彼方より此方へ
ランサーソードのコックピット内では額に汗を流しながら焦燥するレオナルドがいた。地球へと突入した宇宙船が外気圏を抜け、すぐに中間圏、成層圏を抜けていくだろう。そうなると対流圏まではもはや目と鼻の先となり、残すは地上に船体を突き立てることになってしまう。レオナルドが大声でやり取りを交わす。
「セリウゥウウウウス!!!」
その名を呼ぶのは、相棒に対する強い絆の現れだ。荒々しく叫ぶレオナルドの感情の中にはセリウス―――レオナルドが名付けたAIへの強い友情や信頼が感じ取れる。
「久々に名前を呼ばれましたね、どうしましたか?」
宇宙船に搭載されているAIから、会話を楽しむように返事が返ってきた。
「どうしましたかじゃねぇぞ!!この状況はわかっているだろうが!!!さっさと対応しないと俺もお前も星間の砂だ!!」
セリウス・アルタイル―――遺伝型ニューラルネットワークを用いた自己学習・自己組織化が可能なボトムアップ型の人工知能である。これまでのデータから自己学習し、経験を通じて性能が向上していくため高い適応能力を持ち、様々な状況や問題に対処できる優れものだ。レオナルドが与えたセリウスという名は最も明るい恒星であり、人類の航海や探検において重要な目印となってきたことから、レオナルドの冒険精神を象徴しているものである。また、アルタイルは鷲の翼を表す星で自由な飛翔を意味しており、レオナルドとAIの高い連携力と信頼関係を表している。なお、星間の砂というのは、日本語でいうなら海の藻屑みたいな言い回しである。違う銀河系では違う言い回しもあるようだ。
セリウスも十分に状況が確認できているので、改めて佇まいを正しながらレオナルドとの会話を続けた、AIなので姿勢なんてものはないのだが。
「惑星の大気圏に突入しました、地上までは数分もない計算です。船体の姿勢を制御しつつ、減速させましょう。その後アンカーの使用を提案します。」
セリウスが船体の状況を瞬時に計算した上で最適解を考案する。
「それしかねぇんだよなぁ!ちくしょう!最初の段階がキモだ!!反重力スピンディスクを起動しろ!!!」
「反重力スピンディスク起動、イニシエート・・・3・・2・・1・・・開始しました」
船体の底部に取り付けられている円盤状の部品であり、高速回転する磁気ベアリングや超伝導素材で構成されている。この部品を軸に回転させることで、惑星の重力を打ち消すことが可能となる。
「無理に減速させるな!!船体がポッキリ逝くぞ!!」
起動させたからといってすぐに船体が止まるわけではない。地球には地球の物理法則が存在しており、たとえオーバーテクノロジーの技術を持っていたとしてもそれを無しにすることは困難である。急激に物体の速度を止めると高負荷が生じ、頑丈な船体でさえも破損は免れないだろう。そうなった場合は中にいる生物もミンチになる可能性があるが・・・
「レオ、このままだと間に合いません。至急アンカーの使用を提案します。」
セリウスが予測する未来は、このままだと間に合わないという結論に至った。減速は上手くいっているが、思った以上に速度が落ちない。レオナルドは最大限集中力を高めながらニューロン操作を続けていた。落ちていくにしても船体の姿勢は重要である、多くのことを並列処理しないといけないが、セリウスの補助も相まって速度以外は順調であった。
「ちくしょう!もう少し早めに対応できていたら!!・・・なんだ!?」
―――ピピピピピピピ
船内に何かしらの警報が鳴り響く。緊急事態ではあるが、使用されるセンサーから通知されているのは危険なものではなく、何かが感知されているという音である。
―――ガクンッ
「ぐおっ!急に速度が落ちたぞ!!どうなってやがる!?まだ出力はあげるなと言ったぞ!!」
レオナルドはセリウスが反重力スピンディスクの出力を上げて減速を強めたのかと思ったが、そうではないようだった。一瞬だけ返事に間があったあとにAIから報告される。
「未知の物体を検出。船体の前方に包まれるように展開。エラー、物質の特定ができません」
内容は何かしらが船体を覆っていること、でもそれが何なのかはわからないこと、である。つまるところは何もわからないのだが、ただ一つ理解できることがあった。
「なんだかしらねぇが速度だけは落ちてやがる!!!セリウス!!」
「アイアイ、キャプテン」
スピンディスクの出力を指数関数的に上げていきながら、通常よりもはやい速度で船体を減速させていった。少しばかり船体がきしむが、未知の物体が覆っているのが功を期しているからなのか、想像以上に事態が好転している。
「守られているのか・・・?」
レオナルドが不思議な感覚を味わいながらも、その状況に当てはまるような感情を言葉として呟いていた。地上までの距離はもうあとわずかではあるが、最後の仕上げには間に合うようだ。セリウスがレオナルドの意識を戻すように会話を投げかける。
「レオ、アンカーを使用しても問題ない計算です、許可を」
問いかけを神経伝達でダイレクトに感じたレオナルドの行動は早かった。力強い言葉とともに、この墜落劇を終わらせようとした。
「よぉおし!!次元アンカー5秒後に射出しろ!!」
「次元アンカー装填・・・・・イジェクト、固定されます」
もしもこの次元アンカーが目にも見えるもので合ったら、船体から空間へと射出される複数の碇のようなものを見て取れただろう。だが、実際はほぼ見えない状態のものである。その機能としては船体を空中に固定するための、船舶でいうなら、その名の通り船をとどめておくめのアンカーである。
「少し伸ばしながら固めていけ!!!スピンディスクもそろそろ全開だ!」
「まったく、人使いの荒い主人ですね」
次元アンカーの特徴としては固定点の生成にある。多次元空間において固定点を生成し、宇宙船とその点との間に強力な相互作用を生み出すことで、宇宙船はその場所に固定され、空中で停止することが可能だ。調整することにより固定力に遊びも入れることが可能となる。
「ぐおぉおおおおお!!!!とまりやがれぇえ!!!」
「ほら、がんばってください」
セリウスの呑気な返しは、どうやら計算上成功するということを既に導き出しているがために、おちゃらけれているのであろう。その手前で必死に操作しているレオナルドには、申し訳なく・・・となるくらいではあるのだが。
「ハァー・・・ハァー・・・」
「お疲れ様でした」
反重力による減速と、アンカーによる固定によって宇宙船は見事に地表に激突することなく海上ギリギリにて止まった。振り絞って出し切ったレオナルドは、疲れ切った目を戦友へと向けながら言った。
「お前ほんと・・・だぁああ!!!!・・・・・疲れたぜ」
言葉にならないような感情を持ちつつも、いつもこのような感じで付き合っているため、また一つ面白い話ができたなくらいにしか思わなかった。少々大声を出して発散はしたが、別に感情を逆なでされているわけではなかった。
「まぁ、後始末のほうが大変かもしれませんけどね」
セリウスがよくわからないような言葉をレオナルドに投げかける。別に船体には問題が発生しているわけではないし、自分も負傷をしているわけではない。セリウス自身に何か影響でも起きたか?と思ったが、そうではないらしい。疑問への答えを少しずつ与えるように、セリウスがレオナルドへと言った。
「どうやらこの星には有機生命体が存在するようですね」
「あ?」
投影スクリーンからは、外の様子が映し出される。文明があり、人々も存在する様がわかるが、どうやらみな同じ方向に向けて逃げているように見える。そりゃこんなデカい物体が落下してきたならそうだろうな・・・と思いつつも、もう少し真下に視線をやると自分がやらかした後始末・・・となりそうな光景が見えてきた。
「あ“っ!? やべぇ!!」
「いかがしますか?」
写された映像にはギリギリで止まった船体の下にある海が一気に荒れ、その影響で大きな津波が発生して砂浜へと押し寄せている所であった。レオナルドも一応は人の上に立つ皇子である。こんなことで被害を出してしまうのは皇族としての沽券にかかわる問題だ。
「くそっ!!どうすりゃいい!!」
今にも津波が押し寄せようとしているタイミング、どうすればいいか皆目見当もつかない中、突如として砂浜一帯を覆うように光が溢れだした。
―――パァアア
「何が起きてやがる!!?」
驚愕したのも納得である。光の中からは突如として植物が育ち、樹木が出現、大樹へと生長し絡み合うようにその存在を縦に、横にと広げていった。その光景は、まさに押し寄せる津波から砂浜を守ろうとしている防波堤のようだった。
「セリウス、大気組成はどうなっている?」
「窒素、酸素、アルゴンが主要成分となっています。酸素は20%ほどです。」
問いかけられたセリウスは瞬時に大気分析を行い、地球の状態を明らかにした。レオナルドはその情報から船外活動は問題ないと判断した。出現した植物たちに津波が押し寄せ、予想通りにそれらが小規模災害を防ぎきっている。
「今回は呼吸カプセルの必要はなさそうだな、とりあえず後始末つけてくるわ」
「了解、待機モードに移行します」
そう伝えてからレオナルドは船外に向けて歩き始めた。
――――火の玉状態で船体が墜落している刻、藤原視点――――
藤原の頭の中が若干パニックで祭りを起こしているが、事態は次々に進んでいくため気持ちを切り替えだした。火の玉が上空から降ってきているが、視線の先の砂浜に生成されている白い光の柱の中には人のような影があることを認識していた。
「さて、どっちから対処するべきか」
藤原の中では事態を収拾させるための行動をとろうとしていた。混乱していないわけではないが、今朝も見てしまった夢の出来事がこの状況に納得せざるを得ない材料として纏わりつく。不安を覚えないわけではないが、やっていくしかない。そう決めた藤原は行動を開始する。
「おい、あんた!俺の言葉はわかるか!」
声を張り上げて問いかけたのは、光の柱がほぼ消え去り中心点にいた、歴史資料館でしか見たことないような鎧を着こんだ優男であった。見た目は若い、正確な年齢はわからないが少なくとも自分よりは元気そうだと自虐的に見ていた。
「・・・・・・」
対するリオン・ハーシュは状況を飲み込めていなかった。転移した先がどこなのか、あれからどれくらいの時間がたったのか、目の前の人物は誰なのか、周囲の人々がなぜ人を押しのけながらも逃げ惑っているのか。今のは自分に向けた言葉なのか?どうしても王国のことや、境遇に意識をもっていかれて対応できずにいた。
「おい!あんただよ!せめて意味が理解できるなら返事してくれ!!時間がない!!」
藤原が急くように再度リオンへと言葉を投げかける。藤原にとってはリオンがだれでどこから来たのか、というのは・・・気にならないわけなどないが、とりあえずすべてを飲み込んで状況に対応しないといけないタイミングである。せめて言っている言葉の意味が通じたならば、意思疎通ができることがわかるので返事をまっているが・・・
「おい!!」
「そう大声を出さないでくれ、ちゃんと言葉は理解できる」
再度の呼びかけにようやくリオンが答える。藤原も反射的にガッツポーズをとりながら、言葉が理解できている場合のプランを実行させていく、すぐそこまで火の玉が迫ってきている。
「よかった!ここから大声ですまないがサクっと自己紹介だ!俺は藤原良太!ようこそ地球へだ!あんたの名前は!?」
矢継ぎ早に自己紹介をし、地球へやってきた名も知らぬ人物に対しておちゃらけた雰囲気で歓迎する。なぜ地球以外からきたのがわかるのだろうか?別に不思議な話ではない。藤原だって日本人だ。自分だってたまには漫画も読むし、小説だって嗜む人間だ。それに加え、自らの境遇のおかげで例え摩訶不思議が存在したとしてもきちんと現実として認識できる経験を持っていた。しまいには夢のお告げ・・・・ここまでくると偶然ではないと受け止めている。
目をぱちくりしながらリオンが言葉を漏らす
「・・・どういうことだ?あんたはどういう状況か理解しているのか?ここは・・・?」
混乱するのもごもっともかな、と藤原は内心で考えていたが、同時に不思議な感覚を味わっていた。その理由もはっきりした。リオンの言葉は藤原にとっても理解することができたのだが、頭が混乱しそうになるのは口の動きと発音が一致しないことである。ちゃんとリオンから発せられた音であるという認識はあるが・・・いうなら、英語をしゃべる口の動きをしているのに耳に入ってくるのは日本語としての発音である。それもまた後で考えればいいかと思いつつ、藤原が先を急ぐ。
「状況はなんとなくわかる!かもしれん!あとですり合わせる!!とりあえず今は名前を教えてくれ!」
「リオン・ハーシュだ」
ようやく相手の名前が聞けたと安堵する藤原だが、ここからが本格的な行動である。
「リオン!とりあえず細かい話はあとだ!まずはデカい案件を解決しなきゃならん!!そいつだ!」
藤原がリオンの後方を指さしながら切羽詰まったような表情と焦るような言葉を浴びさせる。不思議そうにリオンが後ろを確認すると、巨大な火の玉が迫ってくるのを確認した。
「―――っっっ!!!」
言葉にならない表情を作りながら、反射的に後ろへと飛び藤原の近くに着地した。
「あれはなんだ!?」
驚愕に染まったリオンが藤原へと質問する
「わからん、わからんがこれからわかると思う」
藤原だって実際に何なのかはわかっていないのだ。とりあえずこの火の球を止めて、そのあとじっくり見聞するのも良いかと思っている段階だ。リオンがまだ転移の影響でふらついているのを確認した藤原は、優しく言葉を投げかけた
「とりあえずリオンはそこらへんでゆっくりしててくれ。こいつをどうにかしなきゃお陀仏なんでね」
「どうにか・・・?できるものなのか?」
怪訝に思いながら口に出した言葉からは、自らの経験から出てくる確信にも近い何かを感じさせられた。
「ソドムの天火と同規模の現象だぞ・・・あんたが何者かは知らないが―――」
リオンがかつての世界で遭遇した経験を口に出す。ソドムの天火。古代都市に降り注いだ神の天罰として記録されている。魔王との戦いの一幕であった出来事であるが、今ではあちらの世界では精霊たちと多くの仲間が奮闘して防ぎ切った伝説として、多くの人に語り継がれている。
藤原がニヤリと笑いながら飛来する物体に目を向けた。表で生きる藤原の時は、さえない感じの風貌だが、サイキッカーとして活動する時は雰囲気を変える。髪を後ろに流してオールバックにする。仕事モードになるときのルーティンだ。
「さて、やるか――――オクタシールド」
サイキッカーとしての能力を発動させる。ある程度の力をもったサイキッカーが到達する階級において基本的には使えるようになっている能力の一つである―――サイコキネシス。程度の差は能力者によりけりだが、サクっとエネルギー変換から物質変換を通して、目には見えづらい半透明のような物体ができあがった。通常のシールドは四角形のようなものにしているが、今回はオクタシールド、つまり八角形に頂点を拡張させることで、構造がより均等に荷重を分散できるようにしている。
「なんだ?精霊が・・・・」
リオンが何かを感じ取ったのか、藤原の能力を目の当たりにしてから不思議な感覚に見舞われる。能力を発動しながら藤原が火の玉を見ていると、飛来してくる物体が少し制御をもっているのを感じた。同時に下部に見える円盤状の何かが回転を始め、火の玉の周囲が歪むような錯覚を覚えながら、なんとなく相手がやろうとしていることを理解した
「なるほど重力か、誰かが操作してるなら好都合」
藤原が正解を言い当てる。一般相対性理論で説明されている現象で重力レンズ効果とも呼ばれているそれは時空の歪みに影響されて光の軌道が曲がるとされる。つまり、目の前の物体は、何かしら操作をしながら重力をゆがませて、ブレーキをかけようとしいるのだろうと考えた。現にさっきよりは落下が遅くなっている。
最初は衝突でもさせて完全に停止させるかなと考えていた藤原だが、まだ飛来する物体は活動していると仮定して行動を変更した
「このまま補助するか―――シールド・エクステンド、エクステンド、エクステンド、リインフォース」
作り上げたシールドを拡張し、拡張し、拡張し、最後は頑強に補強するという効果を加える。最後に用意したものを、飛んでくる物体の形に合わせていく。
「形状変化・・・よし、いけ!」
一瞬で巨大な物体を包み込むような形に変化させたシールドを飛ばし、下から支えるようにブレーキの補助として落下を減速させた、最後にこれでもかという形で強化する。
「思ったより重いな!?―――ブースト・セプタ」
飛ばした一枚のシールドに重ねるように7枚の同じものを生成させた。用意したシールドが火の玉を支えるように、徐々にその落下は抑えられていった。
―――パリン、パリン
これほどの質量をどうにかしようとしている藤原もすごいが、さすがに無理もあるのか内側から1枚また1枚と生成されたシールドが割れていく。藤原も、さすがに他の手も使った方がいいか?と考えていたところ、落ちてきている火の玉―――この時にはある程度外観が判別できるようになっており、宇宙船であるということがわかったもの―――から何かが射出されたような感覚を肌で感じ取っていた。
「・・・・何をしたかわからないが、次の手を使わせないで上手くやってくれよ」
これで落下するようなら藤原も全力で船体を消し去るしかないと思い詰めていた。もう海上まではすぐそこである。しかし、ぐんぐん速度を落としていった船体が海面スレスレまで届く頃には落下が終了し、巨大な宇宙戦艦が空中に浮いている状態であった。
「あぶねー!いや、どうにかなってよかったわ!・・・あ」
状況に安堵していたら藤原だが、次に目の当たりにしたのは荒れた海が津波を伴って砂浜へとその大量の水を運んでくるところであった。
「ちっ!・・・・おいリオン、どうした?」
もうひと働きしないといけないか、と考えていた藤原だが、後ろにいたリオンが身体をあげて藤原の横に立った。
「少しは役に立とう」
リオンがそう言って何かを呟き始めた。藤原は何をするのか興味津々で注視していたが、さすがにミスった際はまずいと考え、予備のプランを用意していた。果たして藤原の勘は当たるのか・・・リオンがとある名を呼びかける
「アクアリウス」
アクアリウス、リオンが調和を果たした水と海を司る大精霊。その力をもって津波の影響を取り除こうとしたのだろう。藤原も興味津々で見ていたが、何かがおかしいことに気づいた。
「・・・・なぜだ?」
リオンが不思議そうに呟いた。瞬時、藤原は失敗したと悟った。何故かはわからない。でも何かをやろうとしてできなかったということは、失敗したということだ。残念がりながらも藤原がリオンに声をかける。
「ほら、リオン!多分まだ調子悪いんだって、あとはやっとくから下がってな!」
藤原がリオンの肩をポンポンと叩きながら声をかけるが、リオンは思いつめたように考え込んでいた。ただ数秒しかたっていないが、何かを納得したのか
「そういうこと・・・か」
リオンの顔には少しばかり悲しさのようなものが見えた。藤原はどうしたものかと考えていたが、リオンが鋭い顔つきで藤原を見て答えた
「すまない、状況はわかった。改めて任せてくれ」
「はいよ」
藤原は何も言わずにリオンの提案を受け入れた。たった今さっき出会いを果たしたばかりの存在で、つながりも何もあるわけではないが。何かに納得したリオンの表情を見る限りは、大丈夫そうだと感じたからだ。ただの勘。だがサイキッカーとして活動してきた長きにわたる勘である。
リオンが改めて集中をし始めた。その身体が少しばかり発光しているように見える。静かに、リオンは名を告げる。
「おいで、ラミアティス」
刹那、緑色の光が周囲にあふれ、リオンたちの周りには草や小さな花が咲き始めた。光が収束していく中で見えてきたのは女性の姿の精霊。髪は長く緑色、樹木の葉やつる植物が絡み合っているかのようだ。髪の中には花々が咲いており、美しいものである。ラミアティス―――自然界におけるバランスを司る大精霊。植物の成長を促し、土壌の肥沃さを保ち、気候の変化に適応させる力を持つ。
ラミアティスがリオンに纏わり、優しい笑顔を向ける。思わず藤原も息を漏らした
「へぇ」
「頼んだよ、ミア」
リオンが精霊にお願いしたところ、ラミアティスは頷き上空へと舞った。精霊が一帯を一瞥すると、白い光が砂浜一面を覆いこんでいく。彼女が腕を一人振りすると、砂浜沿いには瞬く間に植物が生え、生長を促し、大樹となり一帯を防波堤のように取り囲んだ。
「おお!」
藤原がその光景を見て興奮を覚えていた。サイキッカーの中には似たようなことをできる者もいるが、ここまでの規模と出力、時間を考えたら驚くしかない。しかも、どうやってそれを顕現させているのかが理解できない。
「こりゃークロロキネシスの使い手もびっくりだわ」
多分サイキッカーの区分なのだろう。独り言をつぶやいた直後に津波が砂浜に到達し、大きな水しぶきをあげながら大樹にあたってきたが、隙間なく作り上げた自然の防波堤は、押し寄せる水をものともせずに災害を防ぎ切った。藤原がリオンをねぎらう。
「お疲れ様、助かったよ」
リオンが藤原に顔を向けて不思議そうに言葉をかけようとした
「―――なぁ、あんた」
―――シュン
しかし言葉の続きを繋げる前に、二人の前に一瞬でフォトンを輝かせながら現れた人物がいた。
「よぉ!話聞けそうなのどうやらお前らだけのようだなぁ!」
「・・・・」
リオンは急に表れた人物に若干の警戒をしながらも、一挙一挙の挙動に集中して何が起きても対処できるようにしていた。現れた人物―――宇宙船を操縦していたアウレンシア帝国の皇子、レオナルド・アウレリウス・アルカディウスである。
何とも言えない空気の中、藤原は今朝のことを考えていた。
(少なくとも俺が考えていたのは地球の範囲内の距離だったんだけどなぁ・・・)
―――彼方より訪れし者たちの、運命の鐘が鳴り響く―――
神託が示した言葉は確かに的を射ていた。彼方というのがどれほど遠方なのか、想像できる範囲内で考え込んでいたが、まさか一人は違う銀河系、もう一人は異世界。遠いにもほどがあるわ・・・と心の中で愚痴をこぼす藤原だった。
藤原はまとめあげた髪をもとに戻しながら、なんとも言えない気持ちになりつつも若干ひきつった笑顔で目の前にいる二人に向けて言葉をかけた
「と、とりあえず・・・・自己紹介しよっか」
――――三人は出会うべくして出会った。これは偶然では決してない。これから語られていくのは、三人の英雄が紡いでいく世界救済の物語である――――
とりあえずプロローグまでは書けた・・・修正もゆっくりしていきます