女神は都合良く現れる
ルーフは綺麗な黒髪を靡かせながら僕に回復薬を振りかける。
「間に合って良かったです」
「シャァ……」
あー生き返るー。そして聞き覚えのない、若そうだけど枯れかけている女性の声が微かに聞こえる。
「り……り、あ……!」
「ちょっと手荒な真似はしましたが、何とか母親の救出は成功しました。これでリリアのエネルギータンクは潰せたはずです。迷惑料は今から踏み倒すので心配はないですよ。少しは弱体化したはずですがまだ注意を!」
エネルギータンク……なるほど。何も分かんないけどとりあえず弱体化してくれそうなら何でも良い!
「シャ!」
「ナンダオマエハァ! マトメテコロシテヤルゥ!」
「死ぬのはそっちです!」
リリアは目にも留まらないスピードで踏み出してくる。さっきまでだったらヤバかったけど、今ならルーフが邪魔してくれる。
「魔法が効かないなら殴るまで!」
「グゥッ……」
杖をバッドのように振り回してカウンターを決める。能力は上がっても知能が下がってるのかまんまと引っかかってくれた。
出来れば今の内に白桜の回復を……。
「ツブセェ!」
「シャァっ?!」
「流石にそれくらいの知性は残ってましたねっ!」
あっぶないなもう?!僕たちは何か見るからにヤバそうな、バスケットボール大のエネルギーの塊を豪速球で投げられた。
狙いが甘かったからギリギリ避けられた。だけど何度もやれたら防戦一方になってしまう。ルーフの覚醒のリミットが分からない以上は攻めないといけない。
「カースドランスで相殺を狙うので、白蛇サマが動きを止めてください!」
「シャァー!」
もっと結界魔法を使わせておくべきだった。でも後悔しても遅いからルーフの策に賭けるしかない。次で投げて来るのが三回目、少し狙いが良くなってるからこれを逃すと不味いかも。
「ツギハアテルゥ!」
「……今です! 《カースドランス》!」
「シュゥっ」
頭上で爆破音がする中、僕は地面を這って距離を詰める。ぶっちゃけ動きを止めれるような攻撃手段は皆無だ。だけどヘイトを僕に向かせることなら出来るはず。
「シャァア!!」
僕は全力でリリアを小馬鹿にするような鳴き声を響かせ、挑発を発動させる。それはもう精一杯小馬鹿にした。その甲斐あってか殺意が完全に僕に向く。
「コロスコロスコロスコロスゥ!」
「シャァ……」
額に黒い血管を滲ませて大剣を振り上げる。その姿はルーフにとっては隙だらけだ。
「潰れっろぉおっ!!!」
間違っても美少女が言わないような台詞を叫びながら杖が脳天に鈍い音を立てながら直撃し、リリアが屋敷の壁に激突した。
「ゴフッ……マ、マダオワルワケニハ……」
「死んでください」
ルーフは追撃で容赦なく殴り、それと同時に覚醒が終わってその場に座り込んだ。空を見ると夜明けが近い。とりあえず勝てた、のかな?
「白蛇サマ……詳しいお話は後です、白桜ちゃんを回収してここを離れ」
「ァァァァアアアア!!!!」
突如後ろから倒したはずのリリアの絶叫が聞こえる。何で……ってアイテムとかになってないからまだ生きてたじゃん?!
油断してた、いくら弱ってるとは言え今のルーフを狙われたら一発で終わりだ。僕が庇ったとしても耐え切れるかは分からない。
「ミチズレ、ダァ!!!」
リリアはそう言いながら大剣で自分の腹を乱暴にぶっ刺した。一体何を……と警戒すると悪魔知識が働いたのか目的が分かってしまった。
「まさか自爆……?!」
「シャァア?!」
「スベテオワリダァ!」
リリアの身体は見る見る内に醜く肥大する。今受けたら一溜まりもない。分かったのは自爆することだけ、範囲も威力も分からない。
仮に今急いで走ったとしても助かるか分からない。しかも既に破裂しかけてる風船レベルにまで膨らんでいる。
今度こそ終わったかも……。せめて少しでもルーフを守ろうとしたその時、この場に似つかわしくない呑気な鳴き声が離れた所から微かに聞こえた。
「……ぁ、ぼあー?」
「白桜ちゃん逃げて!」
「ぼあ? ぼぁあー」
ここに来てよく分かってなさそうな返答をされる。仮にも神がついてる種族なんだからこういう時くらいはしっかりして欲しいなぁ?!
リリアは爆発するまで秒読みだろう。目を瞑り覚悟を決める。
「ぼあー……ぼあ!! ぼぁぁあ!!!」
でもまだ神はまだ居た。白桜は何かを思い出したような鳴き声を上げながら跳ねて近づいて来る。
「ダメです逃げて!!」
「ぼぁあー……ぼぁあ!」
白桜は魔法を発動させようとする、アレは多分祝属性の……?レベルも一だからバフを付与する物しか使えないはずだけど、それをリリアに使った。
その瞬間、爆破寸前のリリアの身体に異変が起きる。
「ァ……ナンデェ……? イタイイタイイタイ!」
足先から乾いた音がしながら身体が崩壊したのだ。ほぼ球体になっていた身体はドンドン縮んでいき、最終的には元の大きさになって全身が崩壊した。
「ぼあ!」
「た、助かりました……?」
「シャ、シャァ……」
祝属性弱点だった……?運が良かったとしか言いようがないけど白桜は後で沢山褒めよう、うん。今度こそ終わりだと思った時、リリアが倒れた場所に綺麗な黒い大きめのダイヤモンドが落ちていた。
鑑定をしようとしても何も出来ない。でもめっちゃ怪しいけど……。
「これは一体……」
「シャ?」
「ぼぁ?」
ルーフがそれを拾うと、キラキラと黒いオーラを纏わせて手から離れる。僕たちが見上げるとソレはルーフの心臓辺りに吸い込まれる。
「うっ……こ、これは……」
「シャ……?」
「ぼぁあー……?」
「新しい力……? わたし自身に害のある物では無かったので安心してください」
「シャー」
それなら良かった。ここまで死亡とか洒落にならない。僕たちは全員生存でリリアを倒すことが出来たのだ。
「領主様を探すと同時に下手人も捕まえろ!」
「衛兵が来てしまいましたね……一旦ここを離れましょう。目に付く物は既に回収しましたからもうここに来ることは二度とないでしょう。それに母親はここに残しておいた方が後が楽です」
「シャア!」
「ぼあ!」
そうして僕たちは逃げるために、戦いの最中で壊れた所から逃げたのだった。
読んで頂きありがとうございます。崩壊スターレイルやペルソナ3、trpgをしていたため大幅に更新が遅れてしまい申し訳ありません。ストックすら無いので何とか近日中に次話を書き上げます。




