高崎LOVERS 19 群馬の森
すっかり寒くなった晩秋の昼間に
田中はふと思いついて
愛車の白いビートルに乗り込んだ
今や若者は誰も知らないであろうCDチェンジャーから流れるのは
田中の青春時代のBGM
サザンオールスターズだ
歌い慣れた曲を口ずさみながら
県道354号線を東に進む
運転中に甘い缶コーヒーを飲むのは
これまた田中の若い時からの習慣だ
ついに今月からは温か〜い缶コーヒーに入れ替えられたようだ
ここ数年ですっかり沿道沿いの風景が変わった354を眺めつつ
巨大なこんにゃく工場を横目に県道13号に入る
すると
若き日に足繁く通った群馬の森が見えて来た
真っ赤な落ち葉を踏みしだいて
白いビートルを停めた
群馬の森
なんて事はない
木々の多い広大な公園だが
ここには多くの思い出が残してある
幼き日に若かった母に連れて来てもらった記憶が薄っすらある
深い森の大きな木々に恐怖感さえ覚えたものだ
帰り道に喫茶店コロラドに寄り
お父さんと最初にデートに来たのよ
と聞いた時の光景が
今もセピア色の映画のように頭の中にある
その思い出を辿るように
学生時代は後の妻となる彼女を連れて
何度も足を運んだものだ
まぁオレも結局マザコンって事か
思い出しては呟く
広大な広場は枯れた芝が綺麗に刈られている
空っ風が吹き荒ぶひと足手前の季節を
外で楽しむ高崎市民が多い
子供達が小さい時にも良く来たんだよな
娘の奏が小さい時
よちよち歩きの奏を一生懸命ビデオに撮った
群馬交響楽団の演奏会にも毎年通ったものだ
まだやってるのかなぁ
森のオーケストラ
音楽はそっちのけで遊具で遊ぶ子供たちの姿が目に浮かぶ
群馬は子育てをするには本当に良い環境だった
のびのびと育った子供達は
のびのびと家を出て行ってしまったが
それも人生だろう
ゆっくりと散歩を楽しみつつ
奥の池まで1キロ近い距離を歩いた
ベンチに積もった落ち葉を払い腰を下ろす
近くには誰もいない
高い木々から落ちる枯れ葉の音だけが聞こえる
田中はリュックから自分で握って来たおにぎりと
熱々のほうじ茶が入った水筒を取り出した
今日は朝起きた時から
無性にこの池を眺めながらおにぎりを食べたいと思ったのだ
目論見通りひと気のない池の端で
塩むすびを食べ
熱いほうじ茶を啜る
晩秋の修景池の眺めはもはや絵画のようだ
群馬の森
何とは無しに自分の人生で訪れた場所
母、妻、そして子供の思い出が残る場所
今日の一日もまた思い出に残るのだろうか
二個目の小さな塩むすびを口に放り込むと
田中はゆっくりと立ち上がった




