希望と詰み
リリアは軽やかな動きで斬りつけてくる。
「シャァっ」
「ここ最近強力な魔物と戦う機会が少なかったから、鈍ってないか心配だわ」
「シュゥっ?!」
「元気な魔物ねっ!」
ほぼ直感とお祈りで連撃を躱して後ろへ飛ぶ。隙が無いから攻撃が出来ない。まるで剣が唸るように来るから避けるだけでも一苦労だ。
悔しいけどリリアの方が近接戦は上だろう。僕はまた距離を詰められる前に炎槍を撃つ。
「シャア!」
「危ないわね」
「シャァ……」
リリアは炎槍に当たる直前に、ダンスのステップを踏むように横へと動いて避けた。そして直ぐに体制を立て直して短剣を構える。
でも裏を返せば魔法は効く可能性があること。ちゃんと狙って撃ったら当たるかもしれない。そう考えてる内に、魔法を撃った後の一瞬の硬直でまた近接戦に持ち込まれる。
「余裕がなさそうね?」
「シャァっシュっ!」
右から来ると思ったら左から剣が見えるし、夜目が無かったら既に詰んでたかもしれない。加えてオーラのせいで剣の軌道が見え難い。
直撃は避けてるけど完璧じゃないから少しづつ小さなダメージが蓄積してる。なんとか反撃しないと。僕は攻撃が少しでも緩くなるタイミングを探す。
「そろそろスキルでも使おうかしら、《連斬》」
聞くだけで痛そうなスキル、だけどリリアの連撃が一瞬止まった。そこを見逃さずに股の下を潜って背後を取った。
まだリリアはスキルのモーション中。今なら尻尾が入る!そこまで余裕がある訳じゃないから最低限の力だけ込めて、気合いだけは背骨を破壊する勢いで叩きつける。
「そう上手く行く訳ないでしょう?」
「シャァ?!」
尻尾が背中に当たる寸前で、リリアはもう片方の手に新しく短剣を出して尻尾を弾いた。見えてないのにどうやって……。
「壊れちゃったわね……もしもの保険として持っておいて良かったわ」
「シャァ……」
その短剣はヒビが入り、使い物にならなくなっていた。オーラもないから普通の短剣だろうけど今のが当たらなかったのは非常に不味い。
「もう同じ手は使えないわ、お互いね」
「シュゥ……シャっ!」
何かされる前に今度は僕から攻める。どちらにせよ僕もリリアも近付かなきゃ始まらない。炎槍を放ってからそれを追うように距離を縮めて行く。
地面スレスレになるように撃ったからリリアからは炎槍で僕の姿が見え辛いはず。
「また? 当たらないわよ」
「シャァアっ!」
「うっ……」
狙いは炎槍を避けた後だ。今回は右に足を踏み出そうとしてるから、ちょうどそのタイミングに合わせて回り込んで火球を放つ。
一回目の時に回避する時は構えを解いて、急な方向転換が出来なさそうな避け方をするのは何となく分かった。だから僕も踊るようにして反撃したのだ。
僕の読み通り火球は当たって初のダメージを与えた。それともう一つリリアの癖であり弱点が見えた気がする、それは妙に最小限の動きだけで済ませようとすること。
当たり前のことに思えるけど、僕には体力不足を補ってるように見える。僕が体育の時に体力の消耗を抑えるためにバレないようにサボってる感じだ。
でもあんな回避の仕方をするのは格好付けたいからだろうか。分からないけど、厄介なことには変わらないからさっさと決着を付けるしかない。
「もっと早く処理しておけば良かったわっ! 《牙突》!」
「シャアっ!」
「くっ……」
スキルを多発しない理由も体力不足だろう。落ち着いてスキルから避け、脚に噛み付く。にっっっが!何これ食えたもんじゃない。
「魔物風情がやってくれるわね……《起動》」
このまま僕は追撃として尻尾で叩こうと思った。だけど本能が警鐘を鳴らす。その場から逃げるとリリアの全身がドス黒いオーラで包まれていた。
「悪魔よ! 私に力を! ぁ〝あ〝あ〝あ〝!!!」
額からは角が生え、背中からは骨で出来た羽が生え、目は黒く染まり、短剣も骨で出来た大剣になっていた。ちょっとこれはヤバい気が。
その時、僕は無意識で身体を後ろに動かす。そして遅れて地面が割れる音がした。目の前には大剣が振り下ろされている。
何も見えなかった。いきなり負けイベ始まった……?そう思わせるほどには理不尽に思えた。白桜はまだ起きていない、ルーフもまだ来ない。あ、詰んだかも。
そんな都合良くパワーアップされたら笑うしかない。けどここで諦める訳にはいかないから、次の攻撃が来る前に火球を撃って距離を取ろうとする。
「シィッネェッ!」
「シャア〝っ?!」
今リリアが使ってる起動の効果の一つはステータスの上昇だ。だから火球程度は何ともなくなったのだろう。尻尾を掴まれて叩きつけられる。
HPがゴリっと減って一気に危険域になる。難易度おかしくない?!しかもまだ尻尾はまだ握られたまま。今度こそダメかもしれない。
「シャ……ァアっ!」
「キカナイッ!!」
至近距離で炎槍を撃つも片手でかき消された。MPもそろそろ空になる。終わった……。リリアは僕を振り上げ、地面に叩きつけようとする。
「シネェエ!」
「死ぬのはそっちですっ!」
だけど都合が良いのは僕も同じだったみたい、窓が破れる音と同時に聞き慣れた声が聞こえた。その声は片手で誰かを抱えたまま、ドロップキックでリリアを怯ませて僕を手から引っこ抜く。
「お待たせしました、白蛇サマ」
「シャ、ァ……」
僕の女神、ルーフがやっと来てくれた。
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