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子爵家ルート6

 僕とヒナは十四歳でルキウサリアにある学園入学の歳になった。


「久しぶり、テティ!」

「二人とも入学おめでとう。一年会えないだけで長かったわ」


 ルキウサリアで一つ上のテティと再会し、ヒナはテンションを上げる。

 手紙のやりとりはしてたけど、やっぱり姉同然で暮らしていたテティと会うとうれしい。


「アーシャもラクス城校入学おめでとう」

「入学金高いし、アクラー校でも良かったんだけどね」

「アーシャ頭いいんだから上いかないと。伯爵さまなんだから、学歴あったほうがいいって伯父さんもカリスおばさんも言ってたでしょ」


 テティのお祝いの言葉に答えると、アクラー校入学のヒナが唇を尖らせた。


 学園は幾つもの学舎の集合体で、僕は本校、ヒナとテティは分校のほうに所属する。

 本校は頭も必要だけどお金も必要な学校で、入学できれば貴族としての看板はもちろん、商会の宣伝効果も期待できるんだよね。


「ところで支店のほうはどういう感じ?」

「この一年で形は整えられたわ。ゲームラウンジについてはその目で確かめて」


 テティは学業もあるのに商会を手伝っていて、僕とヒナを店に案内してくれる。

 販売店舗はすでに稼働してるから裏から覗く形だ。

 学生の街なので興味本位の客も多いから、売り上げに繋がるかはまだ未定。


 そしてまだ稼働してないゲームラウンジに移動する。

 ここでお金を払ってゲームできるように整える予定で、興味を持ったら購入を促すように導線を作りたい。


「人形のディスプレイいいね。ヒナ、あれ見て自分もほしいって感じる?」

「うん! 自分じゃちょっと着れないドレスだし、あんな大きな宝石つけられたらいいなって思うし、お部屋作ってあるのも可愛い」


 触れないよう高い棚の上だけど、色鮮やかなドレスを纏い、ドールハウスに飾られた着せ替え人形が良く見える。

 位置的にラウンジの扉を解放すれば店側からも見られるだろう。


「私がやってみたの。まず興味を持ってもらわないとって、アーシャが言っていたから」

「うん、いい発想だと思うよ」


 商会の人とも打ち合わせをして、なんだか初日から仕事をしてしまった。

 けど僕らの本業は学生だ。


 翌日、僕はヒナともわかれて一人ラクス城校の新入生として入学式に出席した。

 所属は教養学科で、高位貴族の子女が集まり人脈づくりを基本にするらしい。


「久しぶり。大叔母さまの葬儀以来よね」

「今年入学できてお互い運がいいね」


 周囲から聞こえる運がいいというのは、今年の教養学科には、学園のある国の第一王女が入学してるから。

 王侯貴族の学生が集まるということで、その親も集まるので、ルキウサリアは周辺一の社交場でもある。

 一番は帝都の宮殿だけど、今はきな臭いからこっちのほうが華やかかもしれない。


 十歳の頃にエデンバル家が皇子を狙い、内紛が起きた。

 その後皇妃が亡くなり、新たな皇妃も体調不良で、エデンバル家に与したと目されながら排除できない犯罪者ギルドという危ない組織は帝都で増長中…………。


「こっちのほうが情勢安定しているようなら、本店を移すのも一つの手かな?」


 学生とはいえ誰も王侯貴族や富裕層の出身で、帝都の片隅で貧乏貴族をしていた僕より情報通だ。


 商会でお金を稼ぐのと、新しいゲームを考えるのが楽しくておざなりにしてた。

 伯爵とか言いつつ、僕は全く社交してないから貴族社会に疎いと言ってもいい。


「アレキオン伯爵」


 そんな僕を呼び止めるとなると、相手は見たこともない僕の特徴を調べてる。

 そして爵位を受けるに至る生い立ちも知っていないわけがない。


 呼ばれて振り返ると、紺色の髪の少年がいる。

 制服代わりのマントの下に着ているのは仕立ての良い服で、マントを止める装飾品を取っても高価なのが見てわかった。

 何より、周囲からユーラシオン公爵の、なんて聞こえてるよ。


「会ったことはないはずだけど、名前を教えてくれるかい?」


 相手の注目度も利用して叩き返す。

 貴族として名前を問うのは目上の者だ。

 実際、僕は爵位持ちで一家の当主だから間違った対応ではない。

 周囲の声から相手はユーラシオン公爵の嫡子であって、爵位持ちではないみたいだしね。

 ただ、家同士の力関係を思えば、喧嘩売るに等しい。

 なので、あからさまにやる気になるお坊ちゃんを正面から受け止める気もない。


「僕のことはアーシャと呼んで。伯爵なんて名前だけだから」


 誇示した爵位を放り出す発言に、目の前の少年は固まってしまった。

 もちろん周囲で様子を見ている学生たちも、定石を外してくる僕へ大貴族の嫡子がどんな反応をするか興味津々。


 どうやらこのユーラシオン公爵嫡子は有名人で、血縁だけで言えば、実は僕の父方はとこにあたる。

 向こうから関わらなければ僕としても他人でいるつもりだったけど、絡まれたからにはただでは帰さないよ。

 しっかり客寄せパンダになってもらおうか。


「それとも君は、この学園で家の名前に固執するのかな?」

「違う。名ではなくその基となる血筋だ。その上でアーシャ、君の与えられた爵位を軽んじる言動はいかがなものか」

「はは、だったら余計に僕に求めるのはお門違いだ。それとも、地位よりも血筋を優先するとユーラシオン公爵閣下は君に教えているのかな?」


 言い返そうとして、ユーラシオン公爵嫡子は口を閉じる。

 罠に気づくくらいはできるようだ。

 これで応諾したら、血筋の低い皇帝に叛意ありと返されることは予想できる。

 でも違うと言えば、地位を優先して僕が上から言ったことに反論できなくなる。


 笑いかけると、ユーラシオン公爵嫡子は眉間を険しくした。

 こいつ性格悪いとでも言いたげな顔だ。

 僕としては嘘と誇張で切り抜ける狡い真似もしないことに好感が持てるんだけど。

 商会立てたら売れると見て、すり寄ったり脅しかけたりしてくる人、けっこういたんだよね。


「まぁ、君が名前に誇りを持っているのを否定するでもない。それで、ユーラシオン公爵令息。僕にどんな用事かな?」

「…………ソーと呼ばれている。同じ帝都に住む中で、見えることもなかったため、挨拶をと思って声をかけさせてもらった」

「ソー、僕たちは学生だ。そんな堅苦しいこと必要ないよ」


 取り繕うのも拒否するように言えば、イラッとしたソーの視線がきつい。

 これ以上の挑発は、争い方を決めてからにしようかな。


 僕は手を打って、野次馬よろしくいい感じに集まった学生たちの耳目を集めた。


「どうやら僕と君では重んじるものが違うようだ。だったら、ここは一つゲームでもして親睦を深めてみないかい? 君はどんな室内遊戯を知っている? 白亜の姫君は我が商会一番人気だけれど、知らないようなら一式進呈しよう。それとも去年発売した鏡の国の祖王は知っているかな? あれは手持ちの駒を増やしていく遊びだから、持っているなら君の考えた最強デッキでも見せてほしい所だけど。もちろん、運命をサイコロに委ねての人生ゲームでも僕は受けて立つよ」


 ソーに言いつつ、周囲に宣伝する。

 言ったとおり、ゲーム一式はあげるつもりだ。

 だって、有名人が持ってるなら自分もって思うのは前世でも同じだし宣伝になる。


「遊ぶことしか考えていないのか?」

「遊びもないつまらない人間になるよりはましだろう? そうだね、ソーが勝てばもう少し貴族らしく真面目に? 澄まして? それっぽく振る舞ってみるよ」


 ソーはやる気失くす様子なので、心底負けるとは思っていない風を装って追撃をする。


「もちろん、君が勝てるならね」

「いいだろう、白亜の姫君はやった。あんな単純なゲームでそこまで誇れるなら受けて立とう」


 けっこう素直らしいソーはつられてくれた。


「ルールが単純だからって、奥行きがないと決めつけるのは見識が狭すぎるよ、未来の公爵さま」


 お互いに煽りつつ、教室へ移動すると、周りのやじ馬も興味を持って一緒に来る。

 僕は持ち運び可能なオセロ盤を取り出し、商品アピールもしつつ大人げなく勝ちに行った。


「…………負け、た」

「さて、それじゃ負けたほうが勝ったほうに合わせるで良かったかな?」

「あぁ」


 決めてなかったのに、負けたからって合わせるって、潔いのかまだ子供なのか。

 内心呆れながらも、やっぱり大人げなかった自分を反省しつつ、僕は手を差し出す。


「それじゃ、またゲームをしてよ。同年代の友人はいなかったんだ。これからよろしく」


 ソーは悔しそうにしながらも、諦めた様子で僕が差し出した手を握り返した。


 そんな入学式から二年。

 それまで金策ばかりで貴族らしいことなんてしてなかったけど、二年過ごせばけっこう知り合いはできる。


「アーシャ! ソーさまは何処ですの? 隠し立ては許しませんわよ」

「ウェルン、落ち着いて。まずは深呼吸してみようか?」


 同じ教養学科のウェルンタース子爵令嬢のウェルンが、気軽に声をかけて来た。

 ソーの婚約者でベタ惚れで、僕を婚約者の友人と見なしての言動なのはわかる。

 けど、お願いだから痴話げんかに僕を巻き込まないでほしかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  あーまた情報量の多い番外編ならではのw  なんだかんだソティリオスとは素の知性レベルが近くて同じ年代というのが作用しているのか友人ににり易いように思えますね。  そしてディオラが関わらな…
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