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リオン・ハーシュ

異なる時間、異なる空間―――ここはとある国の謁見の間


「リオンよ、改めて魔王を退けたことに敬意を表する。大変な勝利であったな」


「光栄です、陛下」


国の重鎮が周囲に立ち、中心にはエルミンタル王国の勇者であるリオン・ハーシュが佇んでいる。

リオンが見つめる先には、エルミンタル王国の国王であるガブリエル・フォン・エルミンタル陛下がおられ、その隣にはアリア・フォン・エルミンタル妃殿下が玉座に静かに腰を下ろしている。


先日も謁見をしたが、本日はまた違う要件なのだろうか、周囲の重鎮たちは固唾をのんで見守っているが、どのような理由かはわからない。リオンと陛下の間だけで理解される感情が水面下でやりとりされていた。


「リオンよ、改めて褒美を遣わそう。何を求める?先日は聞きそびれてしまったな」


話の本質ではないが、王として会話には遊びを入れる必要がある。

こちらに側に理解を示して、その力を振舞ってくれることを期待するが、王から見たリオンの表情は、そうはならないのだろうと感じ取っていた。


「陛下、先日はお答えできずに申し訳ありませんでした。改めて私の願いを申します」


「話せ」


リオンは一呼吸おいて、知ってしまった事実(・・・・・・・・・)を噛みしめながら、力強い言葉で王に問う。


「エルミンタル王国の野望をどうか御捨て下さい」


――――――ざわざわーー

――ひそひそーーー


周囲がどういうことなのかと疑問を抱く中、リオンと王の二人の間で物語が動き出す


「叶えないのは王の器にかかわる、と言いたいところだが、リオンよ、それは残念ながら聞き入れられないものだ」


部屋の空気が少し冷えた。身体にのしかかる重みが増したような錯覚が肌をなぞる。王から発した感情が周囲の精霊と呼応して、ありもしない錯覚を現実として感じてしまっているのか、周りの重鎮たちが冷や汗をかき始める。

リオンは静かに話し始めた。


「そうなれば、私は私の道を行くまでです」


王と重鎮たちは黙り込んでいた。

不穏な空気とともに、王の表情もひりついてくる。


「リオンよ、そなたにはいてもらわないと困る。精霊遣い、ましてや精霊御子としての存在である。貴殿を見逃すことはできぬ」


リオン・ハーシュ、精霊遣いとして多くの精霊たちと交信をし、調和を果たし、それぞれの力を自分のものとしながら王国への脅威に対応してきた勇者、エルミンタル王国の英雄、精霊御子。その力がもたらすであろう未来には未曽有の悲劇が待ち構えていることを誰もが知らない・・・この二人以外は。


「ならば自らの信念のもとに、私は自らの道を進も・・・・」


―――パァアア


急に謁見の間には光の本流が溢れ、これまではリオン、陛下と妃殿下、重鎮たちしかいなかった空間に半透明の何かが漂っていた。その形は、動物だったり、植物だったり、人の形に近い何かだったり、定まった形は一つとしてなかったーーーーー精霊。長い歴史の中で精霊たちとの協力関係を築き上げてきたエルミンタル王国。自然と深いつながりを持ち、王国の発展に欠かせない存在となっている。精霊たちは、豊かな自然を守ることに力を注ぎ、エルミンタル王国と協力して、自然と調和した文化を築き上げてきたーーーー


「ガブリエル・フォン・エルミンタル!!!貴様!!!」


「悪く思うな、その力が我が手中に収められないのであれば、この国にとっても我らにとっても脅威にしかならぬ」


王は威厳に満ちた口調で言葉を続けた。


――――リンリンリン


白い光が輝きだし、鈴のような澄んだ音色が徐々に大きさを増していく。今にも光が膨れ上がって爆発するのかのような状況の中、リオンと王はお互いをにらみ合う。重鎮らは慌てふためき、妃殿下は少し驚いた表情で成り行きを見守っている。


「何をするつもりかわからないが!!お前を止めれば・・・!っ!聖痕法陣!!?」


今にも構えをとって王に接敵しようとしたタイミングで、幾何学的な模様がリオンを中心に一瞬で広がった。中央に佇むリオンには、黄金色に輝く蔦のようなものが絡み合っている。「聖痕法陣」、その者が抱える罪はいかほどか。罪に向かい合い告解を始めることで神に赦しを得るための儀式は、懺悔が済むまでいつしかその者を縛り付ける結界へと変貌した。


王は静かにその目を細めてリオンへと言葉を紡いだ。


「大儀であった」


「ふざけるな!!それほどまでにこの力が欲しいか!!!」


――――――――動けないリオンをよそに、より力強く光があふれだす


「そうだ、だが手に入らぬ。ならば使えないモノは捨ててしまうしかあるまい」


――――――時間はもう残されていない


「・・・必ず、必ずこの落とし前はつけてもらう!!!」


――――声なき声が空間を満たす


――



「さらばだ、リオン・ハーシュ・・・・いや、リオン・――――――」



王の発言の途中で輝きが空間を白一色に染め上げ、暗き夜空の闇も、昼間のように明るくなった。一時の間、輝く星が消えゆくように、その光も次第に収まっていった。目をこすり状況を把握しようとしている面々が確認できたのは、王たちだけがその場に残り、勇者であるリオンの姿が見られなくなったことだった。


――――――――――


身体から何かが失われるような感覚を覚えながら、リオンは光の流れにただ身を任せるしかなかった。喪失感とも呼ばれるような記憶の中で、それでもまだ感じる温もりが存在することを覚えていた。


「私は何のために・・・」


漏れ出す言葉は悔恨の念か、それとも信念を通そうとした後悔か。

一生ともいえる一瞬の中で、リオンは様々な感情を思い返していた。


――――パァアア


光が収まりゆく中で、足から感じられる大地の感触は砂のような柔らかいものであった。

徐々に周辺の環境音も聞こえるようになってきたが、ざわつく音の中でもひときわ大きな轟音も同時に聞こえていた。


「ここは・・・」


まだ目がかすむような状況で、屈した身体が見据える先には異国の服をまとった人物が一人、こちらを注視しているのを感じていた



――――リオン・ハーシュ、転移した先は現代日本だった。

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