日本語喋りたい
あれから十分くらい経ちました、全然泣き止んでくれません。僕もなんだか泣きそうになってきた。とりあえずじっとしててもどうしようない。
だからステータス画面などを確認することにした。本当に自由とはなんだったのだろう。
名前:ハク
種族:白蛇lv1
HP:250/250 MP:150/150 空腹:100/100
筋力:25
頑丈:25
器用:5
敏捷:30
精神:15
知力:30
SP:0
スキル:【毒牙lv1】【火属性魔法lv1】【物理耐性lv1】【暗視lv1】【蛇語】【氷属性弱点】【麻痺弱点】
装備:専用装備【空白】【空白】【空白】【空白】
ステータスはこんな感じ。暗いこの空間でも周りが見えるのは暗視のお陰だろう。それに球体が言ってた通り能力は高いのだろう。
白蛇は職業が取れず、装備も特殊な物か専用に作られた物しか装備出来ないが通常よりも枠は二つ多い。スキルはレベルが五になる度に一つ取れるみたいだ。
スキルのレベルを上げる方法は使い続けるしかない、説明はこんな感じだった。確認を終えた僕はもう一度周りを見渡す。
壁も床も全部木、この場所の広さはそこまでない。それに扉は引き戸でしっかり閉められていた。と言う事はこの建物は……いわゆる生贄を捧げる社?
「シ……」
「な、なに……?」
思わずまた鳴きかけてしまった。こうしている合間にやっと美少女が泣き止みかけてきていたから油断してはならない。
とりあえず移動を……身体がぐにゃぐにゃするぅ……。変な感覚に襲われながらもこの場を探索する。すると床の隅に穴が空いていた。
「シャ……?」
その穴はよく見ると地面に繋がっていた。もしかしたら外に出られるかもしれない。その時、美少女の方からぐぅと言う音が聞こえる。
「お腹……空いた……うぅ……」
「シャァ……」
「た、たべないで……」
その正体は腹の虫だった。それと同時に一つの画面が現れる。
『特殊クエスト、【少女の空腹を満たせ】が開始しました。詳細を開きます』
特殊クエスト……?ここから出ようとしたのがフラグだったのだろうか。
【少女の空腹を癒せ】
時間制限:1時間
達成条件:少女が食べられる食料を探してここまで持ってくる
失敗条件:1時間経過
達成報酬:不明
美少女の腹の虫がもう一度鳴る。何もかも分からないけど僕には目の前の美少女を見捨てるほど畜生ではない。
それに達成報酬も気になった、時間制限もあるから急がないと。
「シャー!」
「し、白蛇サマ……?」
僕は穴に飛び込んでこの場所を脱出する。降りた先は薄暗く狭いけど白蛇になってしまった僕には何の問題もない。
シュルシュルと移動して行き、明るい場所へと出て見上げるとそこは森だった。
「シャー? シャー」
人の姿は特に見当たらない。今のゲーム内時間は昼のようだ。僕も空腹度が減ると不味いし、ゲーム内時間は五時間毎に昼と夜を繰り返すと説明に書かれている。
夜になると強力な敵などが出やすくなるから出来れば早く済ませてしまいたい。ちなみに何で少女のことを美少女と言ってるかは理由がある。
スポーンした瞬間、幼い子供とは思えない程の整った顔が一瞬見えたからだ。そんなくだらない事を思い返しつつ僕は探索を開始する。
木の密度はそこまで高くないからとても明るい、だけど丈の高い草が多いから僕みたいな存在だったら簡単に隠れられるし、地面に何かあっても見落としてしまう。
数分後、移動に少しつつ慣れてきた頃に突然頭に強い衝撃が加わった。
「シャアっ?!」
「グギャギャァッ!」
「シャー!」
犯人は緑の皮膚に傷付きながらもしっかりとした革の鎧を着た体格が良い人型の存在、ゴブリンだった。あれ?こんなに強そうだっけ?
当たったら痛そうなスパイク付きの棍棒持ってるし。もっとこう弱そうな感じじゃないの?色々突っ込みたいけどHPを見ると数ミリ減ってた。
ゴブリンの方は予め草を刈り取ったのか動き易そうだし……って何か投げてくる?!
「ギャッ!」
「シャっ……!」
投げられたのは大きめの石、さっき頭に当たったのもコレだろう。僕は身体を跳ねさせるようにして躱した。そして接近する。
「シャー!」
「ギャ?! ギャ!!」
「シャァ!」
「グギャギャ!」
日本語喋りたい、お互い鳴き声しか発せないから途中で虚しい気持ちになってきた。ある程度近づいたところで魔法を使う。
「シャー」
火球を撃つつもりで鳴いたところ、ちゃんと魔法陣が浮かんで発射された。
「ギャッ?!?! ギャギャギャ!」
ゴブリンは熱かったのか悲鳴を上げた。その隙に腕へと噛み付く。正直言ってめっちゃ苦い、今すぐぺってしたいけど我慢する。
「シュゥゥ!」
「グギャァ!」
痛い!とでも言うように腕を振り回す。だけど僕の方が力が強いのかゴブリンがドンドン弱っていき、遂に動かなくなる。
「シャ、シャァ……」
そしてポリゴンの欠片になって消えた。初めての戦闘を無事に勝利した僕は戦利品の戦士小鬼の布切れと言う特に嬉しくない物を得て、また探索を再開した。
読んで頂きありがとうございます