶんお前も同じタイプだ。どうも大人になってから浸ると発狂して他害の方向に行く。その辺りも研究したいからお前には仲間になってほしい」

「同じ、ね」


 さすがに隠し子皇帝の子供なんてことはないだろう。

 クトルが言う同じは、子供の頃に行き場を失くして知らないまま淀みの魔法使いになったことだ。

 その上で発狂もせず、先代のハリオラータの頭に拾われ養育された。

 その先代がいなくなった上で、継いだクトルは研究も含めて心ならず淀みの魔法使いになった僕を仲間として受け入れるつもりがあるらしい。


 正直これ以上ない危険な組織だけど、同時に身を守るには実験体という確かな保護の名目でもある。

 先代が集めたというクトルたちは六人だけで、さらには淀み自体が違法な場所。

 つまり僕の現状は希少価値が高いと言えるから、使い潰される危険も少ない。


「聞いておくけど、淀みの魔法使いとわかったら、世間的にはどうなる?」

「一生幽閉で魔法一つ使わせてもらえずに、さっさと死ぬように扱われる」


 言って、クトルはアルタとカティ、そしてバッソを次々に指差した。

 当人たちも、傷のある顔、眼帯の目、マスクに隠れた傷をそれぞれ指す。

 つまり三人の特徴的な容姿は、淀みの魔法使いとして始末されかけたためと。

 これはもう、拒否権のない話らしい。


 とても信用のできる相手じゃないけど、それでもあの地下の工房よりもましな暮らしがあると思えば、僕に断る理由なんてなかった。


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