高崎LOVERS 25 父と子
2月のまだまだ寒い日の夕暮れに
田中は柳川町の焼き鳥屋で一人飲んでいる
ここは田中が昔から馴染みにしている高崎では少し高級な焼き鳥屋だ
遠くから来た友人と会う時や
仕事の接待などで良く使ってきた
カウンターに座ればあとはお任せで旬の食材を焼いてくれる
田中はキープしている米焼酎を炭酸割で飲む
開店から間もないというのにすでに店内は混み合ってきている
入り口の引き戸を開けて背の高い若者が入ってきた
息子の奏助だ
お、もうきてたんだ
おお〜、こっちこっち
奏助は田中の横に腰掛けた
ビールで良いか?
父さんは何飲んでるの?
オレはコレだよ
焼酎ね
んじゃオレもグラス貰おうかな
米焼酎の炭酸割で親子で乾杯をした
父さんから誘ってもらうなんて珍しいじゃん
いや〜先日の林さんの件では助けて貰ったからな
あ〜、公園でバスケやってたんだって?
ああ。今の子は大変だよなぁ
まぁいつの時代も同じでしょ
父さんだってオレが小さい時は結構厳しかったぜ
はは、そんな時もあったか
オレも若かったんだろうな
まぁオレは勉強嫌いだったから父さんや母さんには心配かけたんだろうけどね
お、ちょいと分かってきたじゃないか
そりゃぁね
カウンター越しに焼き鳥が出てくる
苦手なものはないですよね?田中さん
大丈夫だよ。奏助は?
オレも何でも大丈夫です
田中さんこんな大きな息子さんいたんですねぇ
そう言えばここには小さい時に何回か連れてきたくらいだもんな
ん〜覚えてないなオレは
仕事は順調なのか?
まぁまぁね
父さんこそ一人で大丈夫なの?
まぁのんびりやってるよ。母さんもそのうち帰ってくるだろ
気ままだよなぁ母さんも
奏も母さんに似て好きにやってるみたいだしね
奏がちょいちょい帰ってきてくれるから間が持って助かってるけどな
奏には甘いからね〜父さんは
そりゃ末っ子の娘には甘くなるよ父親はさ
そんなもんかねぇ
奏助が田中のグラスに焼酎を足した
店の中は焼き鳥の良い匂いで包まれてきている
でもオレは父さんに厳しく教わって良かったと思ってるよ
そんな厳しかったか?
まぁ
嘘をつくなとかさ
箸の上げ下げとか
靴をキレイにしろとか
自分も大人になると他の人の行動が目につくもん
大学に入学した時にしばらく一緒に二人で過ごしたじゃん?
あぁ、2週間くらいだっけか
あの時に大人の男の所作みたいなの教えてくれたよね
そうだっけ?何言ってたオレ?
ん〜?
ギャンブルするなとか
人に金借りるなとか
他人の金で酒飲むなとかね
あとは寿司屋とか飲み屋での振る舞い方とかかな
そんな事を言ったっけなぁ
まぁ今となればあの時に教わった時に大人になったような気がしたんだよなぁ
大学から家を出た奏助と二人でこうして酒を飲んだ事があっただろうか
背中を丸めてカウンターで酒を飲む息子が
初めて見る人のように思えてきた
立派になったな奏助
なんだよそれ
まぁ仕事も慣れてきたし、また声かけてよ
おお、ちょくちょく飲み行こうや
そんな飲んでて大丈夫なの?
人をアル中みたいに言うなって
んじゃ夜風にあたりながら帰ろうか
そうだね。父さん転ばないでよ
大きくなった息子の顔を見上げながら
田中はコートを羽織った




