誰か助けて(自業自得)
えー……皆さんこんにちは。僕は今現在とても大変な状況になっています。あ、自己紹介がまだでしたね。魂音流蛇と申します。
性別は女の子で十七歳です。そして何が大変かと言うと……。
「た、たべないで白蛇サマ……ママぁ……ここから出して」
巫女服を着た美少女に目の前で土下座されながら泣かれています。字面だけ見たら完全にアウト、警察のお世話になりそうな状況です。
周りは暗いけど僕には不思議とよく見える。視線は地面に近くなってるけど。とりあえずこの状況を何とかしなければならない。僕は口を開き言葉を発しようとした。
「シャー」
「ひぃっ?!」
……そろそろ現実逃避は止めようか。いくら考えた所で何も変わらない。何故目の前の美少女から恐れられているのか、その理由は一つ。
「シャー……」
「ぐすんっ……誰か助けて……」
僕の今の姿は白蛇だからである。何故こうなったかは数十分前に遡らなければならない。
…………………………
「僕のバイト代の結晶……!」
僕は箱を開けてゴーグル型の機械を取り出し、そしてもう一つ大事な物を取り出した。それはゲーム、シードワールドオンラインだ。
世はVRMMORPG戦争、技術力が進み実際にゲームの中に入れる物を開発したのだ。そこからは数多のゲームが生まれて世界中にそのブームは広がった。
その中で生まれたのがシードワールドオンライン。これまでのゲームは何処か違和感があったりNPCとの会話パターンが限られてたり、行ける場所が少なかったりしていた。
だけど現実と遜色が無いレベルにまで再現に成功したのだ。発売された当初は抽選方式でかなりの値段だったにも関わらずウン千倍と言う倍率が付いた。
そこから一年経った今日、僕みたいな学生が買えるレベルにまで何とか落ち着いた。
「これで友達は……出来ないよね……」
僕は言うなればぼっちに近い。喋るのが苦手という訳では無いけど友達作りも中々上手くいかず、やっとの想いで出来た友達も引っ越してしまって連絡こそ取り合ってるけど会うことはほとんど無い。
そんな僕は着々と準備を終わらせてゴーグル型のVR機器を被る。スイッチを入れると電子音が鳴って視界は暗転した。
折角だから何か面白いことをしたい、そう思いながら暗転が終わると雲の上のような場所に立っている。
「ようこそシードワールドオンラインへ、キャラメイクを開始しますか?」
「は、はい」
僕の前には白色のふわふわとした球体があり、そこから機械的な声が聞こえた。想像の数十倍リアルな景色に驚きつつも声に応えた。
「ゲームの説明を聞きますか?」
「聞きます」
「分かりました。シードワールドオンラインは広大なマップを駆け巡り、自由に様々なことが出来る新時代のVRMMORPGです。プレイヤーは多種多様な種族と職業を選び戦闘や生産、農業など様々なプレイを可能としています。他にも特殊な事も出来ますが説明は以上です」
「ふむふむ……」
「では種族を一覧から選んでください」
僕の前に画面が現れる。
選択可能種族一覧
・人間
・森人
・森半人
・地下人
・獣人種
・妖精
・吸血鬼
・亜人種
……………………
………………
………
「多過ぎる!」
思わず突っ込んでしまった。多種多様とは言われたが本当にそうだった。それぞれ詳細画面があるけど全部読んでたら日が暮れてしまう。
獣人種だったり亜人種は更に種類を細かく指定出来るみたいだ。楽しみたいから事前知識はほぼ無いに等しい状態からしたけど失敗だったかもしれない。
悩んでいると球体から声がかかる。
「お悩みでしたらランダムボタンはどうでしょう?」
「ランダムボタン?」
「はい、一部を除いた全ての種族からランダムに一つ選ばれます。もしかしたら一覧に無い希少な種族も選出される確率があります。ですが決まったら変更は不可能になります、運営のお遊びですね。この機能を使ったプレイヤーは現在四%です、使いますか?」
「……ちょっと悩ませて」
メリットはとても興味があった、低確率だろうけど僕にはそれを引き当てるだけの運があると何となく自覚している。
例えばソシャゲでピックアップのキャラを単発で当てたり、ドロップ確率が低いアイテムを連続で出したり。僕はゲームの中だけは運が良かった。
今回もそれが働くと信じて選ぶのは良いけど、それで固定されるのは困る。てか運営のお遊びって言っちゃってるし。
悩んだ末に僕は首を縦に振った。
「します」
「本当によろしいですか?」
「大丈夫です」
「……分かりました、では開始します」
「へ?」
その瞬間に目の前の球体はガチャガチャに変わった。僕は理解が一瞬追いつかなかったけど勝手に回されてカプセルが一個出てくる。
「完了しました、結果は……白蛇です」
「白蛇……?」
「可哀想に……管理AIに振り直し要求を……ダメでしたか」
「可哀想?」
「何でもありません、では次はキャラメイクですが……特殊な種族を引いたため少々お覚悟を」
この球体可哀想って言った……僕を置いてけぼりにして少し時間が経つと、突然視界が地面と近くなる。そして鏡が用意されて僕の姿が映る。
「蛇……?」
「非常に申し訳ありませんが貴女の姿は白蛇の姿になりました、変更出来る要素もほとんどありません。後で運営を〆るのでご容赦を」
「え、あ、うん?」
「それに伴い開始地点も変更になります、チュートリアルエリアを生成します」
景色が雲の上から草原へと変わった。僕は鏡をもう一度見る、確かに現実で見る蛇を白くして、目は赤く、少しデフォルメした姿だ。
大きさは大体一メートルほど、瞬きをしてもその姿は変わらない。
「私が……この子を支えなきゃ……」
AIも自由に喋るんだ、声もさっきから女性になってるし……ってそんな事を気にしている場合ではない。とりあえず僕は一旦現実を受け入れてこの身体に慣れるために動く。
「移動は出来ますか?」
「何とか……」
「では模擬戦闘のため、敵を生成します」
するとウサギにツノが生えた動物が出現する。
「貴女の種族は少々、いえかなり特殊ですが初期からステータスが高いです。物理ダメージを軽減し、魔法と噛み付くことによって稀に敵を毒の状態に出来ます。ですがレベルアップに必要な経験値が多く、麻痺と氷に弱いのでご注意を」
「わ、分かりました!」
「貴女が今使える魔法は火球のみです、力を溜めるイメージをして火球と唱えてください」
「えーと……《火球》!」
「きゅいっ……」
赤い魔法陣が浮かぶとそこからサッカーボールくらいの火の球が飛んで行き、ウサギに当たった。
「お疲れ様です、最後に名前を設定してください」
「名前……ならハクは?」
「問題ありません」
「よしっ」
「ではこれにて終了します、御武運を。何か辛かったから私の元へと来れるように設定しておきます。それと最後に重要な事を……」
「?」
「チュートリアル終了後、この空間以外ではハクの言語は蛇の言葉しか話せなくなります。詠唱などには影響しないのでご安心を。その他ステータス画面を開きたい時は念じれば開けます。本当に……頑張ってください、私はいつでもハクの事を見守ります」
「蛇の言葉? え、あ、まっ」
そうして僕は視界がまた暗転し、冒頭へと戻る。既に頭がパンクしそうだ。また現実逃避しそうな意識を必死に戻して目の前の美少女を見る。
「助けて……助けて……」
僕も助けて欲しい。自業自得なのは分かるけどこんな事は予想してなかった。これじゃ意思疎通すら出来ない、僕は目の前の美少女が泣き止むまで黙るしかなかった。
読んで頂きありがとうございます、勢い十割となっておりますので生温かい目で見守ってください。