だが火力はある
目的地は近いと言っても、一日で行ける距離ではない。新しい魔物とも遭遇したし。時間も良いところだったからログアウトして次の日になる。
「また前線が情報独占してる……」
「金積めば教えてくれるみたいだよ?」
「どーせぼったくりでしょ?」
相変わらず憂鬱な学校、何ならバイトしてる方がまだ精神衛生上良い。シードワールドオンラインの話が日に日に増えてるけど、僕には関係無い。
この日も特に何事もなく帰宅し、早速ルーフの元へと寄る。
「シャ」
「白蛇サマが起きましたよ」
「ぼぁー」
「この結界は最大三日しか持たないので、注意が必要ですね……」
ゲーム内時間は夜、ルーフはそれに合わせて言ってるはずだから……あれ?計算が合わない。と言うか昼と夜の時間が一定じゃない気もしてきた。
領主邸の戦いもそこまで時間が経ってるはずじゃないのに気付いたら朝になってたし……今度リョクさんに聞いてみよう。
ルーフはその事を知ってか知らずか結界を解いて歩き始めた。ちなみに今は僕は普通に自分で移動してる。理由は隠れずともここら辺は兵士などが来ないからだ。
ただ移動するだけじゃ暇だから魔物来ないかな。そう思っていると後ろからカサカサと音がした。
「何か来ます!」
「バァゥゥ……!」
姿を見せたのは黄ばんだ歯を見せ、長い首を持った長さ二メートルの長首恐獣。赤茶色のボサボサの毛皮を持っており、夜の時に見ると少し怖い。
昨日戦った時はルーフが本当に嫌そうな声で拒絶していた。強さ的にはリーチを生かした噛みつきや、薙ぎ払いが少し厄介。
だけど顔の部分に尻尾カウンターは出来るからそこまで脅威じゃない。白桜の氷壁でも防げたし。
「バゥゥアッ!」
「シュッ……シャアっ!」
「ぼぁー」
僕は自分から距離を詰めて噛みつきを難なく躱す。同時に氷の弾が飛んでかなりのダメージを与えた。
「シャァ!」
「バゥァアッ?!」
怯んだ隙に顔を尻尾で殴ってトドメを刺す。本当に見掛け倒しだから僕はもう慣れた。ちなみに素材は牙や毛皮だったりする。食える肉を寄越せ肉を。
「ぼぁー……」
白桜は手応えがないのかやる気がなさそうに鳴く。今の状態は所謂レベルを上げ過ぎたとなるかもしれない。気を取り直して、ルーフに着いて行こうとする。
でも今度は前から走ってくるような音がする。今度は何だろ?その正体は直ぐに分かった。
「森人……?」
簡素な革鎧を装備し、木で出来た耳飾りを付けた耳の長い小麦色の肌をした森人だった。あれ?まだ少し離れてるんじゃないの?
手斧を持っていて、背には弓矢を背負っていた。顔はフードで隠れててよく見えない。
「……白蛇サマ、様子がおかしいです」
「シャ……」
「ぼぁ……」
僕たちを見ると急に立ち止まってブツブツと何かを言っている。警戒していると唐突にこう言い始めた。
「感謝します神よ!!! 新たな生贄に出会えたことを!!!!」
「話は通じなさそうです、これが森人式の挨拶ですか」
絶対そんなことはないだろう。だけど手斧を振り回しながら襲いかかってくる。距離が近いのと踏み込みが速いから魔法は間に合わない。
「シャー!!」
「大人しく生贄になれ!!!」
だから僕は挑発を使って囮になる。真横を通る手斧にヒヤッとしながらも白桜が魔法を使う時間が出来たことを確認した。
「ぼあー!!」
これは……あ、範囲攻撃の奴じゃん?!僕が全力で後ろに飛び退いたと同時に光の弾幕が森人に向かって降り注ぐ。
「ぼあっ?!」
当の本人はやらかしてから気付いたのか申し訳なさそうな視線を僕に向けていた。だけど一撃で倒せたから問題はなし、
「ぼぁー……」
「次から気をつけてくださいね!」
「ぼぁ……」
ルーフに怒られてしょんぼりしてる白桜を他所に、森人が落としたアイテムを確認する。とりあえず倒してしまったけど、どうしようか。
落としたのは森人の木札と一錠の薬。うん、後者は絶対ヤバい物だ。ルーフに二つとも見せると首を傾げていた。
「持ち物でこれはおかしいですね……木札は私たちにとっての住民票と言うことはチラッと聞いたことはありますが」
「シャー?」
「何か嫌な予感がしますね……様子だけでも見に行った方が良い気がします」
「シャァ」
「ぼぁ」
アレが本当に森人式の挨拶ではないことを祈りつつ、僕たちは警戒しながら前に進みだしたのだった。
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