晩御飯【再修正済】
私は、必死で気持ちを切り替えて、玄関からリビングに入った。
時計を見ると、夫が、帰宅するまで後一時間半しかなかった。
スーパーの袋から、急いで牛豚ミンチを取り出した。手を洗って、玉ねぎをみじん切りにしながら泣く。
その後、人参をみじん切りにして、ピーマンのヘタの部分も細かく切って入れる。
私は、今ピーマンの肉詰めを作っている!
材料を混ぜながら、玉ねぎのせいにして私はひたすら泣き続けていた。
ピーマンにお肉を詰めてフライパンに並べて、味付けをして、蓋をして、煮込んでる間にご飯を炊いて、椎茸とあげの味噌汁も作った。
それが終わると、手を洗ってから洗濯物を取りに行く。
中古でありながら、私達夫婦は、戸建てを買う事に決めた。
そんな私に雪乃が【家を先に買うと子供は出来ないらしいよ】と言って鼻で笑ったのを思い出す。
この家の箱みたいな庭が気に入った私と夫は迷う事なくこの家を購入していた。雪乃の言葉通り、買うのをやめておけば、よかった。
私は、泣きそうになるのを堪えながら、庭から洗濯物を取り込む。
そして、いったん洗濯物を置くとキッチンに向かって行く。キッチンで、ピーマンの肉詰めの火を弱火にしてからまたリビングに戻った。
戻るとすぐに、取り込んだ洗濯物を畳み始める。
近所は、子連ればっかり……。小さな服が洗濯されて揺れてるのを見ながらいつかそっちに、いつかそっちにと祈るような気持ちで見つめながら毎日洗濯物を干している。
友人のSNSや親戚の投稿も見つめながらも、私もこっちに私もこっちにって祈りながらハートをつけていた。
だけど、何の祈りも届く事はなかった。
「ただいまーー」
「おかえり」
洗濯物を畳み終わると同時に夫が帰宅した。
「めちゃくちゃいい匂いだね」
「今日は、ピーマンの肉詰めだよ」
「やったーー!シャワー入ってくる」
「湯船のスイッチ、押したらお湯入れれるよ」
「あーー、今日は、いいや」
「わかった!じゃあ、ご飯の用意しておくね」
「うん」
夫は、そう言ってお風呂場に向かう。私は、洗濯物を寝室のクローゼットにしまってから、キッチンに行く。
キッチンにつき、ピーマンの肉詰めを確認するといい感じに煮えていた。
火を止めてから、お皿に盛り付け、トレーに並べて持って行く。
晩御飯を全てダイニングテーブルに並べ終わった頃、夫がリビングにやってきた。
私は、キッチンに戻り、グラスに水を注いだ。
「はい」
「ありがとう」
夫に水を渡した。夫の名前は、皆月龍次郎。
「龍ちゃん」
「何?」
「ご飯食べながら、話がある」
「うん、わかった」
「ビールは?」
「いる」
「持って行くから座ってて」
「わかった」
私は、冷蔵庫からビールを取り出して夫に渡す。
「はい」
「ありがとう」
「じゃあ、冷めないうちに食べようか」
「うん」
『いただきます』
いつものように、二人きりの食事が始まる。結婚して、13年。慣れたものだよね。
「美味しい」
「よかった」
龍ちゃんは、必ずご飯を食べる時に美味しいって言ってくれる。友人の美貴ちゃんが【旦那は美味しいも言わないの】ってSNSに投稿していたのを思い出した。
「やっぱり、凛の料理は最高だよ」
「うん、ありがとう」
私は、龍ちゃんに愛されているのをちゃんとわかっている。
わかっているけど、物足りない……。